65、歴史認識・「徴用工」・「慰安婦」・「靖国」
侵略戦争と植民地支配の反省の上に、アジア各国との友好・信頼関係の構築を
2021年10月
日本が過去におこした侵略戦争と植民地支配にどう向き合うかは、国際社会とりわけアジア諸国との関係で問われる課題です。
世界に広がる「ブラック・ライブズ・マター」の運動。侵略戦争と植民地支配を問い直す声
米国の白人警察官が黒人男性のジョージ・フロイドさんを殺害した事件は、人種差別に対する広範な怒りをよび、それに連帯する運動は世界に広がりました。こうしたなか、かつての植民地主義にかかわった人物の記念碑や像が次々と撤去され、ベルギー国王は同国が75年間にわたる植民地支配により、多大な「苦しみと屈辱」を現地の人々にもたらしたとして、「深い後悔」をつづった書簡をコンゴ大統領に送付するという動きが伝えられるなど、人種差別に反対する動きとともに、かつての植民地支配、さらには奴隷貿易など非人道的な行為の責任を問い直し、反省を迫る動きが大きなうねりになってきました。国連総会でも、アフリカや中米諸国が植民地支配の責任を過去にさかのぼって追求する発言を行っています。
侵略戦争と植民地支配、それによってもたらされた人権侵害などにどう向きあうかは、今日の世界では避けては通れない課題となっています。
安倍・菅両政権が過去の侵略戦争と植民地支配に対する責任を明確にせず、逆に正当化する立場に固執してきたこと、その誤った歴史認識が、周辺国や国際社会との関係で大きな矛盾や問題を生み出してきました。
岸田新政権がこの問題にどう向き合うのかが、アジア諸国はもとより国際社会全体からも問われています。
日本共産党は、日本が過去におこした侵略戦争と植民地支配を正当化する動きに強く反対するとともに、北アジアの地域の平和と安定のために、日本がとるべき五つの基本姿勢を提唱しています。
第一は、「村山談話」「河野談話」の核心的内容を継承し、談話の精神にふさわしい行動をとり、談話を否定する動きに対してきっぱりと反論することです。
第二は、日本軍「慰安婦」問題について、被害者への謝罪と賠償など、人間としての尊厳が回復される解決に踏み出すことです。
第三は、少なくとも首相や閣僚による靖国参拝は行わないことを、日本の政治のルールとして確立することです。
第四は、民族差別をあおるヘイトスピーチを根絶するために、立法措置も含めて、政治が断固たる立場に立つことです。
第五は、「村山談話」「河野談話」で政府が表明してきた過去の誤りへの反省の立場を、学校の教科書に誠実かつ真剣に反映させる努力をつくすことです。
韓国の「徴用工」訴訟に、日本政府・企業は誠実に向きあうべき
第2次世界大戦中、日本の植民地支配のもとにあった朝鮮半島から、多くの朝鮮人が日本本土に連れてこられ、日本企業の工場や炭鉱などで強制的に働かされました。いわゆる「徴用工」と呼ばれた人たちです。虐待や食事を与えられないなど過酷な環境で重労働を強いられ、死傷者も少なくありませんでした。賃金が支払われなかった例も多くあります。韓国政府が認定している被害者の数だけでも22万人に上ります。
韓国大法院(最高裁判所)は2018年秋、元徴用工の訴えを受け、「日本の植民地支配と直結した反人道的不法行為」との判断を示し、企業の賠償責任を認めました。
これについて日本政府は、1965年に締結された「日韓請求権協定」で、両国間の問題は「完全かつ最終的に解決している」と判決を拒否し、韓国を非難する態度をとっています。
その後の徴用工問題をめぐる韓国司法の動きはさまざま報じられていますが、韓国人元徴用工の本質が侵略戦争と植民地支配の遂行と一体に行われた深刻な人権侵害であるという原則的見地に立ってこそ、なによりも被害者の名誉と尊厳を回復、解決への道につながると考えます。
「徴用工」問題は、劣悪な環境、重労働、虐待などによって少なくない人々の命を奪ったという、侵略戦争・植民地支配と結びついた重大な人権問題であり、日本政府や該当企業がこれらの被害者に対して明確な謝罪や反省を表明してこなかったことも事実です。日本政府と該当企業は、被害者の名誉と尊厳を回復し、公正な解決をはかるために努力をつくすべきだと考えます。
「日韓請求権協定」と個人の請求権
日本政府は、1965年に日本と韓国のあいだで結ばれた「日韓請求権協定」によって、日韓両国間での請求権問題は「解決済み」だとしています。しかし、被害にあった個々の人たちの請求権までを消滅させたものではありません。そのことは、日本政府が国会答弁などで公式に繰り返し表明してきたことです。
1991年、当時の柳井俊二外務省条約局長は、「日韓請求権協定」で、両国間の請求権の問題が「完全かつ最終的に解決」されたとのべていることの意味を問われ、「これは日韓両国が国家として持っている外交保護権を相互に放棄したということ」であり、「個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたものではない」と答弁しています。
2018年11月14日、河野太郎外相(当時)も衆院外務委員会で、韓国大法院(最高裁)が賠償を命じた判決(10月30日)について、1965年の日韓請求権協定によっても、個人の請求権は「消滅していない」と認めています。日本共産党の穀田恵二衆院議員への答弁したものです。河野氏は、柳井元条約局長の答弁を否定できず、「個人の請求権が消滅したと申し上げるわけではございません」と明言しました。
政府だけではありません。日本の最高裁判所も同様の判断を示しています。中国の強制連行による被害者が日本の西松建設を相手に起こした裁判(2007年)では、日本と中国は共同声明を結んだ際に、「(個人の)裁判上訴求する権能を失った」としながらも、「(個人、それぞれの人の)請求権を実体的に消滅させることまでを意味するものではない」との判断をしめし、さらに、「任意の自発的な対応をすることは妨げられない」と述べて、西松建設が被害者に謝罪し、和解金を支払う和解につながりました。
日本政府、日本の最高裁、韓国政府、韓国の大法院の4者が、いずれも、被害者個人の請求権の存在は認めているのです。
日本共産党は、この一致点が解決への大切な糸口になると考えています。国家間の請求権と個人の請求権をきちんと分けた冷静な議論をすること、それをふまえて冷静に、解決の方法を探ることが求められます。
解決は、日本政府だけでできるものではなく、日韓両国の双方が、被害者の尊厳と名誉を回復するという立場で冷静で真剣な話し合いをおこなっていく努力が求められます。
国際労働機関(ILO)も2009年、日本政府に「年老いた強制労働者が訴えている請求に応える措置をとることを望む」との勧告を発表しています。
植民地支配の不法性を認めず、謝罪も反省もなく
もう一つ見ておくべきは、「日韓請求権協定」の交渉過程でも、日本政府は植民地支配の不法性を認めず、謝罪もしていない事実です。韓国大法院の判決は、こうしたもとで結ばれた「請求権協定」が、強制動員された被害者の慰謝料を請求する権利までは否定しているとは見られないとしています。韓国最高裁の判決は、原告の求めているのは、未払い賃金や補償金ではなく、朝鮮半島に対する日本の不法な植民地支配と侵略戦争の遂行に直結した日本企業の反人道的な不法行為――非人道的労働に対する慰謝料を請求したものだとしています。
日本軍「慰安婦」問題と「河野談話」
日本軍「慰安婦」問題は、日本がおこした侵略戦争のさなか、植民地にしていた台湾、朝鮮、軍事侵略していた中国などで女性たちを強制的に集め、性行為を強要した非人道的行為です。当時の国際法から見ても違法な行為です。
この問題について、2015年12月の日韓外相会談で合意がかわされました。しかしこの合意には、元「慰安婦」はもとより、韓国社会全体からの批判が相次ぎました。
すべての「慰安婦」被害者が人間としての尊厳を回復してこそ真の解決です。
そのために日本政府は韓国政府と協力して誠実に力を尽くすべきです。「慰安婦」問題で「軍の関与と強制」を認めた「河野談話」(1993年)は、「歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さない」と明記しており、子どもたちに歴史の事実を語り継いでいくことは、わが国の責務です。
日本共産党は、「歴史の偽造は許されない」との見解を発表(2014年3月)するなど、日本軍「慰安婦」問題での逆流を批判し、歴史の真実を明らかにしてきました。引き続きこうした努力をおこなっていきます。女性の人間としての尊厳を踏みにじった事実に対し、「性奴隷制」を強いた加害の事実を認め、被害者への謝罪と賠償の責任を果たすべきです。
靖国神社参拝問題
菅前首相は、安倍元首相に続いて、靖国神社に真榊(まさかき)を奉納しました。「自民党総裁」名の公的な立場でおこなわれ、萩生田光一文科相(当時)ら閣僚の参拝も「大臣」「国会議員」として公の立場で記帳されていますが、その行為には、日本の宗教界をはじめ各界からの批判の声があがり、国外からも厳しい指摘が出ています。
靖国神社は、「日本の戦争は正しかった」という侵略戦争を正当化する歴史観、戦争観をもち、戦争行為をたたえることをその「使命」としている神社です。首相がどのような「信念」をもっていようとも、日本政府の責任者である人物が、そうした神社に参拝し、真榊を奉納する行為は、靖国神社の戦争観に、日本政府の公認のお墨付きをあたえることです。
日本共産党は、こうした靖国参拝が、「政府の行為によってふたたび戦争の惨禍が起こることのないように」という憲法前文の精神や政教分離などの憲法原則に反するものとして厳しく批判します。
侵略戦争に無反省のまま植民地支配を正当化した安倍元首相の「70年談話」
安倍首相は2015年8月、戦後70年にあたっての首相談話(「安倍談話」)を発表しました。同談話には、「侵略」「植民地支配」「反省」「お詫び」などの文言がちりばめられましたが、日本が「国策を誤り」「植民地支配と戦争」をおこなったという「村山談話」(1995年)に示された歴史認識の核心的内容はまったく語られませんでした。「反省」と「お詫び」も過去の歴代政権が表明したという事実に言及しただけで、首相自らの言葉としては語られないという欺瞞に満ちたものでした。また、暴力と強圧をもって朝鮮半島の植民地化をすすめた日露戦争を賛美したことは、乱暴きわまりない歴史の歪曲であり、植民地支配正当化論でした。
この談話は、戦後50年にあたって「村山談話」が表明した立場を、事実上投げ捨てるものとなりました。「安倍談話」によって「村山談話」を“過去の文書”にしてしまい、日本政府の歴史認識を大きく後退・変質させることは許されません。日本共産党は、「村山談話」の核心的内容を、今後とも日本政府の歴史認識の基本にすえ、その精神にふさわしい行動をとることを強く求めます。
1923年の関東大震災直後に起きた朝鮮人虐殺の犠牲者を追悼する式典が9月におこなわれましたが、小池百合子都知事は5年連続で追悼文の送付を見送りました。式典には石原慎太郎氏をはじめ歴代都知事が追悼文を送っていたものです。1923年の関東大震災では、「朝鮮人が井戸に毒を流した」などの流言が広げられ、軍隊や警察が数千人といわれる罪のない朝鮮人を虐殺しました。小池知事の対応は歴史的事実の隠蔽に他ならず、歴史を逆行させるもので、強く批判します。