45、住宅・マンション
市場優先から「住まいは人権」の住宅政策へ
2021年10月
居住の権利保障を基本に、安心して住み続けられる住宅政策に転換します
自公政権は、アベノミクスなど、自己責任や自助を強調して公的責任を後継に追いやり、国民の間に格差と分断を拡大させる、新自由主義的政策を続けてきました。住まいの維持・確保を自己責任とし、公的責任を後退させてきた住宅政策には新自由主義の最悪の現れが見られます。加えて、コロナ禍や激甚化・頻発化した災害等により住まいを失う人が後を絶ちません。コロナ禍では、一時避難をしていたホテルから五輪を口実に退去を迫られた人など、今まで経済的に弱い立場におかれていた人に加えて、コロナを理由とした失業や収入減により、突然家賃や住宅ローンの支払いに窮して生活苦に陥り、退去を余儀なくされた人など、これまで「貧困」問題とはあまり関係がないと見られてきた人が住宅に困窮する事態が広がっています。これら「住まいの貧困」をめぐる問題を打開するため、政治が役割を果たすことが求められます。
政府の住宅政策は、「住宅市場の活性化」を掲げた民間市場任せの施策ばかりです。とくに「持ち家政策」と呼ばれる、持ち家の建設、取得の支援策に偏っている一方で、賃貸住宅の居住者支援は極めて乏しいままです。2019年10月に消費税を10%に増税した際も、政府が行った「住宅対策」は、持ち家取得支援の「すまい給付金」と「次世代住宅ポイント」の導入に2千億円以上もの予算をつけることでした。これはハウスメーカー支援の「経済対策」です。コロナ禍にあっても、家賃補助など賃貸住宅居住者への具体的支援は、住居確保給付金の支給の拡充以外ほとんどないに等しい状況です。
住まいは生活の基本であり、憲法25条が保障する生存権の土台ともいうべきものです。住まいが権利であることは、世界人権宣言や、日本政府も批准している国際人権規約(社会権規約)も認めています。また、1996年に開催された国連人権居住会議は、負担可能な費用で、安全で健康的な住宅に住む国民の権利や、住環境改善への住民参加など国民の「適切な住まいに住む権利」を定めた「イスタンブール宣言」を採択し、日本政府も参加しています。「民間まかせ」で「自己責任」を押し付ける住宅政策を終わらせて、「住まいは人権」との立場に立った政策に転換するよう、「住生活基本法」を抜本的に改正し居住生活の改善・向上をめざす運動をすすめます。
生活に困窮する人への住宅の提供
公営住宅制度の抜本的見直し
自公政権は、住宅政策への公的責任を後退させてきました。「住宅に困窮する低額所得者に低廉な家賃で賃貸」する公営住宅はニーズが高いのに、05年度の219万戸をピークに19年度は214.8万戸まで減少し、全住宅に占める比率はわずか3.6%にすぎません。政府の立場は、人口減少下では、公営住宅の提供を増やせる見込みがないという前提です。その結果、例えば東京都では都営住宅の新規建設は20年以上ゼロです。応募倍率は一般募集で約20倍、単身者向け募集は50倍を超える状態が続いています。全国的にも、公営住宅を供給する必要性は都市部中心に引き続き高いですが、政府はその整備どころか削減を進めています。
また、公営住宅は、法制度の改悪により、月収15万8千円以下などのごく限られた低所得者しか入居できません。加えて、居住者の高齢化や外国人居住の増加等で住民間のコミュニケーションに新たな課題が生じ、自治会活動など住民の共同活動も困難を抱えています。自治体任せではなく、地域の実情を踏まえた国の支援が求められます。
東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から10年を経過しました。被災者の住宅再建や災害公営住宅の供給は一定進みました。しかし、収入は増えないのに災害公営住宅の家賃が年々上がることや、公的な家賃支援がいつまで続くのか等、今後の住まいはどうなるのか、不安や心配の声が上がっています。また、近年各地で豪雨や地震など甚大な災害が頻発しており、民間住宅の自治体による借り上げを含む災害公営住宅の役割も大きくなっています。予期しない災害により住まいを奪われた被災者が一刻も早く日常生活を取り戻せるよう、公的賃貸住宅の災害時の活用がスムーズに図られるようにします。
―――公営住宅の新規建設を含む供給の増加をすすめるとともに、UR賃貸住宅の空き家や、民間賃貸住宅を借り上げて公営住宅にするなど、多様な供給方式の活用により、公営住宅の供給を大幅に増やします。
―――公営住宅については、法改悪で引き下げられた、現行の月収15万8千円の入居収入基準を、まずは引き下げ前の月収20万円に引き上げるとともに、子育て世代や単身者が入居しやすいようにします。収入が増えた入居者を「収入超過者」として、強制的に居住者を追い出すことをやめさせます。
―――入居時の保証人については、国土交通省が2018年3月、保証人の確保を入居の前提とすべきでないという通知を出しました。しかし、まだ多くの自治体で保証人を入居時に要求しており、コロナ禍でも保証人要件が住宅困窮者入居の障害となっています。住宅セーフティネットの根幹を担うにふさわしく、公営住宅の保証人要件を残している自治体には、要件を撤廃させます。
―――期限付き入居制度である定期借家契約(期限がくれば理由の如何を問わず契約更新をおこなわない)や、入居時の資産調査などをやめさせます。
―――「孤独死」を防ぐため、単身高齢者見守りなどを行う自治会に対する支援制度を強化・充実します。
公団住宅(UR住宅)の改善
UR都市機構は、74.2万戸(2018年11月現在)あった住宅ストックを、2033年度末には65万戸程度まで減らすという「ストック活用・再生ビジョン」を進めています。耐震強度不足を理由にした取り壊しなどを名目に、この数年で民間への住宅売却を一気にすすめました。また、「団地再生」の名による敷地の民間売却が進み、隣地への民間高層マンション建設など、地域社会が大きく変わる事態も進行しています。
UR住宅の居住者の高齢化と世帯収入の低下がいっそう深刻化しています。全国公団住宅自治会協議会が2020年9月に行ったアンケート結果によると65歳以上の世帯主は70.6%、約7割が世帯収入354万円未満です。また、現在の家賃負担が重いと答えた世帯は74.7%に上っています。
昨年からのコロナ禍にあっても、機構はUR機構法にある「家賃の減免」規定を適用せず、家賃の支払い猶予や分納を認めるのみです。コロナ禍が長期化し、暮らしに災害級の影響が出ていると政府自身が認める中です。入居者の実情に合わせて「家賃の減免」をさせることが緊急に必要です。
―――UR賃貸住宅は、住宅セーフティネットを担う公共住宅として位置づけます。戸数削減や民間売却をさせずに国民の財産として守り、充実させます。「ストック活用・再生ビジョン」は、白紙撤回させます。
―――住み続けられる家賃にするため、低所得世帯(公営住宅入居対象世帯)の家賃は近傍同種家賃制度や「継続家賃改定ルール」によるのではなく、公営住宅同様の家賃制度(応能家賃)にします。そのため現行のUR機構法等の改正を行います。
―――UR機構法25条4項の「家賃の減免」を条文通り実施させて、いまUR賃貸住宅に居住している、高齢者や低所得者の居住安定をはかります。
―――UR住宅居住者や自治会の運動が実り、2018年12月に修繕負担区分の見直しが実現し、畳床、ふすまの枠等の修繕が順次すすめられています。これらの修繕を入居者の希望に応じて一層進めるとともに、劣化した台所、風呂場、トイレなどの設備の改善、畳・ふすまの入れ替え等必要な修繕を、UR都市機構の負担で実現させます。
民間賃貸住宅の家賃補助など入居者支援を拡充します
民間賃貸住宅は全国で約1530万戸あり、全体の住宅の約28.5%を占めています(総務省「2018(平成30)年住宅・土地統計調査」)。しかし、居住水準や環境が劣悪な民間賃貸住宅は多く、乱立している高層マンション・タワーマンションは災害時の脆弱さが近年の豪雨災害で露呈しています。また、この20年間実質賃金が下がり続け、年金額もカットされているもと、多くの世帯で家賃負担は家計に重くのしかかっています。
ひとり親世帯の住宅貧困も顕著です。厚生労働省の国民生活基礎調査(2016年)では「貯蓄がない」母子家庭世帯は37.6%、「借入金がある」が28.1%です。切り詰めて生活する世帯に家賃負担がのしかかっています。
年収200万円未満の若者は親との同居率が77%に達しているとの調査もあります。低賃金のため、親から経済的に独立して高家賃を負担し続ける見通しが立たない、という見えにくい貧困の広がりを示すものです。そのため、実家が最大の「住宅セーフティネット」となり、賃貸住宅も借りられずに新たな住まい取得の機会が奪われる実態が広がっています。
民間賃貸住宅を視野に入れた住宅困窮者支援は、生活保護制度の住宅扶助やコロナ禍で利用が拡大した住居確保給付金の制度以外は、国交省の「住宅セーフティネット」の制度など極めて対象も規模も限定された実効性の乏しい制度しかありません。
民間賃貸住宅に生活困窮者が安心して入居できるためには、民間賃貸住宅を借り上げる公営住宅や、家賃補助制度の創設など、居住者が安心して住み続けられる支援策の強化が急務です。
住宅セーフティネットの制度を改善します
低額所得者、被災者、高齢者、障害者など「住宅確保要配慮者」に入居希望を断らない賃貸住宅を供給するとして、空き家の一部を活用した住宅登録制度を盛り込んだ「新たな住宅セーフティネット」制度が2017年度からはじまっています。しかし、制度開始時に最も期待された、家賃低廉化(家主への給付を通じた家賃補助)の対象となる「専用住宅」は、全国でわずか4,000戸程度のみです。2020年度の家賃低廉化補助の実績は、全国でわずか17自治体208戸の利用にとどまり、機能不全状態です。その原因の多くは、制度の利用と登録が家主の善意に頼る仕組みとしたことに起因します。
住宅困窮の実態把握を急ぎ、同制度を実態にふさわしい仕組みにする必要があります。
―――家賃低廉化の対象となる「専用住宅」を拡大します。
―――家賃低廉化分の給付を入居者自身に行います。
―――必要な場合には、借り上げて公営住宅にします。
コロナ禍で広がった住宅困窮の現場から、住居確保給付金の支給対象拡大を求める運動が起き、政府も、運用面も含め支給対象及び期間を拡大しました。2019年度には3,972件だった同給付金の支給件数は、20年度は約13万5千件と約34倍に激増しました。この制度を学生や無職の高齢者など、住宅困窮者が幅広く使えるようにします。
家賃債務保証業者の登録を義務付け、入居時の選別や退去強制を規制します
2020年、連帯保証人の責任を限定する等の民法改正が施行されたことを契機に、確実に家賃収入の手段を確保したい不動産業者や家主側は、家賃債務保証会社の利用に急激に切り替えています。そのため、家賃債務保証業者による審査が入居の可否を事実上決定する事態が広がっています。
家賃債務保証業者は、国土交通省による任意の登録制度が開始していますが、まだ未登録の大手業者が多数残されており、登録業者が不当な審査をしても厳しい制裁はありません。家賃債務保証業は事業者に登録を義務付けるとともに、このような民間の業者のみに頼らない家賃債務保証制度を創設します。
定期借家制度の廃止を求めます
借家人の追い出しを容易にする借地借家法の改悪や拡大は居住の安定確保を脅かすものです。定期借家制度の廃止を求めます。
サブリース(一括借上による転貸業)に実効性ある規制を行い、オーナーや入居者の生活と権利を守ります
サブリース業をめぐり、賃貸アパートのオーナー(投資主)への不正融資や、共同住宅の違法建築が社会問題化しています。サブリース規制立法が成立し、義務的な登録制度ができましたが、相変わらずオーナーに契約内容の十分な説明もないまま一方的に家賃値下げを迫る等の行為が続いています。サブリース事業者に対しては、借地借家法の借家人としての地位に基づく主張を認めない等、オーナーや入居者の生活と権利を保護するためにより実効性のある規制が求められます。
―――サブリース事業者は、「アパート一括借り上げで30年家賃収入保証」などの甘言で契約を増やしてきました。契約時の十分な説明義務を果たさない事業者は、事業継続を認めない等の厳格な処分をさせます。
―――サブリース契約では、建物所有者とサブリース事業者間の建物賃貸借契約において、経済的にも知識的にも優位にあるサブリース事業者が、建物所有者に対して借地借家法上の建物賃借人としての権利を主張して、契約時に説明のなかった一方的な賃料引下げを要求し、あるいは一方的に引き下げた賃料しか所有者に振り込まない等の事例が発生しています。借地借家法は、弱者としての借家人保護のための法律であり、優位的立場にあるサブリース事業者への適用は排除すべきです。
CO2排出削減、違法建築防止、空き家対策
CO2排出削減のため、住宅の断熱・省エネ化をすすめます
深刻な「気候危機」のもと、CO2排出削減のためには、住宅の断熱・省エネ化を新築・改築時に進めることが必要です。住宅の耐震化やバリアフリー化、長寿命化とあわせて、安全で快適な住宅をめざす住宅リフォーム事業を、国の交付金事業としてもしっかり位置付けるとともに、自治体の取り組みを支援します。
一定規模の建物建設に断熱化、太陽光パネル設置などの脱炭素化対策を義務化するとともに、住宅建設に省エネ減税・住宅ローン減税の上乗せなどを行います。
違法建築をなくすため実効性ある規制を
住宅建設費用の削減により、住まいの安全が脅かされる事態が生じています。賃貸住宅管理大手「レオパレス21」が、延焼を防ぐ天井裏の仕切り壁の設置を怠るなど欠陥のあるアパートを1万7千棟施工した違法建築事件に続き、東京都八王子市でアパートの外階段が施工不良で「崩落」して住民が死亡する等、 “違法欠陥住宅”の発覚が相次いでいます。この問題は単に住宅メーカーや建設会社の不正にとどまりません。住宅の供給をもっぱら民間市場任せにし、投資の対象にしてきた政府の責任です。違法建築を生まないよう、規制の強化が必要です。
―――くい打ち工事偽装や耐震偽装事件に象徴される欠陥住宅問題の被害をなくすために、建築確認・検査制度を民間まかせにせず国や自治体の責任を明確にします。
―――地方自治体の検査体制を拡充し、建築主事の確保や体制を強化するとともに、独立性、非営利性を原則とした第三者によるチェック体制の創設を求めます。
―――多重下請け構造を是正し、低単価・低労働条件、短期の工期といった建設業界の構造を改善します。
空き家・既存(中古)住宅対策
空き家が増えています。その数は全国で849万戸に上っており、そのうち利活用方法(賃貸、売却、二次的利用など)も定まっていない「その他空き家」は、349万戸にのぼっています(2018年住宅・土地統計調査)。それにもかかわらず、コロナ禍にあった2020年度でも、国土交通省によれば新設住宅着工件数は81.2万戸にのぼりました。政府が一貫して住宅金融・税制上の優遇措置を講じて「持ち家政策」をもっぱら経済対策として推し進めているからです。
「その他空き家」、その中でも、管理されていない放置空き家の対策が急がれます。「空き家対策特別措置法」により、自治体は倒壊の恐れのある危険な空き家(特定空き家)を行政代執行で強制的に解体・除却できるようになりました。国土交通省によれば、2020年度までに全国で74自治体、92件の行政代執行がされています。
もっとも、空き家は利活用こそが必要で、管理されない「放置空き家」としないことが重要です。
とくに、日本は既存住宅(中古住宅)の流通が少なく、10%程度しか住宅として活用されていません。既存住宅市場の活性化のため、政府は安全性や市場価値を高める「長期優良住宅」制度の対象を既存住宅のリフォームにも広げるなど施策をとり始めています。
―――既存住宅を長持ちさせ、有効活用する施策を支援する等、市場任せ、家主任せではなく、行政が住民とともに対策を進める仕組みを作ります。
分譲マンションの維持・管理への支援
分譲マンションは国民の1割、1400万人の人々が暮らす場であり、都市におけるコミュニティの場でもあります。マンションの維持・管理に対する公的な支援を充実し、安全、快適で、長持ちするマンションをめざすとりくみを支援することが求められています。
―――老朽化した団地について、一律建て替えではなく、改修やリフォームなど多様な住宅改善をすすめ、だれもが戻って住み続けられるようにします。大規模修繕など、マンションを長持ちさせるとりくみを支援します。
―――国や自治体の責任で、耐震診断や改修への助成を強めるとともに、共用部分のバリアフリー、省エネ化、アスベストの除去などを支援します。
―――電気、ガス、水道など、ほんらい公共がおこなう基本的サービスの居住者負担を軽減するために、行政や、電力・ガス会社などに応分の負担を求めます。
―――集会室、ゴミ置き場、遊び場などは、その公共性にふさわしく固定資産税を減免します。また、集合住宅の共用部分の固定資産税を減免させます。
―――住民の立場で活動するマンション管理士の育成・活用や、管理組合団体などの自主的な助け合いのとりくみへの支援、行政の相談体制の整備など支援体制を充実します。