42、リニア新幹線
リニア中央新幹線建設事業を中止する決断を、関連する大規模開発工事の中止含む抜本的な見直しを
2021年10月
リニア中央新幹線建設事業については、今世紀最大の超巨大開発事業であり、かつてないほど自然環境・生活環境を破壊するものとして、「リニア新幹線の建設に反対する――東海道新幹線の地震・津波対策、大震災の鉄道復旧こそ」(2012年05月17日)を発表し、当初から反対してきました。2019年6月の参議院選挙でも、「リニア中央新幹線の建設に反対する」立場を改めて明確にしてきました。
2020年から広がった新型コロナウイルス感染症など、最近、重大な状況変化や事業の問題点が次々と明らかになり、抜本的見直しが求められる事態になっています。新型コロナ禍やますます深刻化する気候危機などの情勢変化、約1.5兆円のリニア工事費の膨張など、リニア事業の必要性や継続が問われる事態に直面しています。大井川減水問題で南アルプストンネル静岡工区の工事が未着工で、2027年開業は先送りせざるを得なくなりました。工事をめぐり、外環道の大深度地下トンネル工事での調布陥没空洞事故、豪雨により盛り土が崩落した熱海土石流被害など命と安全にかかわる事態も発生しました。
気候危機、コロナ禍で問われるリニアの必要性 リニア新幹線建設を中止する決断を
リニア中央新幹線事業の必要性が問われる重大な情勢の変化が起きています。
ひとつは、気候危機の問題です。地球温暖化など気候危機の打開はまったなしの課題です。リニア中央新幹線は、既存の新幹線と比較して、東京~大阪間を約1時間半短縮するために、4倍もの電力を消費すると言われています。気候危機打開の真剣な取組に逆行し、莫大なエネルギーを浪費するリニア中央新幹線は必要ありません。脱炭素や環境優先の地域公共交通への支援を強めるべきです。
もう一つは、新型コロナ感染症の拡大です。新型コロナ禍では、人の移動抑制により、テレワーク等の普及で住まい方、働き方にも大きな変化が現れ、高速移動手段を絶対視する社会から、ゆとりを持った社会への転換を求める声が広がっています。リニア中央新幹線の開通で、3大都市間の通勤や出張が早くて便利になると盛んに宣伝していましたが、リモート対話などが広がり、高速鉄道を使った出張等のニーズは減っています。今後もこの傾向は変わらないとの指摘もあります。コロナ禍で、リニア中央新幹線を必要とする社会的前提が崩れています。
もともと、リニア中央新幹線は、安倍政権時に「国家プロジェクト」に位置付けられ、スーパー・メガリージョン(巨大都市圏)構想の“核”として事業がすすめられています。東京―大阪間を約1時間で結び、3大都市圏を一体化し6,500万人の巨大都市圏をつくり、世界を先導するというのです。コロナ禍では、東京圏から地方への移住や本社機能の移転等が増加するなど、東京一極集中を是正する動きが拡がっていますが、この構想は、巨大都市圏にヒト、モノ、カネ、情報を移動・集中させ、地方の過疎・衰退を加速させるだけです。すでに破たんしていると言わざるを得ません。
必要性の乏しいリニア中央新幹線建設事業の中止を決断するべきです。
リニア工事費約1・5兆円膨張、コロナ禍で運輸収益悪化
―――3兆円の償還確実性の審査・公表を
―――事業再評価や情報開示を
―――工事認可の取り消しに踏み出します
新型コロナ感染症の拡大は、交通・観光需要の減少によるJR東海の収益悪化にも影響し、リニア中央新幹線建設事業の継続性が問われる事態にもなっています。
品川~名古屋間の総工事費が1.52兆円増額され7.04兆円になりました。3兆円の財政投融資資金の償還さえ危うい抜き差しならない事態に直面しています。もともと、この3兆円は、品川~名古屋間の工事費が5.52兆円であることを前提に、JR東海が借入金を確実に返済できる額として融資されたものです。
リニア中央新幹線事業は単独では採算が取れないとJR東海自身が認めています。建設工事費の返済は、東海道新幹線の年3,000億円規模の巨額の安定収益を前提としていますが、この目論見もコロナ禍で崩れ去っています。2021年3月期のJR東海の連結決算によると最終損益が2,015億円の赤字です。売上高も前期の55%減、輸送量も66%減です。今後も利用が伸びない可能性があります。
増額された工事は、駅工事など難工事、地震対策、発生土の受け入れ先確保などとしています。しかし、南アルプストンネル工事や大深度地下トンネル工事など今後実施される工事の増額分などは対象になっていません。
事業を継続させれば、さらに工事費が膨張することはさけられません。更なる公的資金の投入など国民負担を増大させる恐れがあります。
財政投融資資金の償還確実性を第三者によって厳密に審査させ、結果を公表させるべきです。
リニア中央新幹線建設事業は、工事実施計画の認可(2014年10月)から7年になりますが、民間工事を理由に、個々の工事費の情報開示もせず、工事費が膨らんでも事業再評価もしていません。公共事業ならば、工事費が情報開示され、事業評価制度により3~5年毎の再評価が義務付けられ、費用対効果分析評価(B/C)などを実施し、中止を含めた事業計画の見直しが行われます。
国土交通大臣には、リニア建設事業の工事実施計画を認可した責任があります。その責任を果たすためにも、公共事業と位置付け、情報開示させるべきです。科学的で公正公平な立場で、事業再評価を実施すべきです。そして、工事認可の取り消しに踏み出すべきです。
南アルプストンネル工事は凍結・中止を
―――湧水を全量戻すことは、技術的にもほぼ不可能。大な環境破壊を引き起こし、大井川流域住民の「命の水」を奪う南アルプストンネル工事は凍結・中止すべきです
―――公平・中立な有識者会議、会議の全面公開、情報開示の徹底を
―――トンネル工事等による地下水の流出等を規制する「地下水保全法(仮称)」制定を
リニア中央新幹線静岡工区、南アルプストンネル工事により、大井川に流れ込む湧水の減水、地下水位の低下は避けられません。JR東海による南アルプスの地質の特質を軽視した提案では、静岡県が求める流出する湧水を全量戻すことは、技術的にもほぼ不可能です。国民の財産、ユネスコエコパークや南アルプス国立公園、その周辺に甚大な環境破壊を引き起こし、大井川流域住民の「命の水」を奪う南アルプストンネル工事は凍結・中止すべきです。
国土交通省は、科学的検証をすると立ち上げた有識者会議を全面公開せず、JR東海の言い分を認めるなど公平・中立性に欠ける態度をとっています。国土交通大臣は、14年10月のリニア工事実施計画の認可の際、「水資源に影響を及ぼす可能性のある大井川・・・水系への影響の回避を図ること」と指摘し、「地元の理解と協力を得ることが不可欠」だから「環境保全に関するデータや情報を最大限公開し、透明性の確保に努めること」と意見しています。この立場こそ貫き、JR東海を指導すべきです。国土交通省は公正中立な立場で、会議の全面公開やデータ等の情報開示を徹底すべきです。
なお、湧水や地下水は「国民共有の財産」であり、JR東海という私企業が勝手に他県に流出、減水していいはずはありません。
リニア工事による地下水流出、水枯れは、沿線各地で危惧されています。妻籠宿がある長野県南木曽町では、3つの水道水源の真下をトンネルが通過し、「水源に影響が及ぶ事態も否定できない」(長野県環境審議会)と指摘されています。
水循環基本法が改正され、地下水の保全に関する施策を強化するよう国と自治体に求めました。この法律の趣旨に基づき、乱開発から地下水を保全するルールの制定が必要です。
トンネル工事等による地下水の流出等を規制する地下水保全条例を促進し、全国レベルの「地下水保全法(仮称)」の制定をめざします。
外環道調布陥没空洞事故を教訓に リニア大深度地下トンネル工事はいったん中止を
―――安全確保ないままの再開、着工は認められません。大深度地下の使用認可を取り消します
2020年10月、東京外環道トンネル工事中に起きた調布市住宅地の陥没・空洞化等事故は、「地上への影響は生じない」とする大深度地下トンネル工事の「安全神話」が崩壊したことを示しました。
事故は、大深度トンネル工事がすすむ中、20年10月に地上部等が陥没し、つづいて3カ所の空洞が発覚しました。陥没前から騒音・振動・低周波音等の被害が発生していました。東日本高速道路(NEXCO東日本)は、21年3月、事故原因について、陥没箇所の下を直径 16 メートルのシールドマシンで掘削する際に、特殊な地盤条件で、特別な作業によりシールド機が砂利等を取り込みすぎたことが原因だと発表し、家屋等の補修費など被害補償、2年程度をかけ住宅を仮移転して地盤補修する方針を明らかにしています。
事故原因とされた「特殊な地盤条件」を把握するには、事前のボーリング調査を十分実施する必要があります。しかし、住宅地の地下をボーリング調査するのは困難なため、大深度地下工事は、事前の地盤調査を十分に実施できない不適切な工事にならざるを得ません。
陥没・空洞事故のみならず、騒音、振動など家屋への影響等を含めて事故原因を徹底究明し、被害者への補償は集団交渉も認めるなど誠実に対応すべきです。
安全確保ないままの再開、着工は認められません。リニア工事はいったん中止を
リニア中央新幹線もシールド工法による大深度地下トンネル工事を約50kmにわたってすすめようとしています。JR東海は、外環道の陥没・空洞事故を受け、これまで実施しないとしていた事前の家屋調査を実施することにしました。しかし、事前の地盤調査は不十分なままで、シールド工法は変えず、騒音等に対応するため止めていた夜中も稼働させるなど安全が確保できるとは到底言えないものです。
大深度地下トンネル工事の安全が確保されないままのリニア工事の着工は認められません。いったん中止すべきです。
大深度地下工事の安全神話は崩れました。住宅地の地下トンネル工事の安全確保、開発規制、補償に関する法令を検討します
大深度地下トンネル工事は、大深度地下法に基づく使用認可をうけ実施されます。国土交通省は、大深度地下トンネル工事をシールド工法で実施することで、騒音等の「地上への影響を及ぼすことはない」と説明してきました。2015年当時、国土交通大臣(太田昭宏氏)が「シールド自体が壊れるということがなければ、これは地上への影響というのは生じない」とまで国会で答弁していました。ところが、事故が発生した途端に、「不適切」な工事だったから地上に影響が出たなどとごまかしています。
もともと、大深度地下利用の指針等では、「施工時に、大量の土砂を掘削した場合、周辺基盤の変位等が生じ、地上に影響を及ぼす可能性がある」と予測していました。シールド工法が「地上への影響を及ぼすことはない」という政府の説明は、まったくのでたらめです。地権者・住民をだましてきたのです。
大深度地下工事の「安全神話」をふりまく一方で、大深度地下法には工事等の安全確保や乱開発規制などの規定はありません。
住宅地の地下トンネル工事について、安全確保と地下開発行為の規制、地権者への補償などに関する法令を検討すべきです。
大深度地下の使用認可を取り消します。大前提の崩れた大深度地下法はきっぱり廃止を
また、これだけ問題のある大深度地下使用を安易に認めた国土交通省の責任も重大です。使用認可を取り消すべきです。
ほんらい、大深度地下であっても、土地所有者の権利が及びます。開発者等が、トンネル工事等で地下部分を使用するには、地権者の同意や補償が必要となりますが、大深度地下法は、この地権者の同意や補償を不要にし、財産権を侵害する法律です。
1990年代、大都市部の地価高騰などで土地買収による開発が難しくなったことから、地権者の同意を得る手間や土地収用手続きを省き、土地取得費用もほとんどかからない大深度地下に目をつけ、「通常使用しない空間」「地上に影響を及ぼす可能性は低い」「補償する必要性は生じない」などと喧伝して、これを根拠につくられました。外環道調布陥没事故により、大深度地下法のこの前提も崩れました。
大深度地下法による工事は、今後、北陸新幹線大阪延伸部(京都区間等)や淀川左岸線延伸部(大阪市内等)でも採用の動きがあります。
コロナ禍で、東京一極集中の是正や“稼ぐ”都市づくりからの脱却が求められています。大深度地下開発そのものを見直す必要があります。
地権者の同意や補償を不要にし、権利を侵害する大深度地下法は、きっぱり廃止すべきです。
熱海土石流被害を教訓に、リニア残土の処理計画を総点検し、計画見直しを
―――最終処分地未確定の場合には、工事着工を認めないなど残土処理ルールを
―――盛り土規制・残土処理法の制定を
2021年7月に発生した静岡県熱海市伊豆山の大規模土石流は、大雨により約5万㎥の土砂が崩落し、甚大な被害を及ぼしました。
リニア中央新幹線のトンネル工事等では、品川~名古屋間だけでも約5,680万㎥もの膨大な建設残土が発生します。南アルプストンネル工事では、大井川源流部に近い燕沢河川敷に南北600m、高さ70m規模、総量360万㎥の残土処分が計画されています。たびたび崩落が起きる地盤なため、大規模崩壊が起これば大惨事につながりかねません。相模原市に予定される車両基地は、高さ30メートル、360万立方メートルを盛り土する計画です。さらに、同市では、山中に100万立方メートルの建設発生土を運び込み盛り土をする農場計画もリニア残土ではないかと不安視されています。
気候変動により豪雨・台風が、激甚化・頻発化しており、これまでの残土処理計画では安全確保は不十分です。リニア残土の処理計画を仮置き場も含め総点検し、安全確保が不十分な場合、処分地の変更や縮小など計画を見直すべきです。
また、発生土活用先は、まだ3割(1,700万㎥)以上決まっていません。最終処分地が未確定の場合には、工事の着工や継続を認めないなど残土処理ルールを検討すべきです。
熱海土石流被害は、崩落した土砂のほとんどが不適切に盛り土された産廃まじりの残土で「人災」だと指摘されています。盛り土は、静岡県土採取等規制条例の許可基準の3倍以上の約50mの高さまで積まれ、産業廃棄物まで混入するなど違法なものでした。
これまでも山林等に盛り土された建設残土が崩落する被害が相次いでいますが、今回のケースは、自然による土砂災害と違い、人的に違法に盛り土した土砂が崩落したものです。土砂の管理者である事業者、所有者が第一義的に責任を負うべき事案です。と同時に、安全面から事業者等を監視・監督すべき行政の責任も免れません。静岡県は概ね行政責任を認めています。
不適切な土砂の埋め立てを規制する「残土条例」は21府県が制定していますが、地方自治体の条例では、罰金額が少ないなど違反行為を是正させる強制力に乏しく、事業者の違反行為を食い止められていません。そのため、多くの知事等から条例では限界があるとして、国に対して法制化すべきとの要望を再三行っています。国会でも何度も要請されていました。こうした要求を放置してきた国交省はじめ国の不作為責任は看過できません。
記録的な大雨により崩落する危険のある盛り土は全国各地に存在しています。メガソーラー造成地の崩落も発生しています。
熱海土石流被害を受け、国も緊急点検を実施していますが、危険な盛り土の撤去を含め緊急に対策を講じる必要があります。
不適切な土砂の埋め立てなど盛り土の開発を規制する「残土条例」を参考に全国で適用する盛り土規制を法制化します。
また、建設残土の排出量は膨大で、最終処分場は不足状態が続いています。そのため、トンネル工事などで排出した建設残土の最終処分場が確保できない状態のまま、工事を始めるのが実態となっています。公共工事は、発注者が最終処分場を指定して工事契約する指定処分制度※を導入していますが、仮置き場を指定先とすることを認めていたり、請負業者に最終処分を任せる事例も少なくありません。民間工事は、具体の搬出先を発注者が指定しない自由処分のままです。これでは、排出された残土がどこに運ばれるのか分からなくなります。
建設残土の処理は、発注者に責任があります。工事発注者が処理に最後まで責任を持つよう残土処理法(仮称)を制定します。
※建設発生土の不適正処理(建設発生土等の有効利用に関する検討会報告 参考資料の時点修正 2003年9月)
一部の公共工事において、発注者による建設発生土の行先把握がなされておらず、結果として、内陸受入地に利用されている建設発生土のごく一部が、大量の土砂の放置等の形で不適正に処理され、自然環境・生活環境に多大な影響を及ぼしている。
〔指定処分〕・・・建設発生土の具体の搬出先を発注者が指定し、工事価格に実際の運搬費(と受入費)を計上して発注する。
〔自由処分〕・・・建設発生土の具体の搬出先を発注者が指定せず、工事価格には平均的な運搬費等を計上して発注する。