36、エネルギー
気候危機を打開するエネルギー政策へ転換し、地域と住民の力に依拠した再生可能エネルギーの推進を
2021年10月
エネルギーは食料とともに経済・社会の存立の基盤ですが、日本のエネルギー自給率はわずか9%(2019年度、原発は含まない)にすぎません。
日本共産党は、むだなエネルギー需要を削り、エネルギー効率の引き上げや省エネの徹底を図り、再生可能エネルギー(再エネ)を本格的に大量に導入し、地球の環境・資源の上で持続可能な社会を目指します。それによってエネルギー自給率を引き上げます。
気候危機とよぶべき非常事態が起こっています。すでに世界各地で、異常な豪雨、台風、猛暑、森林火災、干ばつ、海面上昇などが大問題になっています。パリ協定(2015年)は、それを避けるために、産業革命前に比べ地球の平均気温の「上昇幅を2度を十分に下回り、1.5度以内に抑える」ことを目的として締結されました。すでに世界の平均気温は1.1~1.2度上昇しており、破局的な気候変動を回避するために取り組める時間は長くありません。10年足らずの間に、全世界のCO₂排出を半分近くまで削減できるかどうか、ここに人類の未来がかかっています。
2011年3月11日の東日本大震災で東京電力福島第一原発が爆発し、それによる広い地域への放射能の飛散によって、「原発ゼロ」を望む国民の世論が高まっています。しかし、自公政権が公表した、国の中長期のエネルギー政策の指針となる第6次エネルギー基本計画案では、原発を唯一の「重要なベースロード電源」と位置づけ、第5次計画と同様、2030年度の発電量の20~22%を原発で賄うとしました(2019年度の実績は6%)。これは27基の原発を再稼働させることになります。また国連から2030年までに撤退するよう求められている石炭火力についても国内での新規建設を進めたまま、30年度に19%の比率を見込んでいます。再生可能エネルギーについて、すでに発電量の2割に達している現状で、30年度の比率を36~38%へ引き上げ(第5次では22~24%)、初めて「主力電源化」と明記しました。あい変わらず原発と石炭火力の依存したこのようなエネルギー計画案では、全世界平均より低い目標とはいえ、二酸化炭素( CO₂)が大部分をしめる温室効果ガスの「2013年度比46%削減」、さらにその先の「2050年実質ゼロ」の達成は見通せません。
省エネと再エネの組み合わせで、30年度に CO2排出50~60%削減を――「気候危機対応2030戦略」
日本共産党は9月1日、「気候危機打開の日本共産党の2030戦略」を発表しました。
そのなかかで、自公政権のエネルギー政策には4つの問題点(①2030年までの削減目標が低すぎる、 ②石炭火力の新増設と輸出を進めている、③原発依存――最悪の環境破壊と将来性のない電源を選択する二重の誤り、④実用化のメドも立っていない「新技術」を前提にする無責任)があることを指摘し、自公政権がやっと昨年「2050年カーボンゼロ」をかかげたものの、中身を見れば「口先だけ」というほかないものであることを指摘しました。
そして、脱炭素社会に向けて、多くの環境団体・シンクタンクが、2030年までの目標と計画を示しており、政治的、経済的な立場の違いはあっても、エネルギー消費を20~40%減らし、再生可能エネルギーで電力の40~50%程度をまかなえば、CO₂を50~60%程度削減できる、という点で共通しています。
こうした状況を踏まえ、日本共産党は、2030年度までに、CO₂ を50~60%削減する(2010年度比)ことを目標とするよう提案します。それを省エネルギーと再生可能エネルギーを組み合わせて実行します。エネルギー消費を4割減らし、再生可能エネルギーで電力の50%をまかなえば、50~60%の削減は可能です。さらに2050年に向けて、残されたガス火力なども再生可能エネルギーに置き換え、実質ゼロを実現します。
詳しくは、「気候危機打開の日本共産党の2030戦略」をご覧ください。
「原発ゼロ基本法」を制定し、原発ゼロの日本を――再稼働をやめ、原発・核燃サイクルからの撤退、福島原発事故被害者への全面賠償を
各分野の政策「35、原発問題」をご覧ください。
「気候危機打開2030戦略」「35、原発問題」にかかげた内容に加え、次のような政策を、みなさんと協力して実現してゆきます。
再エネの豊富な地域に送電網を整備し、再エネの優先使用を義務付ける
日本の地域それぞれの条件にあった再生可能エネルギーの開発・利用を計画的に拡大することに、エネルギー政策の重点をおきます。太陽光・熱、小水力、風力、地熱、波力や、あるいは畜産や林業など地域の産業とむすんだバイオマス・エネルギーなどは、まさに地域に固有のエネルギー源です。この再生可能エネルギーの活用を地元の中小企業の仕事や雇用に結びつくように追求し、そこから得られる電気やガスを販売することで地域に新たな収入が生まれます。事業の成果や副産物を地元に還元したり、雇用や技術、資金の流れを地元に生み出すことで、地域経済の活性化に役立ちます。ドイツでは、地域の電力供給を担う公的企業「シュタットベルケ」が各自治体に設立され、地元の住民が地域の再生可能エネルギー開発に関与し、収益を公共サービスで還元するなど、地域で生み出したエネルギー資源を地域の財産と生かし、エネルギーの「地産地消」、地地域の活性化、地域経済の発展に重要な役割を果たしています。
自然エネルギーによる発電が期待できるのにもかかわらず、人口が少なかったために送電網が不十分な地域もあります。また十勝地方の畜産にかかわるバイオマス発電でも、送電網が使えないために、せっかくの発電能力が生かせないという悩みもあります。国がイニシアチブを発揮してこうした地域に、送電線の建設を進め、既存の送電網の有効利用を図ります。そのさい、再生可能電力を全国で融通できるように、必要な送電網の整備をすすめます。9電力(沖縄電力を除く)に区切られた送配電体制を東西2つの体制にするなど、送配電体制の整備・統合をすすめます。
再エネ発電の普及には、長期的な採算の見通しが重要であるため、電力の固定価格買い取り制度があります。市場価格との連動制を導入する電力多消費業種として賦課金を減免される対象範囲や、買い取り対象の規模、買取価格の水準の見直しなど、国民への情報提供と論議をつくすべきです。
――改定で削除された送電事業者による買い取り義務の項を復活させ、再生可能エネルギーによる発電施設の設置者の立場を守ることが必要です。経産省は、大手電力会社に、東日本大震災前の原発の供給力(廃炉決定済みや建設中も含む)を算出させ、それを前提に、再生可能エネルギー電力の「接続(受け入れ)可能量」を計算させました。動いてもいない原発を想定した発電量が、再生可能エネルギー電力の買い取り拒否の口実になっており、いわば原発による「空押さえ」です。買い取り義務規定の削除は、電気事業法にも、再生可能エネルギー電力を優先するという規定はない以上、あきらかに普及のブレーキとなります。
――送電網を運営する一般送配電事業者には、送電網を増強する「系統拡張義務」を課します。ドイツでは、前項の優先接続と系統増強の義務や、送変電設備の容量不足などの解消の責任を課されており、容量不足で再生可能エネルギー電力の接続を拒否できないことになっています。ところが日本では、接続拒否だけでなく、送配電網への接続を求める際に、送電線や変電施設の整備の費用を負担するよう要求され、小規模な再生可能エネルギー発電事業者には参入への高いハードルになるという事態が起きています。2016年のFIT法の改定にあたり、日本共産党は、ドイツの例をみならって、送電会社に送電網の増強義務を課す修正案を提出しました。引き続き、実現を目指します。建設コストを抑えるためにも、情報公開と多面的な検討を国が進めるよう求めます。
――電力利用者の負担を軽減するために、電源開発促進税を系統強化費用に充てるようにすべきです。すでに電気料金には電源開発促進税という 電源を生み出すための税金が含まれており、年間3,050億円(2021年度予算)も、電力使用者は負担しています。いまはこの財源が主に、原発のために使われています。日本共産党は国会でも提案したように、この財源を系統増強に充てることで、ユーザーの負担を抑えるように使います。
――買取価格を低減するとして、入札制度が導入されました。条文上は、「一定の導入量」を低い価格で落札した事業者から順番に調達する仕組みになっています。拡大されると地域密着型・中小規模の再生可能エネルギー事業社の参入を阻害する恐れがあります。19年11月以降順次、余剰電力買取制度の適用を受けた住宅用太陽光発電設備の買い取り期間10年が満了となります。地域にとっては「地産地消」の電源の典型であり、各家庭にとっては再エネへの関心をたかめ、電力消費の節約意識の喚起や災害時の電源確保としても重要です。住宅や小規模工場の屋根への太陽光パネルの設置、自治体主導や住民の共同による事業、屋根貸し太陽光発電事業などを推進します。そのために、再生可能エネルギー電力の固定価格買取制度を地域の多様な取り組みを促進するように改善します。住宅用太陽光発電、市民の共同による取り組みをFITの重要な柱として、位置づけます。
地域密着型・「地産地消」型の再生可能エネルギー利用をすすめるために、大規模開発や大型太陽光発電(メガソーラー)の偏重是正も考慮して、買取対象を見直すべきです。地域・自治体主導の取り組みで、地域経済への寄与を評価して、優遇する仕組みを導入すべきです。
世界では太陽光発電、風力発電を中心に1kW時あたりの発電単価の低下が大幅に進んでいます。日本でも買取制度導入以来、低下していますが、それでも日本の発電単価は、海外と比べると高くなっています。発電パネルや発電タービン、建設費や建設の熟練度合いなど、分析的に評価し、発電単価の削減にむけて誘導していくことが大事です。それによって、買取価格は下がります。廃止された小型風力の買取価格を、復活させます。
乱開発を規制するため、環境アセスメントなど法体系の強化と住民合意の義務化を
「気候危機打開ための2030戦略」でも強調したように、再生可能エネルギーの普及の大きな障害になっているのが、メガソーラーや大型風力発電のための乱開発が、森林破壊や土砂崩れ、住環境の悪化や健康被害の危険を広げていることです。目先の利益追求での乱開発・環境破壊を放置するなら、再生可能エネルギーへの大胆な転換を阻害し、気候危機も打開できなくなってしまいます。
それを打開するには、①環境を守る規制を強化し、乱開発をなくす②「新たな開発」ではなく、既存の施設・建築物・未利用地などの活用を推進する――という二つの方向での解決が必要です。
全国知事会の「21年度国の施策並びに予算に関する提案・要望」でも、「再生可能エネルギーの地域との共生」のために、「発電設備の設置に当たって、防災・環境上の懸念等をめぐり地域住民との関係が悪化するなど問題が全国的に生じていることから、事業計画の認定に際し、一定規模以上の発電設備を設置する事業者に対し、地域住民への事前説明とその結果の国への報告を義務付けるなどの法整備を図るとともに、地元自治体の意見を反映させる仕組みを早期に構築する」ように要求しています。
2016年のFIT法改正を受け、17年から条例を含む関係法令遵守をFIT事業認定の基準として規定し、違反した場合は認定を取り消すことも可能になりました。また、「事業計画策定ガイドライン」(以下、ガイドラインと表記)において、住民との適切なコミュニケーションを努力義務化しています。ところが、ガイドラインを遵守していない事業者も多く、「住民合意の義務化」が必要です。FIT事業の認定要件は省令で規定しており、ガイドラインを省令に格上げすれば、住民合意をはじめとした努力義務規定が「義務化」されることになります。
今年4月に成立した改正地球温暖化対策推進法の施行に向けて、改定マニュアルを策定し、周知を図ることになっています。改定法案の審議のなかで、日本共産党は、法案にある促進エリアに加えて、自然環境や生活環境を「保全するエリア」を指定する必要があると求めていました。また再エネ設備の設置によって、土砂災害や生活環境への影響が懸念されている各地域の実態をふまえ、地方議会でも国会でも、危険な地域や生活環境に影響がある地域などには再エネ設備は建設出来ないように規制するよう要求してきました。
再エネ設備の設置場所について、土砂災害の危険地域など除外している自治体の条例や、「地域の状況に応じた防災、環境保全、景観保全の観点から適切な土地の選定、開発計画策定に努める」という文言がガイドラインにあります。しかし、実際には、土砂災害防止法における開発規制では太陽光発電施設等の再エネ設備を対象に入れていないことや、保安林内で計画される場合も「再エネ事業としての手続のなかで検討される」として林野庁が規制する仕組みになっていません。住民の安全にかかわる問題として、関係する省庁が責任を明確に負うよう法制度を整備します。
規模が大きく環境に著しい影響を及ぼすおそれのある事業は環境影響評価(アセスメント)手続が義務付けられています。しかし、事業を分割して制度の対象外としてアセスメント手続を逃れる事業者もいます。政府は9月末、太陽光発電、風力発電所の環境アセスメント逃れに対応する「事業の一連性の考え方」について公表し、都道府県・政令指定都市と太陽光発電、風力発電の関係事業者に対し正式通知しました。事業者がアセス対象規模の事業を分割してアセス逃れしている実態を国会質問で取り上げた結果、梶山弘志経産相(当時)が「環境影響評価法の趣旨が十分に踏まえられるよう環境省と連携して議論を進めたい」と答弁したことを受けたものです(岩渕友参議院議員の5月31日の決算委員会質問)。同通知は広い敷地内の川で隔てられている場合や、風力発電など設備の距離がかなり離れていても事業が一体の場合があるなど管理の一体性を中心にみるとしています。
他方で風力発電の法対象規模要件が政令改正によって10月31日から、現行1万㎾以上から5万㎾以上へ引き上げられます。また環境省は、洋上風力発電の導入促進に向けて「導入が見込まれる海域において環境調査を実施し、取りまとめた情報をデータベースから事業者や地方公共団体に提供することで、現在設置が検討されている着床式洋上風力発電における環境影響評価の合理化・迅速化を図る」(4~6年程度かかる環境アセスの期間を1~2年短縮する)取り組みに着手するとしています。
太陽光発電施設の建築物や土地の区画形質の変更として扱うなど、きちんとした法的な位置づけを明らかにします。関連法令の整備や環境基準を制定で、環境アセスメントの手続きの中に組み込んでいくことが必要です。
森林法などの現行法は、森林を伐採してメガソーラー発電所をつくるなどの事態を想定していません。環境保全のための森林法改正、土砂崩れの危険性も評価事項に加えるなどアセスメントの改善が必要です。発電開始後も点検を行い、環境破壊や人体への悪影響がある場合には必要な是正措置をとらせます。
事業の立案および計画の段階から情報を公開し、事業者、自治体、地域住民、自然保護関係者、専門家など広く利害関係者を交え、その地域の環境保全と地域経済への貢献にふさわしいものとなるようにします。
風力発電も大規模化・集中化によって、騒音、低周波、シャドーフリッカー、基礎工事の巨大化による安全面や周辺環境への影響など、住民の不安・不満は高まっています。環境省は2017年に「風力発電施設から発生する騒音に関する指針」を作成しましたが、1基あたり出力2,000kWの風車を想定した調査をもとにしており、最近では1基4,000kW以上の出力の風力発電計画が増えているもとで、「指針」の見直しが必要です。とくに集中立地にともなう累積的影響を検討すべきです。
地域での乱開発を防ぐ手法として、環境保全を優先するエリア、風力発電の導入促進が可能なエリクに区分けするゾーニングの導入も有効であり、環境省はマニュアルを作成していますが、国として住民の健康・安全や環境保全を脅かす恐れがある地域への立地を規制することが、必要です。
バイオ燃料の開発は、森林破壊を起こさず、環境保全を重視したものに
日本共産党は、バイオ燃料の開発・導入を再生可能エネルギーの重要な柱であると考えています。地域の森づくり・林業と結びついた木質バイオ燃料の利用や、畜産業の廃棄物を活用したバイオガスの利用などは、地域経済の活性化にとっても重要です。
ところが木質バイオ燃料を取るためとして森林の植林抜きで皆伐したり、あるいは熱帯林を破壊して切り開いたヤシ畑から出たヤシ殻を輸入して焚くというのでは、陸上で最も大きな CO₂の吸収源である森林を損なうことになります。EUでは再生可能エネルギーとしてバイオを認めるにあたって、その由来や炭素の循環周期を確認するなど厳しくなっています。
国内産・バイオ地域産の資源を優先的に活用する(「地産地消」)、生産・加工・流通・消費のすべての段階で環境を悪化させない持続可能な方法を採用するなど、新たな環境破壊をひきおこさないためのガイドラインを設けます。熱源としてバイオ燃料の利用も促進します。
国民の立場から、電力システムを抜本的に見直す
2016年4月1日から、電力の小売り「全面自由化」がスタートしました。電力システムの「改革」が起きたのは、2011年の東日本大震災・福島原発事故がきっかけです。国民の側から、大手電力会社の独占的な支配力を弱め、原発の停止、再生可能エネルギーの普及をという要求が高まりました。他方で、規制を取り除き「自由化」することによって、エネルギーの種類別や地域別の経営を抜け出して、“総合的なエネルギー企業”を生み出すという政府や巨大企業の思惑が交錯しています。
消費者側では、原発の電気を買いたくないと思う人も多く、地球温暖化の原因となるCO₂を出す石炭や石油などの化石燃料ではなく、再生可能エネルギーの電力を使いたいと思う人もいます。
しかし、今回の「電力自由化」で、消費者は自分が望む電気を、自由に買うことができるというわけではありません。さまざまな業種の企業が、小売り事業者として登録されましたが、発電所をもっている事業者や一部の携帯会社は別として、自分で発電所を持っていない小売業者の多くは、東電など大手電力会社から電力を買って、家庭や業者に販売しています。
もともと再生可能エネルギーによる電力はまだまだ少なく、大手電力会社は原発の再稼働を急ぐことで、原発の電気を売りたいと考えおり、また、今ある石炭火力発電所のCO₂の排出量の多い電力の供給が増えることが懸念されます。
そのため、消費者側から強い要望があるのは、業者が供給する電力が何から生み出されたものなのかの表示=「電源構成の表示」の義務付けです。政府は、表示することが望ましいとするのみにとどまっています。電力・ガス取引監視等委員会の「小売電力指針」を改正して、表示を義務付けるべきです。
電力は、水道やガスと同様に、私たちの生活や経済活動を支える不可欠の公共インフラです。その電力インフラの基盤となる送配電網は依然として大手電力会社が独占しています。もし送配電網の利用に高い料金が設定されたり、接続を制限されたりすれば、再エネなどの発電事業者や小売業者が送配電網を自由に利用できず、一部の大手企業に再び集中し、競争が消え、大手企業の電源や料金を消費者が受け入れざるを得ない事態も懸念されます。先に自由化が進んだ欧米の経験では、多数の小売業者が出現したものの、やがて数社にまとまっていって競争が効かなくなったといわれています。政府も「現状では大手電力の値上げを抑制させるような新電力が十分に存在」せず、「新電力と大手電力の間で電気の調達環境の公平性に懸念がある」(梶山経済産業大臣=当時。2020年5月22日)と認めています。現時点では電気料金に関する規制は残っていますが、消費者側が参加できる公的なコントロールが大事です。
自公政権は、福島の原発事故の賠償費用2.4兆円を2020年から40年間に渡り、沖縄電力以外のすべての電力消費者に負担させる仕組みを導入しました。再生可能エネルギーの電力を選択している電力消費者にも負担を強いるものであり、「自由化」の看板に逆行し、発電部門内の原発のコストとして計上されるべき賠償費用を、送配電部門に移し替えるものです。このような原発優遇は、やめるべきです。
政府は、送配電網の電気料金(託送料)の値上げ認可申請を公聴会の対象から外すなど、料金コストの情報公開が一層後退させています。従来でさえ、電気料金には放射性廃棄物の処理・処分費用をはじめ、隠れた「原発賦課金」が電力料金の明細書への記載もなく、上乗せされるなど、批判のある電気料金の根拠がいっそう不透明になりかねません。
今求められているのは、消費者・需要家の選択肢の拡大と、系統運用など情報の全面的開示を両立させることのできる電力システムの制度設計です。そして、国民に開かれた公正な市場と競争条件の整備を進め、さらに新しい独立した強力な民主的規制機関の創設することによる国民的な監視の強化です。それによって、電力大企業への民主的な規制と再生可能エネルギーの本格的な推進、地域へのメリットの還元する電力システムへの転換を進めます。
再エネ小売業者の負担で、原発や石炭火力を支援する「容量市場」の廃止を
「電力システム改革」のなかで、既存の原発、石炭火力、大型水力に有利に働き、再エネ小売業者に重い負担がかかるのが、昨年からスタートした「容量市場」です。容量市場とは、4年後の電源確保を目的に電源設備の供給力(キロワット)を取引するしくみです。経済産業省は、容量市場の必要性を、①電力価格の低下により投資意欲が減り、将来の容量が不足すること②容量が不足することで卸電力市場価格が高止まりするリスクと説明します。しかし、実際は10年先まで電力設備容量が足りなくなる見通しはありません。電力広域的運営推進機関(OCCTO)の電力供給計画のとりまとめによれば、電力予備率(電力需要のピークに対し供給力の余裕があるかどうかを示す指標)は地域間で電力を融通すれば、いずれの地域も停電を起こさない目安を上回っています。供給力の一時的な不足は電力会社同士の融通で対応できるはずです。気候危機の対応のためには、省エネの徹底で電力消費量を中長期的に減らしていくことが不可欠なので、それに見合った供給計画を立てるべきです。
容量市場で確保する電源設備の総容量を決め、オークションを実施します。入札できる電源は、政府が「安定電源」だといっている火力、原子力、大規模水力に極めて有利な条件になっています。低い価格で入札されたものから順に落札され、目標調達量に達した価格が約定価格になります。容量市場の最大の問題は、この約定価格が、落札した電源全てに支払われる仕組みになっており、1兆円を超える規模になりまる点です。
大手電量会社がすでに減価償却を済ませた電源にも、一律の約定価格で支払われます。ここには CO₂排出量の大きさなどへの考慮はありません。石炭火力などの設備を持つ事業者にとって、容量市場は老朽火力もできるだけ長く維持しつづけようという動機づけになります。応札した実績によれば、石炭火力は全体の発電能力(容量)の約25%にのぼりました。気候危機を回避するため、2030年までに石炭火力の全廃が求められているにもかかわらず、まるで逆行しています。容量確保のための費用は全ての小売電気事業者、送配電事業者が支払う仕組みになっており、その料金は電力料金に転嫁され、原発や石炭火力の電気を購入したくないと再エネ新電力に切り替えた消費者までもが、その維持費を支払わなければなりません。再エネ新電力にとっては極めて不利な制度で、過重な負担となります。なぜなら、原発や石炭火力、大型水力を持っている大手電力会社は容量市場から得た費用で拠出金を相殺できるのに対して、再エネ新電力にはそれができず、電力料金に加算するしかないからです。
このように、容量市場は気候変動対策、再生可能エネルギーの普及などの流れと矛盾し、極めて問題の大きな仕組みです。このような気候変動対策に逆行しる市場の廃止を求めます。
電力市場の異常な高騰を招いた独占支配を是正する
再エネによる電力量がまだまだ少ない中で、新たに参入した電力の小売業者(新電力)は再エネ重視の事業者でも足りない分を、卸電力市場を通じて、東京電力など9電力の発電事業者が発電した電気の一部を購入し、需要家(消費者)に販売しています。
その卸売市場で昨年12月中旬以降、価格が高騰。通常は1キロワット時10円ほどなのに、今年1月半ばには一時251円を超え、通常の25倍にまで上がりました。3週間の非常に長きにわたって高騰問題が発生した。世界的に類を見ない市場の異常状態でした。高騰の背景には、寒波により電気使用量が増えたこともありますが、例年に比べ1割程度の増加で主要因ではありません。
大きな要因は大手電力が売り控えしたためで、買い争いが起き、価格が高騰しました。売り控えは、LNG(液化天然ガス)在庫不足により、ガス火力発電の出力を抑えたことが背景にあります。
この影響はFIT(固定価格買取制度)にも及びました。大手電力は再エネ電力を最大でも40円/キロワット時という固定価格で購入し、高騰した市場価格で小売業者に販売したため、その差額が送配電事業者に入りました。
市場価格の高騰で、新電力は、定額プランなら売れば売るほど赤字。市場連動価格なら需要家の電気代が値上がりし、顧客離れが起き、新電力の多くが数千万円の赤字を抱え、経営破綻も出ています。自治体出資の電力でも、数千万円の損害が出たところもあります。1兆円をこえる規模で、大手電力にお金が動いたとみられます。
政府は1月中旬、200円/キロワット時の上限を設けましたが、価格は200円に高止まりし、平均価格は下がりませんでした。次に、卸電力の入札状況を公開したことで、ようやく価格が低下し市場は落ち着きを取り戻しました。
――市場の不備と行政の放置による新電力や需要者の被害であり、大手電力やその系統の送電会社の利益を還元することを求めます。
――行政の対応の遅れで異常事態が繰り返されることのないよう、市場を監視することで、公平で公正な電力取引が保障されるよう、行政が厳格なルールをつくり市場を監視すします。
――燃料の在庫状況・調達予定など徹底した情報公開、大手電力の発電・送電・小売部門の完全な分離など、大手電力会社による寡占状態を是正し、公正な競争環境を整えます。
「価格は日々の売り手と買い手の入札の平均で決まります。株取引に似ていますが、小売事業者は電気を供給する責任があり、売買をやめると罰金(インバランス料金)が発生します。
昨年12月から今年1月にかけてのLNGの在庫逼迫に関しては、新型コロナのパンデミックだけでなく、定期点検を12月時点で終わっているはずだった関西電力の大飯原発3号機、高浜原発3号機が、1次系配管の亀裂の発見(大飯3号機)や、蒸気発生器の細管減肉と異物発見の調査(高浜3号機)のために結局、12月から定期点検を「終了時期未定」で延長せざるを得なかった。
電力供給では大飯3号機(118万kW、稼働開始から29年)と高浜3号機(87万kW、同36年)をあわせて205万kWの穴があいたことになり、2機が停止している間、ガス火力の稼働を増やしたので、冬季用に準備していたLNGを予定以上の速さで消費しました。LNGを追加発注したのが交換工事を決めた10月中旬以降だったとすれば、通常LNGの調達には発注から2か月程度の時間がいるため、12月から1月の初めには間に合わせるのは難しかったと思われます。これがLNGの在庫ひっ迫の大きな原因になったのです。
「2030戦略」では、原発に固執するエネルギー政策が、危険な「老朽原発の延命」に頼ることを前提にしており、エネルギー供給の面でもの無責任となると批判しましたが、まさにこういう事態が起きていたのです。
市民と野党の共同で政権交代を実現し、エネルギー政策への転換を
これまでも野党はエネルギー政策の転換のために協力して、原発ゼロ基本法案(2017年)やその実施法である再生可能エネルギー等の推進関連4法案(2019年)を国会に共同提出してきました。
今回の総選挙にむけて9月の「市民と立憲野党との政策合意」=野党共通政策では、「地球環境を守るエネルギー転換と地域分散型経済システムへの移行」として、再エネの拡充、石炭火力からの脱却、原発のない脱炭素社会の追求、エネルギー転換を軸にイノベーションと地域の新たな産業の育成を盛り込んでいます。野党と市民の共同によって、総選挙での政権交代を実現し、地球環境と若者の未来を守るエネルギー政策へと抜本的に転換します。