8、リプロダクティブ・ヘルス&ライツ
リプロダクティブ・ヘルス&ライツの視点にたった政治を
2021年10月
リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(性と生殖に関する健康と権利)は、子どもを産む・産まない、いつ何人産むかを女性が自分で決める基本的人権です。性と生殖に関する健康や、それについての情報を最大限享受できることも、大事な権利の一環です。
ところが日本では、性教育がきわめて不十分です。子どもたちは、人間の生理や生殖、避妊についての科学的な知識も、互いを尊重し合う人間関係を築く方法も、自分の心や体を傷つけるものから身を守るすべも十分に学べないまま、成長していきます。
社会には意図的に中絶へのスティグマ(負の烙印〈らくいん〉)が広げられ、明治期から残る刑法の自己堕胎罪もあいまって、多くの女性が深い苦しみを抱えてきました。予期せず妊娠し、誰にも相談できず、たった一人で自宅や公園のトイレなどで出産した女性が逮捕される悲しい事件が、後を絶ちません。
日本では、避妊法として失敗率の高いコンドームが多用され、他の先進国に比べて、低用量ピルやIUD(子宮内避妊具)の使用率が極めて低くなっています。性交後、72時間以内に服用すれば約8割の妊娠を防げる緊急避妊薬は、認可はされていますが薬局で入手できず、価格も1~2万円と高額です(アメリカ:3200~6400円程度、イギリス:通常は保険がきき無料、自費でも1400~2100程度)。
中絶法は、掻爬(そうは)法という、戦後直後当時の方法が、今も主流です。WHO(世界保健機関)は「安全な中絶」として、妊娠初期には中絶薬と吸引法を推奨していますが、日本では普及が遅れています。また、世界70カ国以上で認可・使用されている中絶薬は、日本ではまだ認可すらされておらず、ようやく治験が始まった段階です。
刑法には現在も、「妊娠中の女子が薬物を用い、又はその他の方法により、堕胎したときは、1年以下の懲役に処する」(第212条)という自己堕胎罪が規定されています。母体保護法に基づき人工妊娠中絶の手術を受けるときには、原則、配偶者の同意が求められます。女性の自己堕胎を処罰する法律が残され、母体保護法でも女性の自己決定権を認めていないのです。
以上のような遅れに対し、国連からは、▽思春期の女子および男子を対象とした性と生殖に関する教育が学校の必修カリキュラムの一部として一貫して実施されることを確保すること▽刑法の堕胎罪をなくすこと▽母体保護法を改正し、配偶者の同意要件をなくすこと――などの勧告を受けています。
一方、過去1年間に金銭的理由で生理用品の入手に苦労したことがある若者が5人に1人にのぼることが明らかになり(「みんなの生理」アンケート、2021年3月)、「生理の貧困」がみんなの問題として議論される大きな前向きの変化も生まれました。リプロダクティブ・ヘルス&ライツの視点に立った政治への転換が、求められています。
―――子どもの年齢・発達に即した、科学的な「包括的性教育」を公教育に導入します。
―――避妊も中絶も、女性の大切な権利です。避妊薬と緊急避妊薬を安価で入手しやすくします。中絶薬を早期に認可し、中絶医療を国際水準まで高めます。
―――明治期から残る刑法の自己堕胎罪や、母体保護法の配偶者同意要件を廃止します。
―――生理用品の恒久的な無償配布、学校など公的施設のトイレへの設置を進めます。非課税の対象とするなど、より安価で入手しやすくします。
―――職場や学校などでも生理に関する知識や理解を深め、女性が過ごしやすい環境を整えます。
―――安全な妊娠・出産のための周産期医療体制を充実させます。国の制度に位置づけられた産後ケアセンターを充実させます。