2022年11月27日号
【全文公開③】◎スクープ不当鑑定疑惑/大阪カジノ、市主導で安値に用地鑑定/鑑定依頼前に“予定額”
大阪カジノの安すぎる用地賃料をめぐる不動産鑑定評価の不正疑惑―。松井一郎・大阪市長(日本維新の会顧問)が、鑑定評価前に「賃料は年約25億円」とする市幹部の報告を受けていたことが分かりました。松井氏は、鑑定評価をしても市の予定する賃料とほぼ同額になることを事前の会議で確認。市の決めた金額に評価額を合わせた「不当鑑定」の疑いが高まりました。
※肩書や今年・昨年などの表記は掲載時点
大阪市は、カジノリゾート用地49ヘクタール(大阪湾の人工島夢洲内)を年約25億円の賃料でカジノ事業者に貸す予定です。1平方メートルあたり月428円(実質430円)という、郊外のショッピングモール用地並みの安値です。
府・市は、この安い賃料にもとづくカジノリゾート計画(区域整備計画)を国に申請中です。賃料設定の不正が明確になれば、計画申請そのものが破綻する重大局面です。
編集部は日本共産党・宮本岳志衆院議員とともに、市が賃料の根拠とする不動産鑑定評価書(2019年11月に業者4社が発行)の不正を調査し、日曜版10月2日号、11月6日号で報じてきました。
この報道で鑑定業者4社のうち3社の評価額(土地価格、利回り、月額賃料)がすべて一致する“評価額談合”などが明らかになっています。
不正を主導したのは鑑定業者か、それとも市か―。その答えは、市の会議資料や議事録のなかにありました。
じつは、市が鑑定業者に依頼する19年8月よりも前に、鑑定結果を根拠に決めたはずの賃料「年約25億円」などが松井市長に報告されていました。
19年7月30日、松井市長が出席した「市大規模事業リスク管理会議」―。
港湾局長 「年間の賃料でいいますと約25億なんです。売却すると590億です」
同会議の資料には「IR用地(49.0ha)について、120000円/㎡」「賃料利回りについては4.35%として試算」と書かれていました。
土地価格「12万円/㎡」は、鑑定業者3社による19年11月の評価額と完全に一致します。さらに利回り「4.35%」も、3社の評価額「4.3%」とほぼ同じです。
専門家「完全にアウト」
「不正がはっきりした。完全アウトだ」。編集部の調査に協力してきた不動産鑑定士が指摘します。
「鑑定結果を市の予定額に合わせている。利回りがわずかに違うが、通常の鑑定評価は小数点以下1桁までだから余分な0.05%を切っただけだ」
依頼者の提示した額に合わせて鑑定評価書を作成する行為は、不動産の鑑定評価に関する法律第40条第1項の「不当な鑑定評価等」にあたります。不当鑑定の懲戒処分は、鑑定士登録の消除や1年以内の業務禁止です。
松井市長「ほぼこの価格か」/推進局長「なるべく変えずに」
市は鑑定評価を依頼する前に土地価格や賃料の予定額を決め、それをカジノ事業者にも知らせていました。その経緯は次のようなものです。
―18年度に「価格調査」をA社とB社(のちに鑑定評価した4社のうち2社)に依頼。19年3月までに2社が調査報告書を作成。
―2社の評価を市が平均化(足して2で割る)し、独自に「参考価格」を決定。土地価格「12万円/㎡」、月額賃料「435円/㎡(=利回り4.35%)」とする。
―19年4月24日、市が決めた「参考価格」をカジノのコンセプト募集要項で提示。
松井市長らは、このコンセプト募集時の「参考価格」をその後の鑑定評価でも維持することを確認していました。募集要項を出した当日の「市戦略会議」の議事録は重大です。
松井市長 「RFP(提案募集)の時にもう1度土地価格の鑑定をとるのか」
IR推進局長 「基本的に鑑定の中身については変わるものではない」
松井市長 「ほぼこの価格なのか」
港湾局長 「そうだ」
IR推進局長 「逆に変わると事業計画に大きく影響するので、できるだけ変えずに」
一連の発言から浮かび上がるのは、カジノ事業者の都合のために、鑑定評価を“言いなり”にする市の姿勢です。
実際、19年11月の鑑定評価で3社の結果が予定額と一致し、松井市長の言う「ほぼこの価格」が賃料になりました。予定額と違った1社の鑑定結果は市が不採用とし、賃料の根拠から除外しました。
編集部は、松井市長あてに不正の認識を尋ねましたが回答はありませんでした。大阪港湾局は「(会議での発言は)条件が大きく変わらないので鑑定評価でも大幅に価格は変わらないという見込みの意味だった。市による価格の指示はない」としました。
鑑定結果を市の予定額と一致させた3社のうち2社は「大阪市を通じていただきたい」「回答を差し控える」とし、1社は無回答でした。
本田祐典記者