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2022年11月27日号

アジア政党国際会議

排他的でなく包摂的な平和の枠組みを

志位委員長に聞く

 「ブロック政治を回避し、競争より協力を」―。トルコ・イスタンブールで開かれたアジア政党国際会議(ICAPP)第11回総会(18、19日)でアジアの平和を築く画期的な宣言が採択されました。総会に参加した日本共産党の志位和夫委員長に聞きました。インタビューは志位氏が現地滞在中の20日にオンラインで行いました。

画期的宣言 日本共産党の提案反映

志位委員長

18日、トルコ・イスタンブールで開かれ
たICAPP総会で発言する日本共産党の
志位和夫委員長(鎌塚由美撮影)

―ICAPP総会の全体の特徴をお聞かせください。

 私自身、ICAPP総会の参加は6回目となりますが、これまでの総会の中でもたいへん重要な意義をもつ総会となりました。

 今回の総会はロシアのウクライナ侵略が続き、アジアでもさまざまな紛争の火種があり、多くの人々が戦争の心配を抱えるなかで行われました。そうした中で開かれた総会でしたが、採択された「イスタンブール宣言」には、「平和、安全、安定」と題する章の冒頭にこういう一文が盛り込まれました。

 「地域と世界の平和と安定に深刻な危険をもたらす紛争の暗雲が立ち込めている。われわれは、共通の課題には集団的な対応が必要であるから、ブロック政治を回避することの重要性を強調し、競争よりも協力を強調した」「紛争解決の唯一の道としての対話と交渉……を強調した」

 ここに明記された「ブロック政治を回避する」という規定は、とても大事な意義を持っています。

 日本共産党は、どんな国であれ、覇権主義には厳しく反対を貫きます。同時に、ある国を排除してブロックをつくっていこうという動きに対しては、地域に分断をつくり、対立の悪循環をつくるとして反対してきました。とりわけ、ブロックが軍事でつくられると「軍事対軍事」の悪循環に陥ってしまいます。“アジアの平和を構築するには、エクスクルーシブ(排他的)な対応ではなく、地域のすべての国を包みこむインクルーシブ(包摂的)な枠組みが大事だ”と一貫して主張してきました。

 それと同じ考え方が、「イスタンブール宣言」に据えられました。日本共産党が今回の総会に参加し要請してきた中心的内容が反映されたもので、とても喜んでいます。イスタンブールというアジアで一番西に位置する都市から、平和の大道を発信することに貢献できたと感じています。

ICAPPとは――アジアすべての政党に開かれたフォーラム

―そもそもICAPPはどんな会議でしょうか。

 日本ではあまり報道されていませんが、アジアでは国際的に広く重要視されている会議です。

 ICAPPは、2000年のフィリピン・マニラの総会いらい、今回で11回目の総会となりますが、「平和、友好、調和、共栄の『アジア共同体』を」をビジョンに掲げ、イデオロギーの違いを超え、与野党の違いを超え、アジアのすべての合法政党に開かれたフォーラムとして発展してきました。たいへんにユニークな性格を持つ国際会議ですが、ここまで本格的に根付き発展しているのはアジアだけです。今回は、30カ国1地域から69の政党が参加しました。

わが党は3段階にわけて必要な発言を行った

(1)宣言案への提案―コンセンサスを重視

志位委員長

インタビューにこたえる志位委
員長=トルコ・イスタンブール

―今回の総会に、日本共産党はどう臨んだのですか。

 ICAPPの性格・ルールを踏まえて活動しました。一つは、この会議で採択される宣言は、多数決でなくコンセンサス(全会一致)を原則としていることです。もう一つは、総会の討論についても、各国間の紛争や論争を激化させず、ともに解決方法を見いだしていく姿勢を貫くということがルールとして確認されていることです。

 これらを念頭に、会議にのぞみました。今回、日本共産党はICAPPに対して三つの文書(発言)を提起しました。

 一つは、ICAPP事務局に提出した「総会宣言案への日本共産党代表団の提案」です(別項)。ここでは三つの点を提案しました。

 第一は、ウクライナ問題です。ICAPPの性格を踏まえ、ロシアの侵略を正面から非難する文言は入れませんでした。最初からその文言が入っていれば総会のコンセンサスには決してならないからです。

 私たちが提案したのは、国連総会の緊急会合(10月12日)で、143の圧倒的多数の国が賛成して採択された決議の一部の内容です。「ウクライナの主権と領土保全を尊重しつつ、政治的対話などによる平和的解決をはかることを要請する」というものです。ICAPPとしても、この内容なら合意が可能だと考え、提案したものです。

 第二は、アジアの平和構築の問題です。ここで提起したのは、日本共産党が東アジアに平和を構築する「外交ビジョン」として一貫して訴えてきたこと――ASEAN(東南アジア諸国連合)と協力して、東アジアのすべての国を包摂する平和の枠組みをつくっていこうということです、この方向ならば、参加政党の合意が可能だろうと考えました。

 第三は、核兵器の問題です。「核兵器の使用は絶対に回避されるべきだ」と表明しようということ。さらに「核兵器のない世界」の実現の決意を発信しようということです。これは、ICAPPの総会では09年のアスタナ(カザフスタン)、10年のプノンペン(カンボジア)、14年のコロンボ(スリランカ)と繰り返し確認されてきたことです。この確認を踏まえて、今回の宣言案にも明記しようと提起しました。

(2)総会スピーチ―提案の中心的内容を参加者に伝える努力

 二つ目は、私の総会でのスピーチです。「1人5分」という時間制限があり、いま述べた三つの点にポイントを絞って、私たちの提案の中心的内容を参加者に伝えるために努力しました。英語で発言しました。

 一つ目のウクライナ問題では、ICAPPの性格を考慮しつつ、10月12日の国連総会の緊急会合で決議されたロシア軍の即時撤退、対話と交渉による平和的解決などの内容を引用しつつ、「国連憲章の擁護、対話と交渉による平和的解決の声を、国際社会に発信しよう」と呼びかけました。

 二つ目に「いかにして戦争の心配のないアジアをつくるか」という問いをたて、わが党の「外交ビジョン」を訴えました。ここでとくに強調したのは、「あれこれの国を排除して包囲するというエクスクルーシブ(排他的)な枠組みではなく、地域のすべての国を包み込むインクルーシブ(包摂的)な平和の枠組みをつくる」ことこそが重要だということでした。

 三つ目に核兵器の問題では“「核兵器のない世界」の実現を世界に呼び掛け続けてきたICAPPの努力が核兵器禁止条約に実った。それを互いに喜びあい、「核兵器のない世界」に進もう”と訴えました。

(3)公式文書発言―党がいうべきことはすべてのべた

 ICAPPに提起した三つ目は、公式文書による発言です。ICAPP事務局にわが党の公式見解として届けるもので、“提案で提起した内容にかかわって党としていうべきことは全てのべる”という考え方で作成しました。(全文は「赤旗」日刊紙20日付、党ウェブサイトに掲載

 たとえば、ウクライナ問題では、「ロシアの行動は国連憲章や国際人道法に違反した侵略であり、戦争犯罪である」などの厳しい批判を、ここでは全面的に書いています。

 このように今回の総会では、わが党としていうべきことを、(1)総会宣言案への提案(2)総会スピーチ(3)公式文書発言―の3段階に分けて行ったわけです。主張は一貫したものですが、ICAPPの性格・ルールを考慮して、こうした対応を行ったわけです。

総会でのスピーチにあたたかい反応が

優先的な“特別枠”の早い順番で扱われた

志位委員長

ICAPP総会閉会を受けて、あいさつを交わす志位委員長(右から2人目)と鄭義溶議長(その左)、ムシャヒド・フセイン・サイード宣言起草委員長(左端)、エフカン・アラー・トルコ公正発展党副議長(右端)=19日、イスタンブール(鎌塚由美撮影)

―なるほど。総会でコンセンサスが得られるよう細心の工夫で臨まれたんですね。総会でのスピーチの反応はどうでしたか。

 とても温かい反応が得られました。私の発言は、全体で四つあったセッションのなかで、第1セッションの2番目でした。これまでも何度もICAPP総会で発言してきましたが、これほどスピーチが早い順番になったのは初めてです。1番目がイランの与党、2番目が日本共産党、3番目が統一ロシア(プーチン大統領の与党)の順でした。

 発言者のリストを見ると、この3党は“特別枠”として、優先的に発言させるという枠となっていました。理由は聞いていませんが、長年ICAPPに私が参加し続けてきたということも影響しているかもしれません。最初のスピーチですから、会場も参加者がいっぱいで、集中して聞いてくれます。反応もたいへん強く感じられました。

「私たちのマインドにしっかり届く平和のスピーチだった」と

総会の議長がコメント

 私のスピーチの感想をまずのべたのは、宣言起草委員長を務めたムシャヒド・フセイン・サイードさん(パキスタン出身)です。サイードさんは、かつて私がパキスタンを訪問したさい(2006年)、ステート・ゲスト(国賓)として迎え入れるうえで重要な役割を果たしてくれた旧友です。総会の議長を務めていたサイードさんは、私のスピーチが終わった直後に、「ミスター志位は、戦争の心配のないアジアのビジョンを語ってくれました。感謝します」と議長として参加者にアナウンスしてくれました。私の主張の一番の中心点をくみとってくれたうれしい反応でした。

バングラデシュ アワミ連盟代表

 バングラデシュの与党でアワミ連盟の代表は、「核兵器廃絶はわれわれ共通の願いです。『アジアで戦争を絶対に起こしてはいけない、アジアを平和に』というアピールが響くスピーチでした。ヨーロッパでの戦争が継続しているだけにその切実さが響きました」という感想を語ってくれました。

ICAPP委員 タイ代表が歓迎

 ICAPPの常設委員でタイの代表は、「ASEANの活動を高く評価していただいたスピーチを歓迎します。われわれの仕事によく精通されていると感じました」という反応を寄せてくれました。

イラクのクルド民主党の代表

 イラクのクルド民主党の代表は、「われわれは戦争の近くにあるので、戦争の心配のない平和なアジアの訴えは、とても貴重で心に響く」と感想を寄せてくれました。この方は、次の日に懇談したさいに、「日本共産党のことをいろいろ調べて、自主性の強い、他の共産党にはない性格を持っていることを理解しました。そのことを理解した後で、スピーチを反すうすると、委員長が精魂込めて練り上げたスピーチだったことがわかってきました。私たちのマインドにしっかり届く平和のスピーチでした。核兵器廃絶の訴えは、われわれが化学兵器の使用で苦しんでいるもとで、大事なアピールでした」と感想を語ってくれました。

 いずれも私のスピーチの中心点を深く受け止めてもらった、たいへん心強い感想です。

エネルギー、食料、気候危機でも真剣な討論

―総会での他の政党の発言にはどんな特徴があったのですか。

 一言でいうと、極めて真剣で多面的な討論が続きました。テーマとしては平和の問題とともに、エネルギーと食料の価格高騰の問題、気候危機にかかわる発言も多くありました。

 気候危機が文字通り生存を脅かしているモルディブからは環境大臣、財務大臣、外務副大臣がそろって来ており、私も懇談しましたが、とりわけ環境問題を熱心に訴えていました。またパンデミック(感染爆発)の問題でも多くの発言があり、“人類が次のパンデミックにどう対処するかも含め、国際社会として真剣に対応する必要がある”という発言が印象的でした。

 多面的で充実した討論をへて、その全体が画期的な「イスタンブール宣言」に実ったといえます。

歴史的意義をもった「イスタンブール宣言」

志位委員長

18日、イスタンブールで開かれたICAPP総会で発言する日本共産党の志位和夫委員長(鎌塚由美撮影)

―宣言の意義を詳しくお話しください。

 率直にいって、私たちの期待を超える「宣言案」が出てきたと感じました。それは、日本共産党が文書やスピーチで行った主張の一番の中心点が反映されたものになったと思います。

ブロックを回避 競争より協力を

 まず何よりも、「ブロック政治を回避し、競争よりも協力を重視する」「対話と交渉こそが紛争解決の唯一の道」という大命題が、世界とアジアの平和をどうつくるかの基本姿勢にズバリと明記されました。ここが宣言の核心的な内容であり、私たちの提案の内容が明確に反映されたものになりました。これは歴史的意義がある宣言となったと言ってよいと思います。

 ウクライナ問題については、ロシアに対する名指しの批判はICAPPの性格上できませんが、「ウクライナで進行中の軍事紛争、特にその膨大な人道的破局の可能性のある軍事紛争に重大な懸念」を表明し、「国際法および国連憲章を守りながら、相違点を平和的に解決する外交努力を促す」と明記しています。この点も私たちの提案の基本点が組み入れられています。

核めぐる言動の激化懸念を明記

 核兵器の問題では、「核をめぐる言動の激化を懸念」すると明記されました。明示こそされていませんが、これはプーチン大統領の核兵器使用の威嚇を指したものと思います。「核兵器の使用は絶対に回避されるべき」だという私たちの提案とのかかわりでも、核使用の威嚇に対する批判が宣言に盛り込まれたことは重要です。

 ここで残念だったのは、「核兵器のない世界」という文言が宣言に入らなかったことです。実は、今回、日本共産党代表団は、宣言起草委員会に入っているベトナム共産党代表団と現地で会談し、その会談での合意にもとづいて、両党の共同の要求として「核兵器のない世界」の実現を宣言に書き込むよう、文書および口頭で起草委員会で提案したのですが、残念ながら実現にはいたりませんでした。

 とはいえ、宣言には、その冒頭に、「過去のICAPP総会で採択した宣言を順守することを再確認する」という一文が入っています。この一文は、2006年にソウルで開かれたICAPP総会のさいに、わが党代表団の提案で明記された一文だったのですが、それ以降の総会で、過去の総会の宣言の順守という一文はずっと盛り込まれてきています。

 「核兵器のない世界」は、これまで何度もICAPP総会で確認されてきた重要事項であることは事実であって、今回の総会でもその内容が「再確認」されたと言ってよいのではないかと考えています。

ASEANと協力し平和を

 さらに、私たちは、ASEANと協力して東アジアに平和を創出する枠組みをつくっていくことを提案したわけですが、これについては、宣言のなかに、「地域のさまざまな種類の集団的な枠組みの強化」「地域協力のイニシアチブを結びつける」ことが強調され、その冒頭に東南アジア諸国連合(ASEAN)の取り組みが明記されました。

日本共産党の提案にICAPP議長が謝辞

―宣言全体に日本共産党の提案がかなり反映されていますね。

 その通りです。とくに、「ブロック政治を回避し、競争より協力を重視する」という基本姿勢が明記されたことはとても重要です。

 さきの参院選で“軍事対軍事のブロック対決がエスカレートすることが一番危ない。東アジアのすべての国が参加する包摂的な平和の枠組みを発展させよう”と、私たち日本共産党は懸命に訴えました。その中心点が、アジアのすべての政党が参加する国際会議の宣言のなかに盛り込まれたわけで、とても感慨深いことです。

 採択後、私は、議長団の席に行って、ICAPPの鄭義溶(チョン・ウィヨン)議長(前韓国外相)に「良い宣言が採択されて喜んでいます。日本共産党の提案が反映されていることに感謝します。とくに宣言が、『ブロック政治を回避し、競争よりも協力を重視する』と明記したことは、あれこれの国を排除するのでなく、包摂的な平和の枠組みの重要性をのべたものとして歓迎します」とあいさつしました。鄭議長は「宣言の定式化への提案など、日本共産党の貢献に感謝します」と応じました。たいへんに心強い評価でした。

「インクルーシブ イエス」 起草委員長と意気投合

 総会が終了したあと、参加者みんなが参加したボスポラス海峡のクルーズでの懇談・食事の機会に、先ほど紹介した宣言起草委員長のサイードさんと宣言に盛り込まれた「ブロック政治の回避」の意味について話し合いました。「宣言でのべている『ブロック政治』は具体的に何をイメージしたのですか」と私が尋ねると、彼は、「クアッド(QUAD)やオーカス(AUKUS)が念頭にありました」と答えました。

 QUADは、日本、米国、インド、オーストラリア4カ国でつくっている枠組みで、事実上の中国包囲網です。私たちはQUADについては“エクスクルーシブ(排他的)な枠組みとして、新たな冷戦構造をつくる危険がある”ととらえ、批判的なコメントを出してきました。ただし4カ国のなかでもインドは、この枠組みを排他的な枠組みではないと説明しており、温度差もあります。

 AUKUSは危険な動きで、米国とイギリスとオーストラリアの3カ国による軍事ブロックです。ドイツやフランスなどもこの動きに参加し、東アジアで軍事演習などを行ったりしています。まさに軍事的な「ブロック政治」そのものです。

 サイードさんは「QUADやAUKUSはブロック対ブロックの対抗になり危ないと思います」と説明しました。私は「その通りです。包摂的(インクルーシブ)な対応が必要で、排他的(エクスクルーシブ)な対応は良くない」と返しましたら、彼は「その通り」だと。私たちは、「インクルーシブ イエス!」「エクスクルーシブ ノー!」と言って(笑い)、互いに意気投合しました。

アジアで起こっている平和への世界史的変動

志位委員長

18日、ICAPP第11回総会の会場でトルコの与党・公正発展党のザフェル・スラカヤ国際部副委員長(右端)と懇談する日本共産党の志位和夫委員長(左から2人目)、緒方靖夫副委員長(その右)、小林俊哉国際委員会事務局次長(左端)=イスタンブール(鎌塚由美撮影)

―こうした画期的な内容が宣言に入った根底にあるのは何でしょうか。

 「ブロック政治を回避し、競争より協力を重視する」という基本姿勢がなぜ宣言に入ったのか。わが党の提案も一つの貢献になったと思いますが、そこには客観的な理由もあると思うんです。

 アジアはヨーロッパと大きな違いがあります。ヨーロッパは今、NATO(北大西洋条約機構)が広がり、そのほぼ全域がNATO化し、軍事同盟に覆われつつあります。

 それに対して、アジアは、日米、米韓、米豪の軍事同盟が存在していますが、この三つの例外的な事例を除いて、アジアには軍事同盟が基本的に存在していないのです。岸田首相はよくヨーロッパの状況をひいて“ウクライナは明日の東アジアかもしれない”という言説を振りまいていますが、両者の安全保障環境には大きな違いがあります。

 たしかにアジアでも、北朝鮮の核・ミサイル開発、中国の覇権主義、そして米国の覇権主義など、さまざまな紛争や緊張の火種があります。しかしアジア大陸を、20世紀から21世紀という長期のスパンで巨視的、大局的にみれば、「敵対と分断」から「平和と協力」という大きな世界史的な変動が起こっていることは間違いありません。とくに私たちは、ASEANの存在と活動は、その象徴だと考えています。今回の宣言は、そうした状況を反映したものだといえるのではないでしょうか。

 もう一点付け加えるとすれば、ICAPPという組織自体がインクルーシブ(包摂的)な組織だということです。どの国も、どの政党も排除することなく、すべての国の政党を迎え入れる包摂的な組織がアジアに存在し活動をしている。そういう組織ならではの歴史的意義を持つ宣言がつくられたのではないかと思います。

 総会が終わった後のクルーズ上の懇談の場で、ICAPPの鄭議長に「宣言はICAPPの歴史にとって大事な一里塚をつくりました。さらに発展させるために力をつくしたい」とあいさつし、互いにハグしました。鄭議長も宣言の歴史的な意義を重視していたと感じました。

総会前日の昼食会で中心メンバーと交流

志位委員長

イスタンブールで開催されたICAPP第11回総会の全体会合=18日(鎌塚由美撮影)

―歴史的意義を持つイスタンブール宣言が出されることになった努力、プロセスについてうかがえますか。

 さきほど紹介した三つの文書(発言)に加えて、実は、会議の初日の議事が始まる前(17日)に、鄭議長から私に昼食会の招待があり、参加する機会がありました。

 昼食会は、少人数の10人余りの会合でした。参加者は、鄭さんやサイードさん、主催政党でトルコ与党の公正発展党幹部、ICAPP常設委員会のメンバーとなっているタイ、カンボジア、インドネシア、スリランカなど、ICAPPの中心メンバーです。

 招待されて行ってみたら、日本共産党と私のICAPPとのかかわりを詳しく紹介してくれるのです。まず鄭議長が、「志位委員長は、ICAPPに長年の貢献をしてきました。タイムリー、コレクト(正確)な提起をしており、これまでの総会への貢献は重要です。日本では、日本共産党は与党ではありませんが、草の根で存在感のある党です」と紹介してくれました。

 サイードさんは「日本共産党は『赤旗』という新聞をもっている。レッドフラッグという意味だ」と紹介し、鄭議長が「私も『赤旗』の記事に掲載されたことがある」と、話題がはずみました。

 私が、「日本共産党は、どんな国であれ覇権主義に反対しています。同時に、特定の国を排除するのではなく、包摂的な平和の枠組みをつくっていくことが大切です」と話したら、ある方が「日本と中国の政府間の関係は良いと言えませんが、日本共産党と中国共産党との関係はどうなっていますか」と聞いてきました。

 私は、「両党には論争問題があります。中国による東シナ海と南シナ海でのふるまいには厳しい批判をしています。同時に、そのことで国際的な枠組みから中国を排除することには反対です。とくに軍事的対抗の強化には反対です。中国も含む包摂的な枠組みが必要です。この点でASEANは、東アジア全体で包摂的な平和の枠組みをつくることを提起しており重要です」という話をしました。翌日、総会で行う予定だったスピーチの内容を話したのです。

 それに対して、参加者から、「たいへんリーズナブルな(道理のある)提案だ」という反応がありました。スピーチの中心点を事前に話す機会があったことは、とてもよかったと思います。私たちの提案の意味や背景を深くつかんでいただけたのではないかと思っています。

 私自身は16年前の06年のソウルの総会から出席していて、今回6回目になります。継続して出席して信頼関係を積み重ねてきました。出席するだけではなく、日本共産党として、どうすればICAPP総会が実のある成果をあげ成功するか、一回一回の会合で知恵を絞って提案もしてきました。そういう積み重ねに対して信頼が寄せられていることを感じたところです。

日本から参加した唯一の政党として

―今回の会議に日本からはどの政党が参加しましたか。ロシアの政党や地元トルコの政党の反応を教えてください。

 日本からの参加は日本共産党だけでした。これは残念なことです。ICAPPの常設委員会からは、ぜひ日本から他の党も参加してほしいとの率直な声も出されました。ただ日本共産党が参加したので、イスタンブール宣言の参加国リストにはちゃんと「ジャパン」という国名が入っています。日本共産党は日本代表ということになりました。

 日本は、アジアで中国に次ぐ経済規模を持っている国です。そうした国の政党が、こういう重要な国際会議に出ない。とくに政権党である自民党が出ないのは、たいへんに残念な現状だと思います。

 総会での討論で、私の発言の次はプーチン大統領の政党――統一ロシアでした。私が、国連総会決議を引用して、ロシアによる併合決定の撤回、ロシア軍の即時・完全・無条件撤退を求めたのに対して、統一ロシアの代表は、自分たちがやっていることについて「メディアがゆがめて伝えている。それを信じないでほしい」というもので、正面からの議論はありませんでした。

 主催政党のトルコの公正発展党(AKP)とは、国際部副委員長と懇談の機会がありました。トルコはNATO加盟国で、米国の核兵器も配備されています。そういう状況のなかでも、外交を独自に重視している姿勢を感じ、日本にない特徴だと思いました。

 私が、「わが党は、ロシアの侵略に対して強い批判を持っていますが、ロシアを国際社会から排除することには反対です。ロシアを包摂する枠組みをつくっていく必要があります」と述べると、副委員長が「トルコのことわざに“友人とは近く、敵とはもっと近く”というのがある」と語っていたことは、たいへんに印象的でした。

戦争の心配ないアジアつくる――提案し行動する日本共産党

―岸田政権は、イスタンブール宣言とは反対の軍事対軍事に熱中しています。

 そうですね。岸田政権がやっていることは、イスタンブール宣言でいえば、まさに「ブロック政治」の一番悪いものです。米国言いなりに、あれこれの国を排除し、軍事力の増強で対抗していこうというものです。

 この政権は、「外交の重視」を言葉では言いますが、外交戦略と呼べるものは何も持っていない。その一番のあらわれが、ICAPPに自民党の代表がいないということです。これは外交不在の象徴のように思います。

 21世紀のアジアでは、古い軍事ブロック的思考で地域に分断を持ち込み、軍事対軍事の一辺倒でやっていく、こうした姿勢は危険なだけでなくもはや通用しません。そのことをICAPP総会に参加してあらためて痛感しました。

 こうしたもとで、私たち日本共産党は、いかにして戦争の心配のないアジアをつくるかについて、提案もし、行動もしている。このことを内外に広く伝えて、日本から平和の流れを起こしていきたいと決意しているところです。

日本共産党代表団

団長=志位和夫委員長、団員=緒方靖夫副委員長・国際委員会責任者、小林俊哉国際委員会事務局次長、鎌塚由美国際委員

総会宣言案への日本共産党の提案

 1、ウクライナの事態を深く憂慮し、総会は、国連憲章の諸原則に従い、国際的に認められたウクライナ国境内でのウクライナの主権と領土保全を尊重しつつ、政治的対話、交渉、調停およびその他の平和的手段による平和的解決をはかることを要請する。

 2、総会は、アジアで戦争を決して起こしてはならず、国連憲章および国際法の諸原則に従い、紛争を平和的・政治的に解決する決意を表明する。東南アジア諸国連合(ASEAN)が2019年の首脳会議で採択した「ASEANインド太平洋構想(AOIP)」を支持する。東アジアサミット(EAS)を、地域のすべての国を包摂する平和の枠組みとして強化し、ゆくゆくは東アジア規模の友好協力条約を展望することが、戦争の心配のないアジアをきずく道である。

 3、総会は、核兵器の使用がもたらす壊滅的な人道的結末への深い懸念をもち、核兵器の使用は絶対に回避されるべきであると訴える。総会は、核兵器禁止条約の発効とその第1回締約国会議の開催を歓迎し、これまでのICAPP総会で繰り返し確認されてきた「核兵器のない世界」の実現に向けて、いっそうの努力と決意を表明する。

イスタンブール宣言骨子

一、領土保全、主権の相互尊重、相互の不侵略・内政不干渉、平等と互恵、平和共存を堅持するICAPP憲章の原則を再確認

一、イデオロギーの違いを超え地域の全政党に開かれたフォーラムとしての役割に留意

一、共通課題には集団的な対応が必要。ブロック政治を回避。競争よりも協力を強調

一、ウクライナでの軍事紛争に重大な懸念。国際法・国連憲章を守りながら、相違点を平和的に解決する外交努力の再開を促す

一、大量破壊兵器の拡散は地域及び世界の平和と安全への脅威。ここ数カ月の核を巡る言動の激化を懸念

一、ASEANなどの地域協力のイニシアチブを結びつけ、様々な集団的な地域枠組みの強化のため協力

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