2022年10月2日号
【全文公開①】◎大阪維新市政に新疑惑/カジノ用地賃料大値引き/専門家「不正な不動産鑑定」
“評価額談合”で毎年15億、累計500億円超優遇
カジノリゾート用地の賃料を不当に安くし、カジノ事業者を優遇している―。大阪市の松井一郎市長(日本維新の会顧問)が開設を狙う大阪カジノに新疑惑が浮上しました。日曜版編集部と日本共産党・宮本岳志衆院議員の調査で判明したもの。調査に協力した不動産鑑定士は、本来の賃料との差額を35年間で計500億円超と試算。市が賃料の根拠とした鑑定評価に「不正があった疑いが極めて高い」と指摘しています。
本田祐典記者
※肩書や今年・昨年などの表記は掲載時点
市は年約25億円で大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)の約49万平方メートルをカジノ事業者に貸す予定。賃料が不当に安ければ、その差額はカジノ営業への“隠れ補助金”に。国がカジノ解禁の前提とする「民設民営」にも反します。
「不正な鑑定評価で賃料を安くした疑いがある」と指摘するのは、市が保有する不動産の鑑定評価に詳しいベテラン鑑定士です。
3業者がぴたり
鑑定士が分析したのは、2019年に市の依頼で4業者が発行した不動産鑑定評価書。市が編集部に開示したもので、賃料を決めた根拠だとしています。
問題は、4業者のうち3業者で評価額がぴたりと一致したことです。いずれも更地価格「12万円/㎡」、利回り「4.3%」、月額賃料「428円/㎡」でした。評価額が同じ3業者は21年にも市の依頼で再鑑定し、うち2業者が更地価格「12万円/㎡」など、ほぼ同じ結果でした。(表)
鑑定士は指摘します。
「評価額は鑑定士によってバラつきがあるのが業界の常識だ。49万平方メートルもの土地で『偶然の一致』はない。数字がそろう原因は二つしかないが、どちらにしろ“鑑定評価額談合”だ」
鑑定士が指摘する原因の一つは、依頼者から価格の指示や希望、誘導などがあったこと。もう一つは、業者が連絡を取り合い、数字を合わせたことです。
いずれも、鑑定評価への信頼を損なう重大な不正行為です。
“ホテル”とせず
それだけではありません。評価額を減らしたカラクリも明らかになりました。鑑定評価書によると、市がカジノ計画を「考慮外」とするよう指示していたのです。土地を使った事業の収益を地権者にも分配する賃料算定の原則をないがしろにする行為です。さらに―。
「大型レジャー施設などの最寄り駅前は当然、収益力の高いホテル用地になる。しかし、駅前の『最有効使用』をホテル用地とせず、評価額に反映していない」(鑑定士)
カジノリゾート用地の東側は、建設中の地下鉄夢洲駅が接する“駅前一等地”。実際のカジノ計画でも全体面積の5分の1超がホテル用地です。
ところが、すべての鑑定評価書が、ホテルより価値が低い大規模複合商業施設(ショッピングモールなど)の用地として敷地全体を評価。この不適切な評価も「偶然の一致」では説明がつきません。
本来の賃料はいくらが妥当か―。調査に協力した鑑定士は「少なくとも年40億円程度」と試算します。
試算の手順は
①ホテル用地の価値を市内のユニバーサル・スタジオ・ジャパンに隣接するホテルと同等に1平方メートル50万円とする
②49万平方メートルの5分の1をホテル用地に置き換える
③全体の更地価格は約1.6倍になり、賃料も約1.6倍になる
―というものです。
賃料が毎年15億円も過少なら、当初の事業期間35年間で計500億円超を事業者に支援する結果となります。
すでに市は2月の基本協定で賃料を「月額428円/㎡」と明記し、年約25億円を約束。開業後の賃料改定も物価変動への対応だけとし、実質35年間固定で優遇する方針です。
鑑定評価した4業者は不正の有無について「守秘義務があり、依頼者以外に回答できない」「回答を控える」「市を通してほしい」などとしました。
大阪港湾局(府市の合同組織)は「評価額などの指示はない。駅前をホテル用地としなかったのは各業者の判断だ」としています。
市民が市を提訴
カジノリゾート用地をめぐっては、松井市長が土地課題対策費として790億円もの公金投入を決定(3月の市議会で維新、公明などが賛成し議決)。7月、市民5人が市と事業者の定期借地権設定契約差し止めなどを求めて提訴しました。