「赤旗」日曜版2014年9月28日号
「アジアの共同体」、「核兵器のない世界」
アジア政党国際会議と日本共産党の貢献
志位委員長が語る
「力対力」の対応ではなく、今こそ地域の平和協力の枠組みを全アジアに広げよう―。スリランカのコロンボで開かれたアジア政党国際会議(ICAPP)(注1)の第8回総会(18~20日)。東南アジア諸国連合(ASEAN)のような地域の平和協力の枠組みを全アジア規模に広げることや、核兵器禁止条約のすみやかな交渉開始を世界に向かって呼びかける「コロンボ宣言」を全会一致で採択しました。この二つの課題は、日本共産党の提案が実ったもの。アジアの本流と響き合った会議の成果を、同総会に出席した日本共産党の志位和夫委員長に聞きました。
「コロンボ宣言」に盛り込まれた画期的な内容
――今回の会議は大きな意義がありましたね。
志位委員長 たいへん重要な会議となったと思います。ICAPPは、イデオロギーの違いを超え、与野党の別なく、アジアで活動する全ての政党に開かれたフォーラムとして発展してきました。今回の第8回総会のメーンテーマは「アジアの共同体の構築」でした。
総会にはアジアの29カ国から75政党が参加しました。オブザーバーとしてラテンアメリカ・カリブ海政党会議(COPPPAL)、アフリカ政党評議会(CAPP)、国連など11の多国間・国際組織が参加しました。日本から参加したのは、日本共産党と民主党でした。
全会一致で採択された「コロンボ宣言」には、二つの重要な課題について画期的な内容が盛り込まれました。
一つは、ASEANのような地域の平和協力の枠組みを北東アジアなど全アジア規模に広げることを提起したことです。
もう一つは、ICAPPとして、核兵器禁止条約のすみやかな交渉開始を世界に向かって呼びかけたことです。
アジア大陸の全域から、与野党の別なく、さまざまな立場の政党が集まっている国際会議で、このような宣言が採択されたということは、アジアの平和と安定にとっても、「核兵器のない世界」をめざす世界や日本の世論と運動にとっても、大きな貢献になると確信するものです。
日本共産党は、「北東アジア平和協力構想」を提唱していますが、私たちの「構想」の方向が、ICAPPの賛同をえたという点でも、今回の会議はとても勇気づけられるものとなりました。
(注1)アジア政党国際会議(ICAPP) アジアの政党が与野党の区別なしに一堂に会し、世界とアジアの現状、今後の課題について話し合う国際会議です。2000年の初回のマニラ(フィリピン)総会以来、今回は8度目の総会となります。日本共産党は、第2回総会となったバンコク(タイ)での総会以降、毎回、代表団を派遣しています。
「アジア共同体」と「北東アジア平和協力構想」
――アジア政党国際会議(ICAPP)の総会で志位さんは、どのような発言をされたのですか。
志位 今回の総会のメーンテーマ「アジアの共同体の構築」にそくして、二つの主題で発言をしました。ICAPPという会議の性格を考えて、どんな立場の政党でも賛同が得られるようにと主題を設定し、論立てを考えました。
第一は、「アジアの共同体の構築」というメーンテーマそのものについてです。
|
「アジアの共同体」という問題を考えるさいに、すでにこの大陸の各地で、「国連憲章にもとづく平和の国際秩序」の担い手として、さまざまな形で地域の平和協力の枠組みが形成・発展しつつあることは重要です。
アジア大陸の全体を見渡してみますと、東南アジアでは、東南アジア諸国連合(ASEAN)が平和の地域共同体として目覚ましい発展をみせています(注2)。南アジアにも、中央アジアにも、それぞれの条件にそくして地域の平和協力の枠組みがあります。ところが北東アジアには、そうした地域の平和協力の枠組みが存在していません。紛争や緊張の火種を抱えているのに、対話と外交によって平和的に解決する枠組みがない。ほかの地域とくらべても、大きな空白になっているのです。
こういう状況を踏まえて、日本共産党は、今年1月の第26回党大会で「北東アジア平和協力構想」を提唱しました(注3)。それは端的に言えば、ASEANの東南アジア友好協力条約(TAC)のような、あらゆる紛争を平和的に解決する枠組みを、北東アジアにも構築しようというものです。
|
私は総会の発言のなかで、アジア大陸の各地域でつくられている平和協力の枠組みに注目しているとのべるとともに、わが党の「北東アジア平和協力構想」を紹介し、こう呼びかけました。
「アジア大陸の各地域で、それぞれの実情に応じて、地域の平和協力の枠組みを構築・発展させ、やがてはそれを合流させて、平和、友好、協力、繁栄の『アジアの共同体』をめざそうではありませんか」
「アジアの共同体」という場合、地域によって条件はさまざまであり、単一の共同体を一挙につくる条件があるわけではありません。しかし、すでに大陸の各地では、さまざまな形で地域の平和協力の
|
枠組みができており、それぞれを大いに発展させる。北東アジアにも平和協力の枠組みを構築する。それらを合流させ、「アジアの共同体」をつくろうと呼びかけたのです。
(注2)ASEANとTAC 東南アジア諸国連合(ASEAN)は、1967年に設立された地域協力機構です。信頼醸成、紛争の平和的解決、平和と安定のために、域内はもとより、域外諸国を含めた多様な対話と協力の枠組みを何重にも構築しています。その一つが東南アジア友好協力条約(TAC)です。TACは76年の第1回ASEAN首脳会議で採択された基本条約で、独立、主権、平等、領土保全の尊重、内政不干渉、紛争の平和解決と武力の不行使などを原則にしています。87年以降は、国際条約として域外に広がり、57カ国が参加しています。
(注3)「北東アジア平和協力構想」 日本共産党は、2014年1月の第26回党大会で、次の四つの目標と原則に立った「構想」を提唱しています。①域内の平和のルールを定めた北東アジア規模の「友好協力条約」を締結する、②北朝鮮問題を「6カ国協議」で解決し、この枠組みを地域の平和と安定の枠組みに発展させる、③領土問題の外交的解決をめざし、紛争をエスカレートさせない行動規範を結ぶ、④日本が過去に行った侵略戦争と植民地支配の反省は不可欠の土台となる
核兵器禁止条約のすみやかな交渉開始を
――「核兵器のない世界」が、発言の第二の主題ですね。
|
志位 そうです。来年は広島・長崎被爆70周年です。5年ぶりに核不拡散条約(NPT)再検討会議が開催されます。「核兵器のない世界」を実現する決定的転機の年にしたい、との思いで、発言のもう一つの主題にすえました。
私は、この問題でも、ICAPPという会議の性格を考えて、どんな立場の政党でも賛同が得られるようにと、つぎの二つの点を強調しつつ、「核兵器のない世界」への道筋を訴えました。
一つは、2010年のNPT再検討会議で国際社会が核保有国も含めて一致して確認した到達点を発展させようということです。NPT再検討会議の最終文書は「核兵器のない世界を達成し維持するために必要な枠組みを確立するための特別な取り組みをおこなう」と明記しています。これを具体化、実践しようということです。
もう一つは、この間、国際社会で、核兵器の非人道性、残虐性を追及し、廃絶を求める流れが大きく発展していることです。核兵器は受け入れがたい非人道的兵器であり、それが使われない唯一の保証はその全面廃絶にある――この論理は立場の違いを超え、だれも否定することができないものです。
私は、この二つの点を踏まえて、核兵器禁止条約のすみやかな交渉開始を世界に向かって呼びかけようと訴えました。
「北東アジア平和協力構想」の方向が、ICAPPの賛同を得た
|
――総会の討論をへて採択された「コロンボ宣言」の意義についてお聞かせください。
志位 「宣言」は、全体として世界とアジアの平和と進歩にとって大きな意義をもつ内容となったと思います。
「コロンボ宣言」には、「アジアの共同体の構築」について、「ASEAN加盟国による友好協力条約(TAC)のような地域的な協力と統合の枠組み」が、アジアの各地域に生まれていること、そうした枠組みが北東アジアなど「地域の他の部分でも形成され」、「これらが、最終的にはすべてを包摂する汎(はん)アジアレベルに適用されるというわれわれの希望を表明した」と明記されました。
TACのような平和の地域共同体をアジアの「他の部分」でもつくろうということになれば、もちろん北東アジアでもつくろうということになります。日本共産党の提唱する「北東アジア平和協力構想」の方向が、ICAPPの賛同を得たということは、たいへんうれしいことでした。
核兵器禁止条約――「支持」から「呼びかけ」へと大きく前進
――核兵器問題でも「コロンボ宣言」の内容は勇気づけられます。
|
志位 はい。「コロンボ宣言」は、核兵器問題について、次のように明記しました。
「われわれは、2010年のNPT再検討会議で核兵器国によって合意された核兵器の廃絶という明白な約束を実施する必要を再び強調し、潘基文(パン・ギムン)国連事務総長が提案しているように、核兵器禁止条約についてのすみやかな交渉開始を呼びかけた」
これはたいへんに重要な内容です。
これまでもICAPPの総会は、「核兵器のない世界」の実現を繰り返し呼びかけてきました。09年の「アスタナ宣言」では「あらゆる地域で核兵器のない世界を目標とすべきだ」と呼びかけました。10年の「プノンペン宣言」では「核兵器禁止条約の交渉を支持する」と明記しました。今回の「コロンボ宣言」では「核兵器禁止条約についてのすみやかな交渉開始を呼びかけた」という一文が明記されました。
「支持する」から「呼びかける」へとさらに大きく前進したのです。すなわちICAPPが主体となって、核兵器禁止条約の交渉開始という世界的大事業をすすめることを、世界に向かって宣言し、呼びかけた。
|
いま日本では、来年のNPT再検討会議に向け、核兵器禁止条約の交渉開始を求める署名に多くの人々が取り組んでいます。それと同じ要求が、アジアの諸政党が集まるICAPPの呼びかけにもなったということは、たいへん大きな成果だといえると思います。
日本共産党の二つの提案が、「コロンボ宣言」に実った
――「コロンボ宣言」の内容は、日本共産党の提起と響き合うものとなっていますね。
志位 そうですね。実は、今年4月にICAPPの共同議長・事務局長の鄭義溶(チョン・ウィヨン)さんが党本部を訪れ、私と懇談しました。鄭さんからは、総会の「宣言」への提案を歓迎する、との発言がありました。
そこで5月に、私たちは、つぎの二つの提案を「コロンボ宣言」に盛り込んでほしいと、ICAPPの事務局に提起しました。
一つは、「ASEANのTACなど、紛争を平和的に話し合いで解決する地域の枠組み」が「アジアの他の地域でも形成されることへの期待を表明する」というものです。
もう一つは、「潘基文国連事務総長が提案しているように、核兵器禁止条約の締結に向けた国際交渉のすみやかな開始を呼びかける」というものです。
8月に鄭さんからメールで返事がありました。「コロンボ宣言のための諸提案に感謝します。それらは宣言案にうまく反映されるでしょう。私たちはICAPPの大義への日本共産党の確固たるコミットメントに大変感謝しています」とのべていました。
そののち送付されてきた「コロンボ宣言案」を見ると、私たちの二つの提案が、しっかりと取り入れられていました。
コロンボでのICAPPの総会で、鄭事務局長と懇談したおりに、私が、「コロンボ宣言案は素晴らしい内容になりました」と感謝の気持ちを伝えると、鄭さんから、「建設的な提案を寄せていただき感謝しています」「日本共産党の二つの提案は、コロンボ宣言の二つの焦点となりました」との言葉が返ってきました。
日本共産党の提案が実ったのはたいへんうれしいことでしたし、ICAPP総会全体の成功にも私たちは貢献できたと思っています。
スリランカの与野党との会談――日本外交への厳しい批判も
――他の政党との交流はいかがでしたか。
志位 参加した29カ国のほとんどの国の政党と、あいさつも含めて交流しました。とくに二つの点を報告しておきます。
一つは、スリランカの二つの政党との交流です。スリランカでは、与党は自由党で、最大野党は統一国民党です。双方のリーダーと会談する機会がありました。スリランカは、非同盟運動の源流の国の一つであり、核兵器廃絶でもつねに積極的立場をとっていますから、与野党を問わず、日本共産党の立場と太いところで一致します。核兵器禁止条約の交渉開始の問題についても、「100%賛成」「これ以上ないくらい同意します」という答えが返ってきて、意気投合する会談になりました。
とくに印象的だったのは、統一国民党のウィクラマシンハ党首と会談したときです。私が「北東アジア平和協力構想」について話しますと、ウィクラマシンハさんは、「構想」への賛意と同時に、「構想」がのべている「日本が過去に行った侵略戦争と植民地支配の反省は不可欠の土台」という部分についてこう語りました。
「ここはとても大切です。この問題は避けて通れない問題ですが、日本の首相は靖国神社に参拝しています。そういう姿勢では、韓国や中国との前向きな関係を築くうえでも、朝鮮半島の非核化などの諸課題の解決のうえでも、障害となるのではないですか」
日本外交に対する痛烈な批判です。こうした見方がスリランカの政党のリーダーからも語られたことは、たいへん印象深いことでした。
ラテンアメリカ、アフリカの政党会議との交流
志位 もう一つは、ラテンアメリカ・カリブ海政党会議(COPPPAL)とアフリカ政党評議会(CAPP)の代表との会談です。
COPPPALがつくられたのは1979年、現在、ラテンアメリカの21カ国から中道、左派の69政党(与党17)が参加しています。コロンビアやエクアドルなどの五つの紛争問題の平和的解決にも関与し、いかなる国も核兵器の保有・開発は許されないという決議を採択したという説明でした。
CAPPは、2013年にスーダンで設立され、政治的立場の違いを超え、左派から右派まで参加しているとのことでした。37カ国45政党が参加し、アフリカ大陸の全域から主要な政党がほとんどすべて加わっているとのことです。搾取、戦争、外国の支配に反対し、平和で公正な世界とアフリカをめざして活動しているとの説明でした。
それぞれの政党会議が進めている方向は、日本共産党の立場とも一致するものであり、今後、大いに交流しようということになりました。
二つの政党会議との会談を通じて、日本共産党が野党外交で取り組んできた政党交流が、アジア、ラテンアメリカ、アフリカの三つの大陸の政党交流へと大きく発展する道が開けたという思いです。
日本共産党の立場は、世界とアジアの本流に立っている
――視野がぐーんと開けてきますね。
志位 そうですね。私が感じたのは、三つの大陸での三つの政党会議――ICAPP、COPPPAL、CAPPの発展は、これらの地域で、地域の平和協力の枠組みがつくられていることと深い関わりがあるだろうということです。アジアでは、ASEANをはじめとして各地で地域の平和協力の枠組みがつくられています。ラテンアメリカには中南米カリブ海諸国共同体(CELAC)がつくられています。アフリカではアフリカ連合(AU)が活動しています。
ICAPP総会での活動の全体を通じて、私たちがめざす「北東アジア平和協力構想」、そして「アジアの共同体」という方向は、世界的な普遍性を持っている。日本共産党の立場は、世界とアジアの本流に立っている。そのことを強く感じました。ここに確信をもって、私たちの事業をさらに発展させたいと決意しています。