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2024年11月16日(土)

主張

生活保護の車保有

自立助ける日常生活での使用

 地方などでは、公共交通機関が切り縮められるなか、車は生活に欠かせない足です。ところが、生活保護世帯には原則として自動車の保有が認められていないため、保護を受けたくても受けられない事態を生んでいます。

 現在、地方では車の保有率は8割を超えます(日弁連調査、2022年3月)。しかし生活保護世帯では、▽障害者や交通不便などで自動車以外に通勤する方法がない▽定期的な通院で、公共交通機関の利用が著しく困難かつ車の処分価値が低い―などの場合に保有が限定され、障害や高齢で移動困難な人にも、すでに持っている売却価値のない車の処分を指示したり、買い物などでの利用を禁じる不合理で硬直的な対応がされています。

■高裁で利用者勝訴

 車の使用をめぐるこうした対応をめぐって争われた裁判で名古屋高裁は10月30日、一審に続き、生活保護を停止した三重県鈴鹿市の処分を違法だとして取り消し賠償を命じました。

 同市は、ともに病気・障害を抱える80代の母親と息子に対し、子どもの通院に限って車の使用を認めたうえで、運転経路、運転開始・終了時刻、運転開始時・終了時走行距離、用件など詳細な記録を提出するよう求めました。これを負担に感じ提出しなかったために保護が停止されました。

 名古屋高裁は、保護の停止は親子の日常生活だけでなく生命の危険も生じさせかねず「行政権の裁量の逸脱・濫用」だと判断。保有車両に処分価値はなく、日常生活に不可欠な買い物などに使うのは、むしろ親子が「自立した生活を送ることに資する」と指摘しました。

 車の保有をめぐり高裁で生活保護利用者側が勝訴したのは初めてといいます。

■運用の見直し必要

 自治体のこうした対応の背景には厚労省の22年の事務連絡があります。同年に札幌市長が、障害などで車の保有を認められた場合、保護利用者の自立助長、資産活用の観点から日常生活での使用は認められるとしたのに対し、厚労省はこれを否定し、「適切な指導」を求める事務連絡を出して現場を締め付けました。

 自治体の現場では、ほとんどの生活保護利用者が車の処分を指導されているのが実態です。

 車の保有に関する運用は、1963年当時、自家用車の普及率が低かった頃の名残です。現在、ことに地方で生活に必要なものとなっている状況に合わせた見直しが必要です。

 憲法22条(居住・移転、職業選択の自由)で、国民には移動の自由が保障されています。移動の自由は、地域で孤立せず、友人や親族と交流するなど社会の一員として「健康で文化的な最低限度の生活」を送るために重要です。

 また、障害者権利条約20条は、障害者が自ら選択する方法で、選択する時に、負担しやすい費用で移動することを容易にするよう求めています。

 厚労省は22年の事務連絡を撤回し、硬直的で違法な運用をただちに改めるべきです。すべての国民に最低限度の生活を保障し、自立を助けるという生活保護法の目的に沿って、車の保有について見直すことが求められています。


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