2022年3月13日(日)
テレ東ネット番組が特集「北方領土問題と共産党」
「意外な『強硬』姿勢の論理とは」
テレビ東京のインターネット番組「テレ東BIZ」が11日、「北方領土問題と共産党/意外な共産党の『強硬』姿勢の論理とは」というテーマで、領土問題の経緯と日本共産党の解決に向けた考え方を紹介しました。
テレビ東京の官邸キャップの篠原裕明氏は、ウクライナ問題でロシアとの領土問題が国民の関心となっていると指摘。国後、択捉、歯舞、色丹の4島を「北方領土」と呼びロシアに返還を求めている日本政府よりも「ロシアに対し強硬な姿勢を示す政党」として「少し意外に思われるかもしれませんが、日本共産党なんです」と紹介しました。共産党は「北方4島」にとどまらず、千島列島全体の返還をロシアに求めるべきだという立場だと述べました。
日本とロシアの領土問題の経緯
篠原氏は、日本とロシアの領土問題の経緯を概略次のように説明しました。
―1855年の日魯(にちろ)通好条約で、日本とロシアの国境線は、択捉島とウルップ島の間に決められ、樺太は日ロ混住の地とされた。
―75年に樺太・千島交換条約を結び、日本は樺太を放棄するかわりにロシアから千島列島を譲り受けた。
―1905年、日露戦争の講和条約として結ばれるのがポーツマス条約の結果。北緯50度以南の南樺太が日本の領土となった。
―45年、ヤルタ会談でソ連の日本参戦と引き換えにソ連に千島列島を「引き渡す」ことを米英が認めた。
ここで、篠原氏は「そもそもソ連は戦争による領土拡大は認めないとする大西洋憲章にアメリカイギリスとともに参加しています。にもかかわらず戦争で領土拡大をするという形で北方領土に侵攻したことについて批判があります」と指摘しました。
―51年に、日本は、サンフランシスコ講和条約で台湾・南樺太などともに千島列島を放棄。日本政府は講和条約を締結したあとの国会で外務省の条約局長の答弁で、放棄する千島列島について択捉島国後島も含まれるといった立場を表明した。
―サンフランシスコ講和条約にはソ連との国交正常化には別途平和条約を結ぶ必要があり、国交正常化交渉にはいると日本は、放棄する千島列島には国後島・択捉島は含まれない。ソ連に対し国後・択捉・歯舞・色丹の4島の返還を求めるという立場をとる。
―日本は、領土問題は棚上げにして日ソ共同宣言を結ぶ。ソ連およびロシアとの領土問題は未解決。
篠原氏は、領土問題での経過を示した上で、「この経緯を頭にいれていただいたうえで、なぜ、日本共産党は『北方4島』だけでなく千島列島全体の返還をもとめているか」と述べ、10日の志位和夫委員長の記者会見でのやりとりを紹介しました。
問題の解決には第2次大戦の戦後処理の不公正をただすこと
篠原 共産党として、日ロ間の領土問題に対する基本的な対応の方針というものを説明いただきたい。
志位 これは私たち、かねてからこの問題の解決のためには第2次世界大戦のときの戦後処理の不公正をただすということがどうしても大切だということを一貫して主張してまいりました。どういうことかといいますと、第2次世界大戦というのは、領土不拡大を戦後処理の大原則にしました。つまり、戦勝国も領土をひろげてはいけないということを戦後処理の大原則にしたわけですね。にもかかわらず、1945年にヤルタ会談において、当時の(ソ連の)スターリンが(米国の)ルーズベルト(大統領)、(英国の)チャーチル(首相)に対して千島列島の引き渡しを求めるわけです。ソ連参戦と引き換えにチャーチルとルーズベルトがそれを認めてしまって密約が結ばれる。
この千島「引き渡し」の条項に基づいてスターリンが千島列島全体を占領するわけです。その不公正がもとにある。その状況がサンフランシスコ平和条約の中でも引き継がれて、アメリカも拘束されていますから、その条項の2条C項のなかで千島列島の放棄が書いてある。ここに一番の問題がある。
平和的領有にもどり全千島の返還を
志位 そもそも戦後処理自体が不公正だったわけですから、ヤルタ協定、あるいはサンフランシスコ条約の不公正な項目。これを清算して、本来のところに戻す必要がある。本来のところが何かと言ったら、日本が平和的に領有したのはどこかということです。
それは樺太千島交換条約にありますよね。これによって、樺太はロシア領に。千島は、南千島の国後、択捉だけではなくウルップからシュムシュまで北千島も含めて、全部日本領にする。これが樺太千島交換条約ですよ。
日本は南北千島の全部について領有権を持っているんです。ですから、全千島列島の返還を堂々と求める交渉をやるべきです。
歯舞、色丹というのは、これは千島列島に含まれません。北海道の一部ですから。これは、すぐに返してもらう。これは、緊急に中間的な条約を結んででも返還してもらう。ただ、2島で絶対に終わりにしてはならない。2島の返還は、中間条約としてありえるのですが、そのときに平和条約を結んではいけません。平和条約を結んだら終わりになってしまいますから、だから中間的な条約で2島を緊急に返還させて、絶対にそれで終わらせてはいけない。やっぱり、全千島の返還を求めて、交渉を続けるべきだということがわが党の立場です。
篠原氏は、志位委員長の発言のポイントを次のように整理しました。「まずは、第2次世界大戦は戦後処理の原則として大西洋憲章などで領土不拡大を決めていたのに、千島列島の引き渡しという規定がこれはアメリカも縛っているサンフランシスコ講和条約にも残っている。これは不公正な戦後処理であるということ」
「さらにほんらい平和的、外交的に交渉した時点に立ち戻るべきだと言っていて、共産党としてはそれは1875年の樺太千島交換条約であると。ここまでは戦争によるものでなくて、外交交渉によった国境線の画定だったわけです。この時点に立ち戻るべきだというのが共産党の立場です」
そのうえで、「歯舞と色丹は千島列島ではない。そもそも北海道の一部であるので、緊急的な条約で即時の返還を求めるべきである。ただ、その返還をもってして領土問題解決を意味する平和条約は結んではいけない。あくまで千島全土、全千島の返還が共産党の立場である」と説明しました。
篠原氏は、「『北方四島』返還という政府の方針と比べると、共産党の全千島返還というのは、かなり強硬ともいえる姿勢です」と指摘。記者会見での志位氏の説明を紹介しました。
4島返還は成り立たない。「国後、択捉が千島にあらず」では解決しない
篠原 そもそも日本政府は「北方四島」の返還という話です。共産党の考え方とは違うと思うのですが、この日本政府の「四島返還」という話は甘いという?
志位 (政府は)どういう理屈かというと、4島のうち、国後、択捉、この返還の理屈は、千島列島じゃないというふうに、区分けしているわけです。「国後、択捉は千島にあらず」だから返せという論です。ところが、これは成り立たない話でして、サンフランシスコ平和条約を結んだ時に、吉田茂全権代表が実際に、南千島の国後、択捉ということを明示的に認めているわけです。批准国会でもそういう答弁をやっている。ですから、「国後、択捉が千島にあらず」という議論では解決しない。
また、篠原氏は、2018年に安倍首相(当時)がプーチン大統領との間で、1956年の日ソ共同宣言にある歯舞、色丹の引き渡しということを基礎にした交渉加速を確認したと指摘し、「2島返還要求に事実上、方針転換したと受け止められました。志位委員長はこの点も厳しく批判しています」と述べ、志位氏の見解を紹介しました。
安倍氏は“幻想”に陥り、2島返還に後退。経済特区でロシアの実効支配強まった
志位 安倍首相の時代に、“ウラジーミル(プーチン大統領のファーストネーム)”と個人的な信頼関係を築けば前に進むんだという“幻想”に陥ったわけです。空想に陥った。それで、やったことは4島返還さえ後退させて、2島で事実上おしまいというところに交渉をうんと後退させたわけですね。
もう一つ重大なことは、その時、8項目の日露の経済協力のプランを合意しました。私は厳しく反対しました。なぜかというと、ロシアの主権のもとで、経済協力をやったらロシアの実効支配が強まるだけだからです。
いまプーチン大統領は、いよいよ、北方千島列島、そして歯舞、色丹も経済特区にすると。経済特区にして、優遇措置を設けて、いよいよもって実効支配を強める。結局そういうことになっています。ですから、まさに安倍、プーチン両氏が敷いた路線がいかに間違っていたかということが、これだけはっきりしたわけですから、両者で決めた経済協力プランはきっぱり中止する。もちろんその担当大臣もいりません。
篠原氏は「志位委員長は、安倍総理の対応について、プーチン大統領との個人的関係を築けば、領土問題が前進するという『幻想に陥った』と、こういう表現で厳しく批判し、安倍総理が領土交渉の呼び水として考えたロシアとの共同経済活動についても、むしろ『北方領土』でのロシアの実効支配を高めるものになったと厳しく糾弾しました」と述べました。さらに、「北方領土」を特区にするというロシアの動きについて「(志位氏は)淵源がある。原因があるんだと指摘して、この日露の共同経済活動というのはすぐに中止すべきだというふうに主張しています」と語りました。
共産党が領土問題で強い主張。ソ連とロシアの平和秩序を踏みにじる行動を批判
篠原氏は、「共産党が自国の領土について、ここまで強い主張をするのを意外に思う方もいるのではないでしょうか」と述べました。篠原氏は、日本共産党の小池晃書記局長は「今のプーチン大統領とかつてのソ連の指導者スターリンを重ねるようにロシア・ソ連の対応を批判しました」と述べ、7日の記者会見を紹介しました。
小池 やっぱり、旧ソ連といまのプーチン(大統領)。一貫して、戦後の平和秩序に対してそれを踏みにじる行動を続けてきているということについて、真正面から批判をしていく必要があると思います。日本共産党は、そういう立場で旧ソ連ともたたかってまいりました。
最後に、篠原氏は「(日本共産党は)4島返還の意味合いがある『北方領土』という言葉は使いません。正直言いまして、共産党が政権を実際にとって外交方針を左右するというのは、現在の政治状況では現実的ではありません。ただ、こうした別視点からの『北方領土』問題の主張というのですね、皆さんはどういうふうに感じましたでしょうか」と述べました。