2022年2月5日(土)
主張
NHK虚偽字幕
すべての経過を明らかにせよ
NHKのBS1スペシャル「河瀬直美が見つめた東京五輪」(昨年12月26日放送)で事実と違う字幕が付けられていたことに批判が広がっています。問題発覚後には制作過程のずさんなチェック体制が明らかになりました。NHK側が経過説明を二転三転させていることも不信を招いています。
言い訳と責任逃れに終始
問題の番組は、映画監督の河瀬氏らが東京五輪公式記録映画を製作する現場に密着したドキュメンタリーです。映画製作チームに協力した映画監督の島田角栄氏が五輪開催に批判的な街の人の声を聞く場面で、NHKは「五輪反対デモに参加しているという男性」「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」との字幕を付けて放送しました。
放送直後、視聴者から疑問が寄せられましたが、NHKは12月30日に再放送しました。「字幕の一部に不確かな内容」があったとおわびしたのは1月9日でした。男性は、五輪反対デモに参加する意向は示したとされますが、実際に参加したかは不明で、金銭授受についても確認されていません。
NHKの前田晃伸会長らは同月13日の記者会見で「捏造(ねつぞう)や意図的な編集はなかった。編集者の思い込み」などと釈明しました。正籬(まさがき)聡放送総局長は同月19日の会見で「放送前に事実確認をプロデューサーから指示された担当ディレクターが男性に直接取材せず、島田さんに確認しただけだった」と説明しました。しかし、島田監督は「放送前にディレクターからの事実確認はなかった」として抗議し、NHKは島田氏に確認したかのような誤解を与えたと訂正し謝罪しました。真面目に検証する立場を欠いたNHKの不誠実な姿勢は重大です。
複数の視聴者団体は経過を明らかにすることをNHKに申し入れました。五輪反対デモの主催団体は、金銭でデモ参加者を集めたかのような悪質な印象操作が行われたと抗議、謝罪を求めています。
この事態を引き起こしたのは、NHKが「(五輪)開催の機運を高める編成」(2021年度「国内放送番組編成計画」)を掲げ、五輪開催の旗を振ってきたことと無縁ではありません。NHKは、コロナ感染拡大で緊急事態宣言が出ているもとで開催推進の報道を続け、大会期間中、五輪以外のニュースの時間を大幅に短縮して五輪中継一辺倒の放送を実施しました。
昨年1月放送予定だった東京五輪について考える特集番組を収録直前に中止したり、世論調査でも開催に誘導するような設問変更をしたりしました。聖火リレー中継では約30秒音声を消して沿道からの「五輪反対」の声を伝えなかったことも批判されました。五輪への異論を封じ込めたい意図がすけてみえます。
問われる政府追随の姿勢
コロナ禍での五輪開催に突き進み、政権浮揚につなげようとした菅義偉政権(当時)に追随したNHKの公共放送としてのあり方が根本から問われています。
放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は、番組制作過程などについて、NHKに文書で報告を求めました。NHKには、番組の企画が成立した経緯、取材・撮影、編集作業などの過程を全て調査し、明らかにする責任があります。