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2021年12月12日(日)

主張

侮辱罪の刑罰強化

言論萎縮させる法改定やめよ

 岸田文雄政権が、表現の自由など基本的人権を脅かす刑法改定の準備を進めています。侮辱罪の刑罰強化です。政治家や公務員を批判する国民の言動が「侮辱罪にあたる」として処罰されかねない重大な動きです。

歯止めの規定や条文なく

 厳罰化議論の発端は、会員制交流サイト(SNS)などで激しい誹謗(ひぼう)中傷の投稿にさらされた女子プロレスラーの木村花さんが自死に追い込まれた痛ましい事件でした。投稿者は侮辱罪に問われたものの、科料9000円のみで、遺族からも「軽すぎる」と批判が上がっていました。

 ネット上などでの侮辱行為が許されないのは当然です。とくにネット社会の広がりを背景に、オンライン上で個人攻撃が拡大しているもとで、その対策は急務です。

 しかし、侮辱罪の厳罰化は、犯罪を抑止する以上に、社会を萎縮させる危険があります。

 法制審議会が法相に答申(10月21日)した厳罰化案では、現行の「拘留(30日未満)又は科料(1万円未満)」に、「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」を追加し、これに伴い、刑事責任を問うことができる公訴時効も1年から3年に延びます。公訴時効の延長は、罰金刑導入だけで可能であるにもかかわらず、懲役刑の導入で、これまで原則できなかった逮捕も可能になります。

 現在、個人に対する誹謗中傷などは、刑法の名誉毀損(きそん)罪で対処する手段があります。同罪では(1)公共の利害に関する事実がある(2)公益を図る目的がある(3)真実である―場合は罰せられません。ところが、侮辱罪にはこうした規定や歯止めの条文がありません。何を侮辱罪とし、どんな表現が罪にあたるかはあいまいで、捜査当局の恣意(しい)的な判断に任されます。

 これでは政府・与党政治家に対する批判にブレーキをかける効果を生み、政治についての自由な言論活動を制約してしまいます。厳罰化の動きを加速させているのも自民党です。

 法制審議会の部会の議論はわずか2回で一気に進め、反対意見を抑え込み、議事録の公表前に結論を出しました。批判や異論を無視し、来年の通常国会に改定案を提出することは、大問題です。

 世界では名誉毀損や侮辱をめぐる争いは、当事者間の民事手続きで解決をめざす動きが主流です。国連の自由権規約委員会は2011年に侮辱罪などを犯罪対象から外すことを提起し、刑罰を科す場合でも身体拘束するのは適切ではないとする見解を示しています。

 英国のイングランドとウェールズ、米国連邦法は名誉毀損罪や侮辱罪に相当する刑罰がなく、イタリアは16年に侮辱罪を削除しました。フランスは罰金刑のみです。

ネット中傷には多面的に

 ネット上の誹謗中傷は、社会的な不正を告発しジェンダー平等を主張する女性が標的にされる例が多く、対策の強化は待ったなしです。ネット空間を安全に利用できるようにするにはプロバイダーなどインターネット事業者の責任はとくに重大です。

 22年からは、中傷する投稿者を特定するための裁判手続きが簡素化されます。こうした法整備の効果も踏まえながら、オンライン上の誹謗中傷をなくす取り組みを多面的に追求する必要があります。


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