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2021年10月8日(金)

主張

ノーベル物理学賞

気候危機への警告 向き合う時

 今年のノーベル物理学賞は、地球温暖化を予測する研究に大きく貢献した米プリンストン大学の真鍋淑郎上席研究員ら3氏に授与されることになりました。

 地球の気候は大気、海洋、陸地面などの複雑な相互作用で決まります。3氏は、こうした複雑な現象を物理学で理論化する革命的な貢献をしたと評価されました。

予測モデルの礎をつくる

 真鍋氏は1950年代末からアメリカに渡り、大気を「地面から垂直に立った1本の円柱」と仮定し高度ごとの温度を計算する「1次元大気モデル」を考案しました。そして、このモデルを使って二酸化炭素(CO2)が倍増したときの世界の気温が2度上昇することを67年に発表しました。これが地球温暖化の定量的予測の基礎となる画期的な研究となりました。

 さらに大気全体の流れをシミュレーションする3次元構造のモデルを開発し、海洋の影響も組み込んだ「大気・海洋結合モデル」を69年に発表しました。これが複雑な気候を予測するための気候モデルの基礎となりました。

 真鍋氏と同時に受賞する独マックスプランク気象学研究所のクラウス・ハッセルマン教授は、変化する気象現象と長期的な気候予測を結びつけるモデルを作成し、地球温度に対する人間の影響を特定する方法を開発しました。

 真鍋氏らの成果は、国連IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の議論に生かされ“今の異常気象の多くは人間活動が原因で、このままでは気象災害がもっと甚大で深刻になる”と断言する第6次報告書(8月)に結実しました。

 日本共産党はこうした科学者の警告を受け止め、気候危機打開の戦略を発表し、CO2排出を2030年度までに50%~60%削減する大改革を提起しました。

 真鍋氏らの受賞を契機に、気候危機を打開するために力を合わせることを改めて呼びかけます。

 真鍋氏は、名古屋大学の環境学研究科の広報誌の対談で、CO2濃度の気候への影響の研究は、当初は温暖化を憂えてのものではなく「道草」で始めた知的好奇心にもとづく研究だったと語っています(09年)。

 日本学術会議など13カ国の科学アカデミーが発表した「Gサイエンス学術会議共同声明2020」は「画期的なブレイクスルーへと結実するのが、えてして真理探求型で直接的な応用を志向しない研究の結果であることは、科学のパラドックス(逆説)である」とし、減少している基礎研究への投資の回復を提言しています。

 真鍋氏の受賞は、研究者が好奇心にもとづき、やりたいことを自由に研究できる環境をつくることこそが、政治の役割であることを教えています。

基礎研究の振興こそ

 ところが、安倍晋三・菅義偉政権による「イノベーション政策」は「基礎研究から実用化までを見据えて一気通貫で研究開発を推進する」という応用志向に偏り、基礎研究をおろそかにしてきました。岸田文雄首相は、科学・技術政策を成長戦略の道具に位置づけており、研究力低下を招いた失政への反省がありません。

 政権交代を実現し、研究者の知的好奇心にもとづく基礎研究を振興する政策へと抜本的に転換することが求められています。


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