2021年9月12日(日)
ドイツ総選挙の最大争点
環境・気候変動対策が浮上
【ベルリン=桑野白馬】9月26日投票のドイツ連邦議会選挙(総選挙)で、気候変動対策が最大の争点に浮上しています。
公共放送ARDの世論調査によると、有権者が政治課題と考えているのは、環境・気候変動対策が33%で第1位。次いで移民22%、新型コロナウイルス18%と続きます。前回2017年総選挙時は、移民47%、環境・気候変動対策9%でした。4年で大きく変わりました。
今年7月、ドイツ西部を大雨と洪水が襲い、大きな被害を出しました。8月、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、地球温暖化が異常気象の影響を深刻にすると警告しました。
後日、フランクフルトでの若者の気候デモを取材すると、「(IPCC報告を聞くと)7月の洪水被害が頭に浮かんだ」「危機はすぐそこまで来ている」との声を聞きました。デモを主催したのは「未来のための金曜日」(FFF)。気候危機打開を求めて行動する若者の団体です。若者の行動は欧州と世界に広がっています。
ベルリン在住の大学生のニコラス・タールさん(22)は、各党の環境政策をもとに投票するといいます。「友人や家族と環境政策を見比べて議論したい。若者の将来がかかっているから」と話しました。
ドイツ総選挙 各党の政策
気候対策 避けられず
「どの党も政治家も、気候変動問題を避けては通れなくなった」。左翼党のパスカル・マイザー議員は本紙の取材に、「未来のための金曜日」の活動の影響を、こう評しました。
連立与党のキリスト教社会・民主同盟(CDU・CSU)と、中道左派の社会民主党(SPD)は、2045年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする方針を決定。環境問題の関心の高まりを受け5年前倒しした形です。石炭火力発電は、38年までに全廃する方針。SPDは温室効果ガス排出対策としての交通網の整備も掲げ、気候変動問題を前面に押し出しています。
一方、緑の党は石炭火力発電の廃止を30年に前倒しすると公約。30年までのガソリン・ディーゼルエンジン車の販売禁止も主張し、より強力な環境保護策を打ち出しています。
左翼党は、環境保護と労働者の権利保護を両立させる必要があると主張します。同党のマイザー氏は「環境規制が厳しくなった結果、自動車産業で働く人の雇用が失われては意味がない」と指摘します。
CDUのラシェット首相候補は、緑の党の政策が「産業界に悪影響を与える」と批判。SPDのショルツ首相候補は、「雇用創出と合わせて気候変動対策を進める」と強調し、他党との違いを際立たせようとしています。
中道右派の自由民主党(FDP)は、二酸化炭素(CO2)排出量取引の拡大で、排出量規制を市場にゆだねるべきだとの立場。前回総選挙で躍進した極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は、社会の構造を根本的に変えてしまうとして、温室効果ガス排出量ゼロに反対しています。地球温暖化の国際的枠組み「パリ協定」からの脱退も主張。どの政党にとっても、連立の対象外となっています。
緑の党は一時、世論調査で支持率首位に立ったものの、ベーアボック首相候補に著書の盗作疑惑が持ち上がり、支持率が急落しました。7月中旬、西部で発生した洪水を受け、「緊急気候保護プログラム」を発表。次年度の連邦予算で気候保護への投資を150億ユーロ(約2兆円)に拡大する方針のほか、政府の気候変動対策を監視する「気候保護省」の新設を掲げ、巻き返しを狙います。
CDUのラシェット氏は、洪水の被災地を訪れた際、談笑している姿をカメラに捉えられたことで、支持率が急落。政策への本気度や信頼度が疑われる事態となっています。
代わって有権者の支持を集めているのが、現役の財務相として新型コロナ対策に当たった実績もあるSPDのショルツ氏です。10日の世論調査では、SPDが25%で首位となり、CDU・CSU22%、緑の党17%との差を広げています。FDPとAfDは、それぞれ11%。左翼党は6%です。
1、2位を争うSPDとCUD・CSUのいずれの政党が勝利したとしても、連立政権樹立には緑の党との連立が必要となる可能性が高い。SPDは左翼党の政権入りも排除しておらず、選挙後の環境政策は流動的です。
マイザー氏は「左翼党の躍進で政権に影響力を与えられるようになれば、環境と労働者保護を妥協なく両立させ、公正な社会を実現できる」と話します。ただ、ドイツの総選挙では比例票が5%に満たない政党は議席を得ることができないため、左翼党は正念場を迎えています。(ベルリン=桑野白馬)