2021年8月26日(木)
主張
防衛省概算要求
過去最大の軍拡要求許されぬ
防衛省は今月末が締め切りの2022年度概算要求で、5兆4000億円台の軍事費を計上する方針です。概算要求としては21年度と同水準ですが、年末の予算案編成で21年度当初の軍事費5兆3422億円を上回ることを狙っています。そうなれば8年連続で過去最大を更新し、歴代の政権が軍事費の目安としてきた国内総生産(GDP)の1%という枠を突破する可能性も指摘されています。歯止めなき軍拡要求が、コロナ禍で経済的な苦境に立つ国民の理解を得られないことは明らかです。
GDP1%枠採用せず
軍事費は、当初予算で02年度(4兆9560億円)をピークに12年度(4兆7138億円)までの約10年間、わずかながら減少傾向が続いていました。ところが、12年末に発足した第2次安倍晋三政権以降、拡大に転じ、15年度には過去最高額(4兆9801億円)となり、翌16年度には5兆541億円と、初の5兆円を超えました。菅義偉政権が編成した21年度を含め軍事費の増額は9年連続で、過去最大を更新するのは7年連続となっています。
軍事費の1%枠は、1976年に三木武夫内閣が閣議決定で初めて設けました。「各年度の防衛関係経費の総額が当該年度の国民総生産(注・GNP)の100分の1に相当する額を超えない」としました。86年に中曽根康弘内閣が廃止し、87~89年度の軍事費は1%を超えました。しかし、「(76年の)閣議決定の節度ある防衛力の整備を行うという精神は、引き続きこれを尊重する」とし、その後も1%枠は目安とされてきました。実際、90年度以降に1%を超えたのは、リーマン・ショックの影響でGDPが大きく落ち込んだ2010年度の一度だけです。
「節度ある防衛力整備という精神の尊重」との文言も、10年に閣議決定された「中期防衛力整備計画」(中期防)までは記載がありました。ところが、13年に安倍内閣が決めた中期防では、その文言が消えます。安倍氏の後継である菅首相は「日本政府は防衛費をGDPの1%枠に抑えるというアプローチを採用しない」(米誌ニューズウィークのインタビュー、今月11日付電子版)と明言するまでになっています。
軍事費は1%枠が目安とされていた中でも全体としては大きく膨れ上がってきたのが実態です。しかし、菅政権はそれさえ取り払い、「節度」もなく、際限のない軍拡に突き進もうとしています。
菅政権が一層の軍拡を狙うのは、中国と覇権争いをしている米国の軍事戦略に追随・加担するためです。菅首相は4月のバイデン米大統領との共同声明で、日米同盟と日本の軍事力を強化する決意を表明しています。防衛省の概算要求では、沖縄を含む南西諸島の軍事態勢を強めることや、そのための兵器増強などが盛り込まれます。
抜本的な軍縮の道こそ
中国が東シナ海や南シナ海で繰り返している国際法違反の覇権主義的行動は容認できません。しかし、それに軍事的に対抗すれば、危険な軍拡競争の悪循環を引き起こし、偶発的な衝突から戦争になる危険ももたらします。平和なアジア太平洋地域を実現するための外交的なイニシアチブを発揮し、抜本的な軍縮の道に踏み出す政治への転換こそ必要です。