2021年8月15日(日)
自衛隊特集10本超
テレビが広報に加担
問われる自主性
政府は7月に閣議決定した防衛白書で防衛省・自衛隊の活動は「国民の信頼と協力を得ていくことが重要」だとして、自衛隊の広報活動を重要事項と位置づけています。これに呼応したかのように、今年1月~7月までに民放テレビ・キー4局が自衛隊を特集した番組は10本以上にのぼることがわかりました。
戦闘機に搭乗 護衛艦を見学
日本テレビは「沸騰ワード10」(金曜日放送)など3番組で7回特集しました。自衛隊の施設を訪れ、訓練などに密着。自衛隊が「大好き」だという芸人やアイドルが戦闘機に搭乗し、護衛艦の内部を見学しました。
5月放送の同局番組では、男性芸人が「防衛大臣に呼び出された」として東京・市ケ谷の防衛省を訪問。訓練の様子や、防衛省に配備された地対空ミサイルの性能や金額を取りあげました。さらに岸信夫防衛相が「防衛省・自衛隊に対する理解の促進に貢献」したとして男性芸人に感謝状を手渡す一幕も映し出されました。
各局の特集番組は、「テレビ初公開」などのあおり文句で訓練や設備、戦闘機の威力や機能を説明するほか、退官職員や隊員と家族の話を感動秘話として紹介。それを見たスタジオゲストが感想を述べ合うという、最近増えている、さまざまな仕事の裏側を見せる“職業バラエティー”のつくりです。
しかし番組のなかには「番組に密着オファーが」と、自衛隊側から取材依頼があったとするものも。“密着”を見た出演者の感想も「すごい」「感動した」などの持ち上げばかりで、実質的に自衛隊のPR、イメージアップにつながっています。
防衛省は本紙の取材に対し、「広報費用などのテレビ局への支払いはない」と回答。タレントが戦闘機に乗るための減圧訓練やテスト費用は「他の隊員と一緒に行っているので発生していない」としました。
自衛隊番組が最も多かった日本テレビは、企画意図や自衛隊からの依頼があったのか尋ねた本紙に対して「制作過程についてはお答えしていません」と回答。自衛隊・自衛官の出演に関して「金銭のやりとりはない」としました。
無批判のまま「職業紹介」か
この間、自衛隊は広報のノウハウを学び、テレビ局などマスメディアとの人脈を築くために大手広告代理店に「研修生」を送り込んでいます。テレビへの露出拡大は、手軽で費用負担もなく、視聴者の親近感を得て、自衛隊への抵抗感を払しょくするのに最適です。
放送法は、「放送が健全な民主主義の発達に資する」ことを目的として掲げています。米軍と一体になった戦闘訓練や、中東派兵などで自衛隊員の命が危険にさらされることなどに無批判のまま、職業紹介の様相で自衛隊広報の片棒を担いでいいのでしょうか。放送局の自主性が問われています。(北野ひろみ)
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