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2021年7月29日(木)

2021とくほう・特報

命危ない 医療現場悲鳴

 東京都の新型コロナ感染症の新規感染者数が28日、3177人と過去最多を記録、首都圏3県も神奈川県が同日1051人と過去最多を記録するなど新規感染者が爆発的に増えるなか首都圏の保健所や医療機関は逼迫(ひっぱく)、危機的な状況に直面しています。

一番強い感染の波

 「区内の医療機関のコロナ病床は満床となり、都の広域調整でも入院待機者が出始めている」。東京都北区の保健所は26日、区議会にこう報告しました。

 「これまでで一番強い感染力の大きな波が来る」

 保健所は土日祝日も夜間まで対応しているが患者数増加に追い付かない状況で感染経路の調査より在宅患者への支援を優先としています。また感染と診断された人には、保健所から連絡が来る前に呼吸苦や激しい倦怠(けんたい)感がある場合で緊急の場合は119番するよう区のホームページに告知しました。

 東京都心から約30分の私鉄駅前にある千葉県流山市の東葛病院(330床)。

 「先週から急激に患者さんが増えました。感染拡大のスピードと規模は第3波をはるかに超える。危ない状況です」。濱砂一光副院長の冷静な声に緊張がにじみます。

 発熱外来の陽性率は先週末から3割を超え。今年から12床に拡大したコロナ病床は満床状態が続いています。

 同病院など東京民医連加盟病院が検査検体を出す病体生理研究所(東京都板橋区)の同病院への報告では27日までの10日間で180検体の4割がデルタ株でした。同病院でも検査できたうちの半分がデルタ株。高齢者へのワクチン接種と感染力の強いデルタ株への置き換わりで若年層の患者が増えています。7月は入院患者の6割が50代以下。20~30代で3分の1を占めました。

中等症から重症化

 患者が若年化しても入院患者の状態は悪化しています。28日現在の11人の入院患者は全員が肺炎を発症した中等症以上です。うち4人は酸素投与が必要で重症化の危険と隣り合わせの中等症II。さらに「人工呼吸器装着の一歩手前」(濱砂医師)と言われ、一般の酸素療法の数倍の高流量の酸素を送り込むネーザルハイフローを装着した患者が2人います。

 実際、これまで同装置を装着した患者14人の状態が悪化、人工呼吸器の必要な重症となり重症者対応病院へ転送しました。

 28日も同様にネーザルハイフロー装着者から重症化する人が出て保健所に転送を要請しました。しかし返ってきた返事は「重症病床は満床。県全体で優先順位は5番目です」。

 「これではいつ送れるか分からない。自院で人工呼吸器管理までやらざるをえないかもしれない」と濱砂医師は決意しました。

 同病院は集中治療室でコロナ対応をしていません。一般のコロナ病床での人工呼吸器管理は病院全体に重い負荷をかけます。

 千葉県の重症病床使用率は22・8%ですが、実態を反映しているとは言えません。さらに重症化の危険と隣り合わせの中等症IIの患者が増えています。「重症者という氷山の下に、予備軍の中等症IIの患者が大勢います。重症化しても重症病床に送れない悲劇が増加する危険がある」と濱砂医師は語ります。

「このままでは搬送先なくなる…」

 保健所がひっ迫する東京都北区の王子生協病院(159床)の発熱外来には先週末以降、連日30人近くが受診しています。陽性率は直近の1週間で19・2%を記録しました。陽性者の多くが20代から50代。患者が出た区内の保育園で濃厚接触者になった園児15人のうち2人が陽性でした。「陽性の子どもが出たのは初めて」。東京ほくと医療生協の高橋朋子看護部長は話します。

 東京都中野区にある二次救急医療機関の中野共立病院(110床)。発熱外来のほか、開業医などから感染が疑わしいと診断された人に、PCR検査を実施するPCRセンターを設置し、新型コロナ感染症対応にあたっています。

 山本英司院長は「以前は1日2~3人だったPCRセンターに来る人が、28日は8人。確実に増えています」と、疑い症例の増加を指摘します。発熱外来の対応でもこの間、予約なしで来る人や救急車で搬送されてくるケースが増えていると話します。

陽性率が急上昇

 同病院では1~26日にPCR検査などを133件実施。そのうち陽性だった割合は30%を超えました。さらに23~26日に限れば陽性率は43・5%に跳ね上がっています。

 以前は、同病院でPCR検査を始めた昨年8月以降、陽性率が最も高かった時期でも、10%台だったといいます。山本院長は「この1カ月ぐらい急に陽性率が上がってきた感じです」と語ります。

 同病院では、発熱のほか呼吸苦の症状がある患者の場合、中等症以上が疑われるため、迅速に結果が分かる抗原検査を実施。陽性であればCT(コンピューター断層撮影)で、肺炎の有無を調べることになっています。

 「症状から明らかに中等症ではないかという人が結構います。抗原検査をして当日中に診断をつけたほうがいいケースも増えています」(山本院長)

 同病院は、数百床を抱える大病院と異なり、コロナ入院患者の受け入れ可能な病床を現在の3床以上に増やすのは不可能です。しかし、病床不足は中規模以上の病院の問題にとどまりません。感染者急増に伴い、全体のコロナ病床が不足すれば通常の医療が制限される事態になるため、山本院長は救急医療自体が回らなくなると強調します。「昨年の夏は、救急車が30、40病院に断られて救急搬送先が見つからず、当院が受けたこともありました。いまはまだそういうケースはありませんが、深夜を含む夜間帯の発熱を対応する病院が少ない。このまま行けば、搬送先が決まらない患者が増えるんじゃないか」

五輪固執の首相

 都内で過去最多の新規感染者2848人が確認された27日、記者団から五輪中止の選択肢について問われた菅義偉首相は「人流も減っているので、そこはない」と強弁しました。

 山本院長は、政府があくまで五輪を優先し、命の軽視を続けるのはおかしいと語ります。「莫大(ばくだい)な費用をかけ五輪を続ける一方、医療分野は物心両面のサポートも十分ないまま、感染爆発の厳しい局面に対応させられようとしている。医療従事者はいずれ疲れ果て、現場から多くの人が立ち去るようになるかもしれない。そうなれば、本当の医療崩壊が起き、現在の医療さえできなくなるでしょう」

 東葛病院の濱砂医師も語ります。

 「オリンピックはこれから本番。人流は減っていない。オリンピックをやっておきながらテレビの前で観戦してといってもそれは通らない。直ちに中止が必要です」


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