2021年6月25日(金)
「開幕」まで1カ月 “五輪安全神話”に命は預けられない
感染と混乱広がる前に中止を
社会部長 三浦誠
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東京五輪・パラリンピックの開幕まで1カ月を切りました。開会直前といえるタイミングで政府、東京都、IOC(国際オリンピック委員会)などは観客数を会場定員の50%、上限1万人と決定。そこには新型コロナウイルス感染拡大の危険を顧みない主催者側の姿勢が表れています。
提言を無視
政府新型コロナ対策分科会の尾身茂会長ら専門家有志は「無観客開催」などを提言しています。提言を無視した理由について、大会組織委員会の橋本聖子会長(参院議員)は、「『中止』というのが尾身会長の提言になかった」と主張。提言が「中止」に言及しなかったことを奇貨として、有観客の決定を強行しました。
「上限1万人」という数字にも、まやかしがあります。IOCと競技団体、スポンサー、放送権者、旅行ツアー事業者らは「大会運営関係者であり、観客ではない」(組織委の武藤敏郎事務総長)として、1万人とは別枠で参加できるというのです。
小中学生を動員する学校連携も「1万人」とは別枠です。学校連携のチケットは59万枚が販売済みです。
観客、大会関係者らを入れると会場には約381万人が訪れることになります。専門家有志の提言は、五輪が通常のスポーツイベントとは別格の規模であると指摘。夏休みとも重なるため人出が大幅に増え、感染拡大や医療ひっ迫のリスクがあるとしています。
提言に名を連ねた国際医療福祉大学の和田耕治教授は、「開会式ぐらいには、都内の1日あたりの新規感染者が600~800人になるという予測がある。現状のまん延防止等重点措置を解除すると一気に感染者が増える」と指摘します。
地方の医療体制が圧迫される恐れもあります。マラソンがある北海道では、沿道で多くの人が観戦する可能性があります。しかし組織委は具体的対策を示していません。和田教授は「北海道や地方の会場は医療体制が薄い。地方に感染が広がることを懸念している」と語ります。
主催者側は
五輪による感染拡大の危険を主催者側はどう考えているのか―。
橋本会長の会見で、「五輪で感染が広がり命や健康が損なわれる人が出れば、政治家でもある会長はどのような責任をとるのか」と問いました。
橋本会長は「より『安心・安全』の大会にするため、最後まで努力をしていきたい」とかみ合わない回答をしました。その言葉から国民の命や健康を守るという気概を感じることはできませんでした。
まともに説明をせず、「安心・安全」という言葉を繰り返すのは菅義偉首相も同じです。根拠のない“五輪安全神話”に浸る人たちに国民の安全を預けるわけにはいきません。さらなる感染と混乱が広がる前に、五輪は中止すべきです。