2021年6月22日(火)
主張
「観客あり」の決定
「命よりも五輪」は許されない
政府や東京都などは今夏の東京五輪について観客を入れて開催することを決定しました。感染症の専門家が先週末、無観客開催が「望ましい」と提言していたにもかかわらず、菅義偉政権をはじめ開催者側はあくまで「観客あり」に固執しました。観客数に上限を設ける、状況に応じて見直すなどといっても、感染拡大のリスクを高めることは避けられません。この時期に東京五輪を開催すること自体、極めて高い感染拡大リスクです。開催の場合でも「リスクを最も軽減できる」手段として専門家が提案した「無観客」まで拒んだ政府や都などの姿勢は重大です。
一層のリスク増大の危険
観客を入れる方針は21日、政府、都、五輪組織委員会、国際オリンピック委員会、国際パラリンピック委員会の5者協議で決めました。「まん延防止等重点措置」の解除を前提に、会場定員数の50%以内、1万人を上限にします。国立競技場の開会式については、別途検討するとしました。
五輪期間中、多くの人が東京を中心に国内を動き回ることになり、感染症にとって最も重要な対策である「人の流れを極力抑制する」こととは正反対の方針です。
政府のコロナ対策分科会の尾身茂会長ら26人の提言(18日)は、開催の可否には触れなかったものの、五輪によって感染リスクが増大する危険を強く警告し、リスクを直視した対応をとることを政府や組織委などに迫っています。
提言は、五輪がなくても夏季は、旅行や帰省で長距離の移動があり、普段一緒にいない人と接触が増え、感染が落ち着いていた地域でも、急拡大の可能性を指摘します。さらに、規模や社会的注目度が通常のスポーツイベントと別格の五輪が開催されれば、「観戦のための都道府県を越えた移動が集中して発生し、人流・接触機会や飲食の機会が格段に増加する」と警鐘を鳴らし、「無観客」「大会規模の縮小」などの重要性を訴えています。「観客がいる中で深夜に及ぶ試合」が行われれば、営業時間短縮や外出自粛などを要請されている市民には「矛盾したメッセージ」になることも挙げています。
提言の資料では、五輪にともなう人流増加に、感染力の強いデルタ株の影響が重なれば、東京都の7月末の新規感染者数は2000人を超える推計も示しました。そうなれば東京の医療はひっ迫し、多くの命が奪われかねない危機的事態を招くのは必至です。
菅首相は、緊急事態宣言の発令の場合は「無観客というのも辞さない」(21日)などと述べました。これでは手遅れになるおそれがあります。首相は、国民の命と健康を危険にさらしてまで、五輪をしなければならない理由を説明できません。「命より五輪」の姿勢を改め、五輪中止を決断しコロナ対策に集中すべきです。
国民の不安を受け止めよ
共同通信社の世論調査では、開催の場合に感染が再拡大する不安を感じるとの回答が86・7%に上りました(「東京」21日付)。「朝日」(同日付)でも「不安を感じる」は83%です。「毎日」世論調査(20日)では、64%が「五輪を安全、安心な形で開催できるとは思わない」と答えました。「開催ありき」「観客ありき」の菅政権を許さず、「五輪より命が大切」の声を広げ政治を大きく動かしましょう。