2021年5月9日(日)
「五輪無理」 内外で噴出
「一大感染イベントになりかねない」
今夏の東京五輪・パラリンピック開催の「中止」「見直し」を求める声が国内外で噴出しています。「新型コロナ感染対策の決め手」(菅義偉首相)とした日本のワクチン接種の遅れ、「フェアな大会」をいっそう困難にする各国の感染状況の広がりと深刻化、疲弊する医療従事者にさらに負荷をもたらす動員―。どうみても、コロナ対策と五輪開催は両立しません。
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識者やスポーツ関係者からも、「五輪でも『ノー』と言って、将来『あの時の判断で世界が救われた』と言われる国になってほしい」(演出家の宮本亞門さん、「東京」8日付)、「日本国民の命ファーストですから、医療体制がひっ迫した中で(五輪が)行われてほしいかと言ったら、それは間違っていると思いますし、アスリートも望んでいないと思います」(元テニスプレーヤーの杉山愛さん、7日放送の民放テレビ)などの発言が出ています。
ところが菅首相は「IOC(国際オリンピック委員会)が開催権限を持っている」と責任を丸投げする一方、緊急事態宣言延長を決めた7日の記者会見では、「開催できるのか、開催していいのか」と問われ、「安全安心の大会を実現することは可能」などと、あくまでも開催に固執しました。コロナ禍での五輪開催に道理がないことがここまで明らかになっているもとで、責任逃れは許されません。日本政府は直ちに中止の決断をして、IOCに伝え、関係方面と調整するべきときです。
「コロナ対応未解決」「事態悪化するだけ」
海外メディア次々
海外メディアは、開催自体への不安や懸念を表明する論評や記事を掲載しています。日本の医療従事者の反対行動にも注目しています。
米紙サンフランシスコ・クロニクル4日付は、開催すべきでないとする論評を掲載しました。昨年の五輪の延期決定は新型コロナウイルスの抑止、ワクチン普及のための時間稼ぎだったが「パンデミック(世界的流行)は終わっていないし、そこに近づいてもいない」、残された11週間では「時間が足りない」と述べています。
また、インドや南米は「ウイルスにどっぷりとつかったまま」だと指摘。日本はワクチン接種率が「世界で最低水準」で、東京や大阪などに緊急事態宣言が出され、感染が収まっていないとし、「海外に門戸を開き、一大感染イベントになりかねないものを開催するには、理想的な時期ではない」と述べています。
仏紙ルモンド(電子版4月23日付)も論評で開催を批判しました。
論評は、「オリンピックなんかやっているところではない」との山梨県知事の発言や、自民党の二階俊博幹事長の「五輪中止」発言を紹介。病院がひっ迫していることや、検査が限定されて感染規模がいまだ不明であることなどを列挙し、開催延期を決めた1年前より状況は深刻だと指摘しました。
さらに世界中から外国人が集まる五輪は、「変異株の祭典」となり、「感染を加速させる危険性がある」と批判しています。
また、菅政権が開催に固執するのは「国家の威信」や「金銭的利害」によるものと論じ、政官財の癒着や利権集団の構造的問題が、長期的な対策よりも短期的な対策を優先する「危機管理の欠陥」につながっているとする日本の識者の分析を紹介しています。
オーストラリアの公共放送(ABC)のウェブサイトは5日、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化する中での東京五輪開催について、「コロナ対応や選手への潜在的影響について問題が解決されていない」と題する記事を掲載しました。選手への検査体制などを公平に運営していく手順がまだ確立されていない問題点を伝えています。
国際オリンピック委員会(IOC)が、来日する選手に、損害への免責同意書への署名を求めているとも報道。新型コロナの感染拡大のなかで、数々の制約の下で開催されることから「楽しいオリンピックにはならない」と述べました。
大衆の疑問高まる
また記事は、オーストラリア・オリンピック委員会がオーストラリアの選手は心配の声を上げていないと述べているが、「一般大衆は、大会はそもそも開催されるのか、との疑問しか抱いていないようだ」と指摘。感染が拡大するインドで、選手に厳しい隔離を課して開催していたクリケットリーグが中止されたことに触れ、東京大会への疑問がさらに高まっていると述べています。
ニュージーランドのオタゴ大学マイケル・ベーカー教授は「パンデミックのさなかの開催は、まさに意味がない」と述べ、開催延期を求めました。ニュージーランドの公共放送(TVNZ)が3日の番組で報じました。
ベーカー氏は「もう1年、延期することが正しい判断だ」と語りました。同氏は、「科学は、広範な国際的移動を伴う大規模な集まりを開催すべきではないと言っている」と指摘し、オリンピック開催は「間違いになる」と述べました。日本の状況について、国民や医療関係者が開催を望んでいないと紹介。「自らも現瞬間の感染拡大の制御に苦労している」なかでの開催は「事態を悪化させるだけだ」と述べました。
安全も安心もない
英紙ガーディアン3日付は、東京五輪・パラリンピック組織委員会が日本看護協会に対し、大会期間中に500人のボランティア派遣を要請したことについて、「日本の医療関係者の間で怒りの声が上がっている」と報じました。
記事は、新型コロナウイルス感染の拡大が深刻化している下での今回の要請は「いかに人命が軽んじられているかを示している」と述べた名古屋の看護師の声を紹介しました。
尾﨑治夫・東京都医師会会長の「国内でも海外でも、感染症を増やさずに大会を開くことは非常に困難だ」とする見解を掲載。また、英医学誌が「依然として安全でも安心でもない」とし、日本に五輪開催を「再考すべきだ」と促していることを紹介しました。
日本共産党の田村智子参院議員が「感染状況は極めて深刻。物理的に(開催は)不可能だ」と述べたことも報じています。