2021年4月29日(木)
主張
2倍化法案の審議
受診抑制を広げる逆行許すな
菅義偉政権が、高齢者医療費2倍化法案の衆院通過を大型連休明けにも図ろうとしています。現在原則1割の75歳以上の医療費窓口負担に2割を導入することなどが法案の柱です。審議を通じ、負担増によって高齢者の受診抑制を拡大する危険をはじめ重大な問題が次々と明らかになっています。コロナ禍は、国民が安心して医療を受けられる仕組みの抜本的強化の必要性を浮き彫りにしているのに、法案の方向は正反対です。国民に痛みを強いる「2倍化法案」の強行は、やめるべきです。
暮らしの実態を考慮せず
「2倍化法案」は、75歳以上のうち単身世帯で年収200万円以上、夫婦世帯で同320万円以上を新たな負担増の対象にします。早ければ2022年10月から実施に踏み切ることを狙っています。
すでに3割負担の「現役並み」所得の人と合わせると、75歳以上の約3人に1人が2割負担以上となります。かつて政府は、75歳以上の原則1割負担を「ぜひ維持したい」(08年の麻生太郎首相=当時)と明言していました。国民への約束を平然と投げ捨てる姿勢そのものが厳しく問われます。
窓口負担増が、高齢者の受診抑制を引き起こすことは政府も認めています。「2倍化」によって高齢者が医療機関にかかることを控える影響について、3年間の「激変緩和」措置を講じても医療費は年約900億円減少すると試算しています。「緩和」期間が終われば、減少は年1050億円にのぼるとされます。首相は「このことが直ちに患者の健康への影響を意味しない」と盛んに強調します。しかし、根拠を具体的に示しません。
日本共産党の宮本徹衆院議員が厚生労働委員会で、負担増の対象となる所得基準を決める際、受診行動の変化を考慮したのかとただすと、政府側は、受診行動の変化の大小を基準にしていないと答弁しました。疾病ごとの影響も示せないと繰り返しました。病気やけがの頻度が高い75歳以上の大規模な受診抑制を想定しながら、影響を検討もせず負担基準を決めるやり方はあまりに乱暴です。
宮本議員は、糖尿病など自覚症状が現れにくい疾患を中心に受診を控える傾向があるとする調査や研究結果も示し、首相の無責任な姿勢を追及しました。田村憲久厚生労働相は負担能力のある人が対象と言いますが、その根拠にした政府の調査は高齢者の生活実態を正確に反映していません。サンプル数は少なく、貯蓄や家賃の違いなどは踏まえていない平均値です。暮らしの現実を無視し、負担を押し付ける議論は許されません。
医療破壊2法案の廃案を
今回の法案で高齢者に負担を強いても、現役世代本人の医療保険料の負担減は月30円弱にすぎません。負担が一番減るのは、国など公費支出です。若い世代の負担を減らすための法案という菅首相らの主張は成り立ちません。
参院で審議が続く、「病床削減推進法案」は、医療機関の再編・統合を加速し、コロナ対応で役割を果たしている公立・公的病院を苦境に追い込む恐れが明らかになっています。同法案では、医師の時間外労働の上限を過労死ラインの約2倍(年1860時間)まで認めることも問題になっています。医療破壊の2法案は廃案しかありません。