2021年3月26日(金)
主張
東京五輪
開催中止の決断を急ぐべきだ
東京五輪の聖火リレーが福島県でスタートしました。7月23日までの121日間、全国各地を約1万人のランナーが走る計画です。新型コロナ感染が再び増加傾向をみせ、「第4波」への警戒が呼びかけられる中でのリレー開始に、国民は不安と懸念を強めています。五輪開催自体にも「中止」「延期」を求める声が国内外で広がっています。ところが菅義偉首相は聖火リレーで「機運を高めて」と開催に固執する姿勢を改めません。いま必要なのは、中止の決断に向けた議論を直ちに始めることです。
コロナ収束みえないのに
聖火リレーは、辞退者が相次ぐ異例の事態となりました。理由はさまざまですが、森喜朗・前五輪組織委員会会長の「(新型コロナが)どういう形であろうと必ず大会を開催する」などの発言に抗議したタレントもいます。「コロナの収束がみえない中、聖火リレーや五輪・パラリンピックを実施することに疑問がある」と語る元選手もいます。コロナ禍での開催への根強い不信を反映しています。
島根県知事は、政府や東京都のコロナ感染対策が立ち遅れていることに疑念を示し、「開催すべきではない」と表明しています。県内のリレーも中止を検討する姿勢を示しています。鳥取県は、リレーを縮小する方向で調整をしています。来県する関係者の人数を減らして感染拡大を防ぐとともに、リレーにかかる経費を減らして飲食店へのコロナ対策支援に回すとしています。リレーに人手と労力を割かれ、コロナ対策が手薄になることを危惧する自治体関係者も少なくありません。沿道に人が密集する恐れがあるリレーと感染抑止との両立は極めて困難です。
今月20日、東京五輪では海外在住の一般観客の受け入れをしないことが決定しました。感染状況が見通せず、安全・安心を確保できないとの判断です。しかし、海外客の受け入れ中止だけでは安全の確保にはつながりません。一般客以外に選手、役員、メディアなどだけでも数万人規模の入国者が想定されます。世界的に流行している変異株に対処できる保証はありません。国内の一般客は数百万人にもなります。多くの人の移動は感染拡大のリスクを高めます。
大会には1万人の医療従事者のほか、選手のけがなどに対応する病院30カ所が必要とされていますが、確保のめどはたっていません。医療現場からは、日本国内でのワクチン接種の体制も整っていないのに、とても五輪には手が回らないとの声が出ています。このまま開催すれば、コロナ感染を拡大する結果になりかねません。
内外の世論は中止・延期
新聞通信調査会が5カ国で実施した聞き取りによる世論調査(20日発表)では、コロナが世界的に収束しない中での東京五輪は、「中止・延期すべきだ」との回答が圧倒的多数です。タイは95・6%、韓国は94・7%に上り、中国で8割以上、アメリカとフランスは7割以上を占めました。日本の複数のメディアの世論調査でも「中止・再延期」の答えは約7割です。
国内外の声を踏まえるなら、「開催ありき」で突き進むことはできないはずです。判断をこれ以上先延ばしする時間的余裕はもうありません。一刻も早く開催中止を決め、コロナ対策に総力をあげることが求められます。