2021年1月29日(金)
主張
今夏の東京五輪
開催やめコロナ収束に集中を
1年延期され、今年7月23日に開幕予定の東京五輪・パラリンピックまで半年を切りました。新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大し、感染力がより強いとされる変異株も発生し、五輪開催に対する不安や危惧、反対の声が高まっています。国内では医療体制が逼迫(ひっぱく)し、今月7日に緊急事態宣言が再び出されるなど、五輪の延期を決めた時以上に事態は深刻です。今夏の五輪は中止を決断し、あらゆる力をコロナ収束のために集中することが必要です。
「残念だけど、難しい」
今夏の五輪開催の是非をめぐっては、今月の各種世論調査で、「再延期」と「中止」を求める声が合わせて約8割に上っています。▽「朝日」は「再び延期」51%、「中止」35%▽産経・FNNは「再延期せざるを得ない」28・7%、「中止もやむを得ない」55・4%―などとなっています。
日本オリンピック委員会(JOC)理事で元柔道選手の山口香さんは、国民の大半が五輪の再延期・中止を求めていることについて「新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言の発出や変異型への懸念もあり、『残念だけど、難しい』というのが冷静で、現実的な感覚なのだろう」と語っています(「朝日」26日付)。
ところが、政府は東京五輪を「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証し」(菅義偉首相)にするとして開催に固執し続けています。
前出の山口さんが「国民を置いてきぼりにした前のめりの姿勢は、五輪開催でスポーツ本来の価値を実現するのではなく、政治とか経済とか、別の理由や思惑があるのだろうと冷めた目で見られていると思う」と指摘するように、政府の方針が国民の感覚とかけ離れていることは明らかです。
今夏の五輪開催にはさまざまな問題があります。
▽ワクチンは一部の国で接種が始まったものの、世界保健機関(WHO)は今年中に集団免疫を達成することはあり得ないとしており、ワクチン頼みの開催は展望できない▽各国の感染状況による練習環境の違いや、ワクチン接種でも先進国と途上国の格差があり、「アスリート・ファースト(選手第一)」の立場からも開催の条件はない▽五輪開催には当初から「1万人程度」(橋本聖子五輪相)の医療スタッフが予定されており、これにコロナ対策を加えればより大規模な体制が必要とされるが、半年後にそれだけのスタッフを五輪に振り向けるのは非現実的―などです。
菅首相は7日に緊急事態宣言を出した際、ワクチンの普及によって「(五輪開催に対する)国民の雰囲気も変わってくるのではないか」と述べていました。ところが、ワクチン頼みが無理なのが分かると、根拠も示さず「ワクチンを前提としなくても安全・安心な大会を開催」(21日)すると言い出しました。あまりに無責任です。
根本から再検討すべきだ
五輪憲章は「オリンピズムの目的は、人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指すために、人類の調和のとれた発展にスポーツを役立てることである」と述べています。政府は「開催ありき」の立場を改め、その是非を根本から再検討し、東京都や大会組織委員会、IOC(国際オリンピック委員会)などと協議を開始すべきです。