2021年1月14日(木)
主張
緊急事態宣言拡大
小出し・後手では感染止まらぬ
菅義偉政権が、新型コロナウイルス感染拡大に対処する緊急事態宣言の対象を11都府県に拡大しました。追加した大阪府などについて菅首相は6日前まで「現時点において、そうした状況にはないと思う」と述べていました。この判断が誤りだったのは明白です。政府の後手と小出し対応で、新規感染者数は急増し医療体制のひっ迫は深刻の度を増しています。宣言対象を広げても、肝心の検査・医療の支援拡充や飲食店への十分な補償もないままでは実効性ある感染抑止にはつながりません。
国民の不安と不信は募る
菅政権が新たに緊急事態宣言の対象に加えたのは、栃木、愛知、岐阜、京都、大阪、兵庫、福岡の7府県です。7日に宣言を出した東京、埼玉、千葉、神奈川の4都県と同様に、飲食店の営業時間を夜8時までにすることや、不要不急の外出自粛などを知事が特別措置法に基づいて要請します。期間は2月7日までとしました。
国民の不安と不信は募ります。感染拡大のスピードに菅政権の対応が全く追い付いていないためです。NHKの世論調査(12日放送)では、4都県に緊急事態宣言を出したタイミングについて「遅すぎた」とする回答は79%にのぼりました。4都県より広げるべきだとの回答は80%に達しています。厚生労働省の専門家組織の会議では、感染急拡大の結果、都内では入院先や宿泊療養先が未定の感染者が9日までの1週間で6000人以上にもなり、前週より倍増したことが報告されました。複数の県では、自宅待機中に容体急変で亡くなった感染者も出てしまいました。菅政権の後手と無為無策が、国民の命と健康を危険にさらしていることは明らかです。
宣言の対象拡大でも不安は払しょくされません。感染の深刻な地域は数多くあるのに、7府県の追加にとどめたことに納得できる説明はありません。首相は「1カ月後に必ず改善させる」などと繰り返しますが、裏付けとなる根拠は不明です。専門家からは至難の業という指摘が相次いでおり、首相の説明に説得力はありません。
何より問題なのは、国民に厳しい制約と行動変容を求めながら、首相がそれにふさわしい姿勢を示さないことです。自治体が高齢者施設などで躊躇(ちゅうちょ)なくPCR検査拡大などに取り組めるための全額国庫負担には踏み切ろうとしません。コロナ対応病床を大増設するのに不可欠な医療機関への減収補填(ほてん)には背を向けたままです。短縮要請に応じた飲食店への十分な補償を求める声にも耳を貸しません。
英国や南アフリカなどからコロナ変異株が国内に入っていることへの対応も欠かせません。全世界からの入国停止などに政府は責任を果たすべきです。かつてない危機の中で国民の命と暮らしを守り抜くため、政府があらゆる措置を講じるという方針を明確にしなければ、国民の心に届きません。
罰則は事態を悪化させる
菅政権が、時短などに応じられない事業者や、入院拒否した感染者への罰則導入を狙っていることは重大です。十分な補償があれば事業者は協力します。いま各地で問題になっているのは、入院拒否でなく入院先が見つからないことです。罰則という強権的手法は、「納得と合意」が大原則の感染症対策への逆行にしかなりません。