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2020年11月8日(日)

会員選考 政府と「調整」していない

元学術会議会長・大西隆さん

「あら探し」ばかり 情けない

 菅義偉首相が日本学術会議の会員6人を任命拒否した問題で、首相は国会で学術会議を「閉鎖的」「既得権益」と非難し、「多様性が大事」などと述べて拒否を正当化しようとしています。2011~17年に学術会議会長を務めた大西隆・東京大学名誉教授に、問題点を聞きました。(安川崇)


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(写真)元学術会議会長・大西隆さん

 首相は任命拒否について、「以前は学術会議の推薦名簿が出る前に、政府と会議側で一定の調整が行われていた」「(今回は)推薦前の調整が働かず、任命に至らなかった者が生じた」と答弁しました。

 17年の会員の半数改選で、官邸側の求めに応じて選考の途中、しかし選考委員会で候補者を絞り込んだ段階で経過の説明を行いました。しかし首相の言う「調整」が「推薦名簿の変更」を意味するのであれば、調整したという事実はありません。

 補欠に相当する人を含んだ資料も示しましたが、選考に関する協議ではないことを双方が承知していたと思います。選考はあくまで学術会議の役割だからです。

懸念聞かず

 首相は会議を批判し、現状を「懸念してきた」と語っています。私は官房長官時代の菅氏に、推薦候補の説明のため何度か会ってきましたが、こうした懸念を聞かされたことがありません。

 会員の選考基準は「優れた研究又は業績がある科学者」(日本学術会議法17条)です。これに加えて女性の増加のほか、所属先や地域のバランスをとることを選考方針としてきました。

 その結果、現在の会議が、過去で最も多様性のある構成になっています。私が会長になった11年と現在の学術会議を比較すると▽女性が23・3%から37・7%▽私立・公立大所属者は18・6%から27%―に増えました。旧帝大所属者は53・8%から44・6%に減りました。

 こうした改革は、03年の「日本学術会議の在り方について」(総合科学技術会議の専門調査会)や、15年の「日本学術会議の今後の展望について」(内閣府担当相下の有識者会議)に沿って実現してきました。

 いずれも政府がつくった会議体による報告であり、「展望」はこの間の学術会議の活動をおおむね肯定的にとらえています。政府は「展望」を参議院に提出したので、これが政府の立場であるはずです。

法に誠実に

 学術会議は独立して活動するとされていますが、その運営については、会員人事も含む全てが学術会議法で決まっています。国会で制定された法の執行は、内閣の責任です。首相には法を誠実に執行する責任があるはずです。

 つまり、学術会議の改革は政府主導で進められ、その活動は法律で枠が決まっている。その結果である現在の会議の姿を「閉鎖的」などと非難することは、政府がしてきたことの自己否定であり、天に唾(つば)するものにしかならないと思います。学術会議の「あら探し」発言ばかりで、情けなくなります。

法解釈変更は明らか

科学は「国のかたち」の一部

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(写真)日本学術会議=東京都港区

 政府は現在、2018年11月作成とされる「内閣総理大臣に…(日本学術会議による)推薦のとおりに任命すべき義務があるとまでは言えない」とする文書を根拠に任命拒否を正当化しています。

 しかもこれが「法解釈の変更ではなく、一貫した政府の立場だ」と主張します。

 しかし学術会議の諸規則には、任命拒否に対応するものがありません。欠員の補充についての規則は「会員が定年、死亡、辞職又は免職により退任する場合」となっており、「など」がついていないので任命拒否に適用されるとは解釈できません。学術会議が任命拒否を想定していないことは明らかです。

通知が必要

 政府は18年の文書について「内閣法制局の了解を得た」としています。しかし、内閣府の日本学術会議事務局が、本当に公式にこの見解を法制局に相談したのかどうかは疑問です。当時の山極寿一会長も、この文書を「知らなかった」と発言しています。

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(写真)日本学術会議会員の任命拒否問題について参院予算委で追及を受け、答えられずに再三にわたって職員の説明を受ける菅義偉首相=6日

 私は、首相に推薦候補を「機械的にすべて任命する義務がある」とは思いません。学術会議は「研究・業績」で判断しますが、私たちが知りえない事情―例えば外国籍で公務員になれない場合など―もあり得るからです。しかし、その場合は学術会議に理由を通知する必要があるでしょう。

 それが今回のように「理由も示さず恣意(しい)的に任命拒否できる」ということになると、従来の法解釈が実質的に大きく変わったのは明らかだと思います。

 法が任命拒否を想定していない以上、6人が任命されず、法が定める210人の定員を満たしていない現状をどう解決するのかは、実は難しい。解決するルールがないのです。

 結局、首相が任命拒否の間違いを認め、学術会議の要望どおりに6人を任命するほかに解決策はないように思います。

 任命を拒否した理由を政府が説明しないので、「過去の政府方針を批判したことを理由に任命されなかった」との臆測を呼んでいます。

 私たちは科学の力を信じる者として、科学に基づいて独立した立場から政府に「ものを申す」ことはあります。学術会議の設立目的は、科学の成果を政治、社会に生かすことです。

信頼に影響

 これは「国のかたち」の一部でもあり、その国の国際的信頼にもかかわることです。新型コロナウイルスへの対応を考えてみても、政策がそれぞれの国の科学者の知見に基づいて決定されることが信頼につながります。

 「科学者の言うことが政府に届かない」「科学者の組織の人事が政治的に決められる」ということになると、信頼に悪影響が出るでしょう。こうした「科学と政治」の関係の象徴的存在が、学術会議だと思っています。


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