2020年11月3日(火)
陸自研修中のコロナ集団感染
全国の原隊へ復帰 29駐屯地に拡大
検査結果待たず 問われる責任
陸上自衛隊朝霞駐屯地(東京都、埼玉県)で、研修のため全国から集められた女性隊員が新型コロナウイルスに集団感染した問題で、全国18都道府県の29駐屯地43人にまで感染が拡大していたことが本紙の取材で分かりました。陸自は、PCR検査実施中の隊員がいるなか、全参加者を「原隊復帰」させており、監督責任が改めて問われています。(山本眞直)
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陸上自衛隊幕僚監部によると、感染した隊員らは、7月7日から9月29日まで朝霞駐屯地で行われた下士官(陸曹)になるための女性自衛官の教育課程に参加していました。
北海道から沖縄まで全国の駐屯地から190人が集められ、4クラスに分けられました。クラスの一つ(約50人)が9月26日の休日扱いの土曜日に、民間貸し切りバス(55人乗り)を利用し、埼玉県内のバーべキュー場に集まりました。
陽性を確認
この旅行には44人が参加し、そのなかの1人の隊員が9月28日に発熱。診断した駐屯地の医官は「コロナではない」としながらも自衛隊病院に移送しました。同病院は29日にPCR検査をし、30日に陽性を確認したといいます。
「“駐屯地で感染者発生”の一報が流れたのは30日の遅い時間だった。夕方頃から陽性者が出たようだ、との話を耳にした。本当に感染が確認されたとなると大変なことになる、と緊張した」と振り返るのは東部方面隊の幹部自衛官。同幹部の不安は的中しました。
発熱して隔離され、9月29日にPCR検査を受けている隊員がいながら、研修生と教官ら200人を超える参加の終了式を朝霞駐屯地内で同日に実施。その日のうちに、全員を全国の原隊に復帰させたことで感染が拡大しました。
陸幕監部によれば10月29日までの感染者は、研修参加者34人、参加者から感染した隊員9人の計43人、29駐屯地に拡大しました。(別項)
このうち北海道の東千歳駐屯地では、教育課程参加の隊員と同室の女子隊員が10月7日に3人、同10日に1人と相次いで4人が陽性反応に。北海道庁は同10日、「同一場所で5人以上が感染した」(コロナ対策本部)としてクラスター(感染者集団)と認定。各駐屯地などでの濃厚接触者として隔離された自衛隊員は最大で1000人に達しました。
感染拡大の発端となったバーベキューについて陸自は、「外出届はあったが、教官らもバーベキューは把握していない」とし、有志による私的行事での感染拡大とし、監督責任はないとの対応でした。
幹部も反発
女性自衛官教育隊に詳しい幹部は「教官などが知らなかったはずはない。研修生の単独行動とは考えられない」と強く反発します。
教育課程の3カ月間、研修生と教官は射撃訓練や重装備での走破から座学に至る全生活を共にし、クラス運営や研修生の相談などで一体化しています。研修終了時に通常なら「卒業旅行」として区隊(クラス)レベルで計画されます。旅行先や宿泊先との調整、予約などの段取りを教官が担当するからです。
陸上自衛隊朝霞駐屯地での女性自衛官教育課程を起因とする駐屯地別新型コロナウイルス感染者
(10月29日現在、数字は複数感染者数)
▽北海道・真駒内2、東千歳5、帯広、滝川2、島松、札幌
▽青森・八戸
▽岩手・岩手
▽栃木・北宇都宮
▽長野・松本
▽茨城・古河
▽千葉・木更津2
▽東京・練馬、東立川3、朝霞
▽神奈川・久里浜2
▽静岡・富士3
▽三重・明野2
▽京都・福知山、桂
▽岡山・日本原
▽山口・防府
▽福岡・福岡、久留米
▽佐賀・目達原
▽熊本・健軍2、北熊本
▽沖縄・那覇、宮古島
合計 29駐屯地 43人
(内訳 教育課程参加者34人、駐屯地で感染隊員から感染9人)
(陸上自衛隊幕僚監部調べ)