2020年11月2日(月)
主張
文化の日
文化・芸術を大切にする国へ
あすは「文化の日」です。今年は新型コロナ危機に見舞われ、日本の文化・芸術はいま、戦後最大の苦境にあります。
生命の維持に必要なもの
安倍晋三前首相による2月のイベント「自粛」要請以後、コンサートや演劇、ミュージカルをはじめ多くのイベントが延期・中止を余儀なくされました。ぴあ総研の調査(5月)によると、ライブ・エンターテインメント業界は、今年2月から来年1月までの1年間で約6900億円の損失になると推計されています。こうした損失を出しながら、のべ2億2900万人の観客の足を止め、新型コロナ感染拡大防止に貢献しました。
ドイツのグリュッタース文化相は3月、「文化は良好な時期にだけ許されるぜいたくではない」「生命維持に必要」とのべ、無制限の支援を表明して注目を集めました。
ところが日本では、新型コロナ対策での文化・芸術分野への支援は、第2次補正予算で500億円余がついたものの、推計損失額の1割にも達していません。
ライブハウス・ミュージッククラブ関係8団体の事業者へのアンケート調査(7~8月実施)によると、今の状態が続いた場合、今後の運営の見通しについて「1年もつかわからない」という回答が合計9割以上に達しています。
芸術家・芸術団体も困難にあえいでいます。あるオーケストラは半年間で70公演が中止になり、今年度4億円の赤字が見込まれ「存続の危機」を訴えています。
このままでは日本の文化・芸術の灯は消えてしまいます。政府は「自粛と補償は一体で」という文化関係者の切実な声に背を向けてきましたが、今こそ損失補てん・補償の立場をとるべきです。国が数千億円を出資する「文化芸術復興基金」の創設も急がれます。
文化・芸術の発展にとって、表現の自由は何よりも大切です。その点で菅義偉首相が日本学術会議会員に推薦された6人の任命を拒否した問題はきわめて重大です。
広範な文化人や芸術団体からも抗議の声が上がっています。それは、今回の人事介入が日本学術会議法違反、憲法23条の「学問の自由」への侵害にとどまらず、「表現の自由への侵害であり、言論の自由への明確な挑戦」(映画人有志22人の抗議声明)だからです。
日本学術会議法は、前文で「科学が文化国家の基礎であるという確信」に立って「わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献」するとうたっています。学問の自由を踏みにじり、学術会議の独立性を侵すことは、文化国家の基礎を掘り崩すことにほかなりません。
表現の自由の侵害許すな
思い出すのは、昨年「あいちトリエンナーレ2019」の「表現の不自由展・その後」が右翼に攻撃された時、展示内容を問題視して補助金不交付を示唆したのが当時官房長官の菅氏だった事実です。ヨーロッパでは、文化・芸術支援の際に「金は出しても口は出さない」というのが当たり前の原則ですが、それとは正反対です。こうした政治介入の姿勢を学術会議問題でも繰り返しているのです。
菅政権の学術会議への人事介入を撤回させることは、表現の自由を守るうえでも不可欠です。学問と文化・芸術を大切にする国へ、政権交代、野党連合政権を実現することは切実な課題です。