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2020年10月11日(日)

大阪市をなくす「都」構想――ここが問題 Q&A

 大阪市を廃止・分割する「大阪都」構想の是非を問う住民投票が12日、告示されます。11月1日投票。大阪維新の会(代表・松井一郎大阪市長)が実施を狙う同構想のどこが問題なのか。問答形式で考えます。


大阪市廃止されるだけ

  住民投票で賛成多数になったら「大阪都」になるの?

  いいえ「都」にはなりません。いまの法律では、府のままで、大阪市が廃止されるだけです。「都」構想とは名ばかりです。

 住民投票の投票用紙も「大阪市を廃止し特別区を設置することについての投票」と「大阪市廃止」が明記されることになりました。前回2015年の住民投票では「大阪市廃止」が明記されていませんでした。

 130年の歴史を持つ大阪市は地図から消えます。前維新代表の橋下徹氏がかつて“むしりとる”と言ったように、大阪市がもっていた権限、財源は府に吸い上げられ、新しく設置される特別区は「半人前」の自治体となります。基礎自治体の権限を強くする地方自治の流れにも逆行します。

 「1回やってみたら。だめだったら元に戻せばいい」という声もあります。しかし、大阪市をいったん廃止したら、いまの法律では元に戻すことはできません。片道切符です。

住民サービス低下必至

  住民サービスが維持されるのであればいいのでは?

  いいえ、むしろ住民サービスの低下は避けられません。

 反対から賛成に転じた公明党は、協定書(制度案)に住民サービスの維持と書き込んだと宣伝しています。しかし、維持されるのは特別区に移行する25年1月1日時点までのこと。それ以降は、維持するように「努める」と努力義務にしかなっていません。

 もともと、府に財源が吸い上げられるため、特別区の財政基盤は弱くなります。収入は減るのに特別区設置に15年間で1300億円もかかります。これまでの住民サービスを維持したくても財政的な制約は避けられません。

 しかも、「改革効果」として、すでに市民プール、スポーツセンター、老人福祉センター、子育てプラザの削減が盛り込まれています(表参照)。住民サービスの維持どころか、削減は織り込み済みです。

財政シミュレーションに盛り込まれた施設の削減

市民プール    24⇒ 9

スポーツセンター 24⇒18

老人福祉センター 26⇒18

子育てプラザ   24⇒18

黒字の試算はまやかし

図

  特別区になっても財政が黒字ならば、サービスは維持されるのでは?

  黒字はまやかし。赤字が必至なだけにサービス低下が懸念されています。

 松井市長は「一定の条件のもとに財政シミュレーションをした結果、どの年度も特別区はマイナスになりません。ですから、いまの住民サービスは守られる」としています。

 その財政シミュレーションが問題です。新型コロナの影響をまるで除外しています。

 大阪市は新型コロナの影響で来年度の税収が、今年度の当初予算と比べて約500億円減少すると見通し。また大阪市が全株式を保有する大阪メトロの4~6月期の営業収益が赤字に転落し、来年度は無配当になると試算しています。特別区移行後の財政シミュレーションでは、大阪メトロの配当金・市税見込み額を大幅に上乗せし、25~39年度の特別区収支は黒字になるとしていましたが、「コロナ抜き」試算の危うさは明らかです。

 松井市長は「コロナ禍の要素は組み込んでいない」と認め、「(短期間で)コロナさえ抑えれば大阪はさらに発展する」と楽観的です。

 しかし、08年のリーマン・ショックによる税収不足が回復するのに大阪市で8年かかっています。コロナ禍は、リーマン・ショック以上の経済的な打撃が指摘されているのに、5年後の25年には回復していることを前提することはあまりにも甘い見通しです。

今も「二重行政」はない

地図

  府と市の二重行政がなくなるのであれば、いいことでは?

  いいえ、松井市長も「いまは二重行政はない」と言っています。ありもしない「二重行政」の解消のために特別区設置のために1300億円(15年間)もかけるのはばかげた話だと、元大阪府副知事の小西禎一さんも指摘します。

 住民説明会でも、「いま二重行政がないのであれば、『都』構想をする必要はないのでは」との質問が出ました。

 松井市長は、いまは知事、大阪市長が同じ方向を向いているので、「二重行政」はないが、人間関係ではなく制度化するのが「都」構想だと説明。「過去に戻していいのですか」として例に挙げているのが、WTC(ワールドトレードセンター)タワービルと、りんくうゲートタワービルです。

 しかし、これは「二重行政」とは無関係です。政策の誤りで、一つであっても無駄です。「二つよりましでしょ」(松井氏)などというのは論外です。

 一方、府市民にとって必要なものは二重、三重にあった方がいいでしょう。体育館が府立と市立と二つあって困る市民はいません。医療・保健体制もそうです。「二重行政の無駄」として住吉市民病院を廃院にし、公衆衛生研究所を統廃合したことが、コロナ禍の中で問われています。

 前維新代表の橋下徹氏がツイッターで「僕が今更言うのもおかしいところですが、大阪府知事時代、大阪市長時代に徹底的な改革を断行し、有事の今、現場を疲弊させているところがあると思います。保健所、府立市立病院など。そこは、お手数をおかけしますが見直しをよろしくお願いします」とつぶやくほど。見直しは待ったなしです。

写真

(写真)街角で広がる対話=大阪市此花区

コロナ対策 独自策なし

  やっぱり「指揮官」は1人の方がいいのでは?

 コロナ対策も府に「司令塔」を一元化してうまくいった。

  いいえ「バーチャル大阪都」と言って、府任せで大阪市は独自策をほとんどやらなかっただけです。

 大阪市のコロナ感染の陽性率は、府内の他自治体と比べて高く、感染震源地となっている可能性が高いのに、PCR検査の抜本的拡大に背を向け、地域外来・検査センターも大阪市は四つだけです。

 松井市長は、大阪市内の陽性率が高いことを認めたうえで「いまの大阪市の保健所体制でどうやってサポートするんですか。できなかったんですよ」と居直り。「大阪市内でPCR検査に対応できるマンパワーと場所、検査体制ができていない。だから、大阪府に司令塔をつくって大阪市の患者さんを、大阪府域全体で支えてもらっている」と大阪市内の保健所体制の弱さを“自慢”する始末。四つの特別区ができれば特別区ごとに四つの保健所ができ、PCR検査も東京都の特別区のように特色ある形でできると強弁しています。

 保健所を増やすために大阪市を廃止する必要はなく、大阪市のままで、もとの24保健所体制へと戻していけばいい話です。

 一方、吉村洋文知事は「大阪モデル」で非常事態を示す「赤信号」が点灯しないように基準を緩和し、命に関わるコロナ対策よりも、大阪市廃止のための住民投票実施を優先する姿勢を示しました。

写真

(写真)「大阪市なくすな!」と開かれたネットワーク集会=大阪市北区

不幸呼ぶカジノが目玉

  「都」構想で大阪が成長するなら、いいのでは?

  いいえ、維新の「成長戦略」の目玉はカジノ。不幸を呼び込むだけです。

 維新の「成長戦略」を問われて、松井市長は「インバウンド(訪日外国人旅行者)とベイエリア(湾岸地域)開発」と明言しています。人工島「夢洲(ゆめしま)」に誘致しようとしているカジノを中核とする統合型リゾート(IR)を念頭に置いたものです。

 インバウンド頼みはコロナ禍で、その危うさが露呈しました。カジノ資本も、経営が悪化し、日本進出からの撤退が相次いでいます。典型的な「3密」(密閉・密集・密接)産業であることや、人の不幸で成り立つギャンブル産業であることからも破綻は明らかであり、「成長戦略」とは無縁です。

 松井市長は「関西の中心地は大阪市。中心エリアにどんどん拠点をつくっていく。そこへ移動しやすいインフラを整備していく」と「都」構想による「成長戦略」を描いています。キタ、ミナミ、そして夢洲へヒト、モノ、カネを集中させるという考え方です。衛星市のことはまるで眼中にありません。

くらし応援の大阪市に

  では、コロナ後の大阪の未来をどう考えたらいいの?

  新型コロナは、これまでの大阪の政治・経済・社会のあり方の根本的な転換を求めています。日本共産党は大阪市廃止ではなく、大阪市の力を生かした六つの方向を提唱しています。

 (1)医療・介護・社会保障が充実した安心の大阪に(2)みんな楽しく子育てできる大阪に(3)こども中心の教育、文化豊かな大阪に(4)消費と中小企業の活性化で景気回復させる大阪に(5)「何でも民営化」を改め、「公」の役割を果たす大阪に(6)誰もが大切にされ、尊厳をもってくらせる大阪に―の六つの方向です。

 特別区設置コストの一部でも市民サービスに使うなら、▽子どもの医療費の無料化拡大(19億円)▽「30人学級」の実現(102億円)▽介護保険料の17%引き下げ(85億円)▽公立・私立保育所の保育士(勤続7年以上)の給与の月4万円引き上げ(10億円)―などができます。

 くらしを壊す大阪市廃止の道ではなく、くらしをよくする大阪市政への道に踏み出すことこそ必要です。

事実知ればノー多数に

  世論調査では「大阪都」構想賛成が反対を上回っているけど?

  事実を知ってもらえば、再びノーの審判を下すことは可能です。

 藤井聡京大教授は、前回の住民投票直後のアンケート調査で大阪市が「廃止されて消滅」するという正解回答が1割に満たなかったこと、「廃止」と答えた人の9割が反対派だったことを挙げ、事実を知らせることの大切さを強調しています。

 世論調査でも「わからない」という回答が多く、府・市の説明は「不十分」という市民が多数です。調査するごとに反対が増え、賛否が拮抗(きっこう)する傾向にあり、政党としては賛成に転じた公明党の支持層も反対が多数です。

 地域振興会、学者・文化人、医療関係者など幅広い層に反対が広がり、「居ても立ってもいられない」と宣伝に「人生初参加」する市民も増えています。

 「都」構想の事実、真実をいかに多くの市民に知らせ切るかに、住民投票の結果はかかっています。


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