2020年9月23日(水)
主張
異次元緩和の継続
ゆがんだ金融政策は転換せよ
菅義偉首相が安倍晋三前政権から引き継ぐとしている「アベノミクス」の「第1の柱」は大規模な金融緩和です。日銀も、「異次元緩和」と呼ばれる金融緩和政策の継続を決めました。異次元緩和によって日銀による財政赤字の穴埋めがかつてなく進み、株価のつり上げなど金融にゆがみが生じています。反省のない継承一辺倒は日本経済をさらに危うい道へ導きます。必要なのは行き詰まった金融政策の転換です。
株価つり上げ格差を拡大
菅政権になって初めてとなった16~17日の金融政策決定会合後、黒田東彦(はるひこ)日銀総裁は「引き続き政府としっかり連携しながら政策運営を行う」と述べ、安倍前政権との共同声明(2013年1月)に基づいて今後も異次元緩和を続けると強調しました。
日銀が金融市場から国債を大規模に買い入れ、大量のお金を民間金融機関に供給すれば、物価が上昇し「経済の好循環」につながるというのが異次元緩和の触れ込みでした。13年4月にこの政策を開始してから約7年半、結局、格差を拡大しただけでした。
日銀が巨額のお金を投じたことによって金融市場で投機が激化し、円安と株高が急速に進みました。安倍氏自ら訪米時にニューヨーク証券取引所を訪れ、日本株に投資を呼びかけました。その結果、富裕層や大企業には巨額の利益が転がり込みました。
その一方、実質賃金は低下し、2度の消費税増税で消費は冷え込みました。消費が低迷したため、日銀が民間銀行への資金供給を増やしても貸し出しは活性化せず、銀行内にたまるばかりです。
日銀は融資の増加を狙って16年にマイナス金利を導入しましたが貸し出しは活発化しません。むしろ極端な金利低下によって銀行の収益が悪化し、金融の仲介役としての機能が低下しました。銀行は手数料の値上げやサービス削減で損失を顧客にしわ寄せしています。異次元緩和で国民の暮らしは良くなりませんでした。
国債を毎年数十兆円も買い続けた結果、日銀が保有する国債は発行残高の半分近くに膨れ上がりました。国の借金の半分を日銀が抱える異常事態は「事実上の財政ファイナンス」(財政赤字の穴埋め)と批判されています。財政法は日銀による国債の直接引き受けを禁じています。日銀が政府の言いなりにお金の供給を増やせば放漫財政を招くからです。
日銀は、大企業の株式で構成する投資信託(ETF)も大量に買い入れ、株価をつり上げています。安倍政権は公的年金積立金の株式投資も拡大し、二つの公的マネーが日本の株式時価総額に占める比率は政権発足前の5%から12%に膨らみました。株価が下落すれば日銀や年金に損失が生じます。通貨の信用を守る日銀が私企業の株式に巨額の投資をするなどあってはならないことです。
日銀本来の使命に戻れ
大規模な金融緩和で景気拡大を促進するという政策そのものが間違いでした。日本経済にこれ以上被害を及ぼさないためには異次元緩和を続けてはなりません。日銀の理念は、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することです。異次元緩和の破綻が明白な今、この本来の使命に立ち返るべきです。