2020年7月5日(日)
主張
行き詰まるリニア
工事をやめ事業中止の検討を
JR東海が2027年に予定していたリニア中央新幹線(東京・品川―名古屋間)の開業が延期に追い込まれつつあります。静岡県内のトンネル工事が引き起こす大井川の流量減少にJR東海がまともな対策を示さず、県が工事を認めないためです。リニア計画は環境破壊、採算、沿線自治体の負担など数々の問題を置き去りに進められてきました。予定が行き詰まった今、工事をやめ、中止を含め事業そのものを見直すべきです。
川の水量減に対策示せず
リニア中央新幹線はJR東海が事業主体となり、37年には大阪まで延伸開業する計画です。総額9兆円の巨大開発事業です。安倍晋三政権は公的資金である3兆円の財政投融資を投じています。
建設工事は深刻な環境破壊をもたらします。JR東海は13年9月、南アルプストンネルの工事で大井川の水量が毎秒2立方メートル減少するとの予測を静岡県に示しました。県は60万人分の生活用水にあたるとして、トンネル湧水の全量を大井川に戻すよう求めました。JR東海は全量戻すと約束しましたが、昨年8月になって一定の期間は水を戻せないと表明しました。県はあくまで全量戻すことを求め、水資源の確保と自然環境の保全について47項目にわたってJR東海に回答を求めています。
大井川は静岡県民の6人に1人にあたる60万人余が生活や事業、発電に利用し、「命の水」と呼ばれています。一方、慢性的な水不足に悩まされており、渇水は深刻な問題です。工事による流量の減少は南アルプスの貴重な生態系にも大きな打撃を与えかねません。
今年4月には国土交通省の「静岡工区有識者会議」が始まり、減水について検証されています。リニア推進の国交省が人選した会議ですが、JR東海の説明は、専門家から「住民は納得しない」「疑問に答えていない」と酷評されるありさまです。JR東海は、静岡県や流域自治体が求める対策を示さないまま、金子慎社長が6月26日、川勝平太知事と会談し、準備工事に限って開始したいと要請しました。知事が認めなかったのは当然です。
さらに新型コロナウイルスの感染拡大によって、リニア計画をこのまま推進できるかが根本的に問われています。JR東海の主な収益源である東海道新幹線の旅客は、コロナ危機で大幅に減りました。テレワークやビデオ会議の普及によってビジネス客の減少は一時的なものにとどまらないといわれます。リニアの採算性は以前にも増して疑問です。JR東海の経営が悪化すれば公共交通機関としての安全性、公共性がおろそかになるおそれがあります。
コロナ危機は大都市への一極集中に見直しを迫っています。東海道新幹線とリニアによる「大動脈の二重系化」という構想自体、無謀なものとなっています。
将来に禍根を残さぬよう
リニア計画は事業費の3分の1を公的融資で賄う事実上の国家プロジェクトです。安倍政権はリニア計画を成長戦略で「21世紀型のインフラ整備」に位置づけています。JR東海と一体にリニア計画を推し進めてきた政府の責任は重大です。取り返しのつかない環境破壊や事業の失敗で将来に禍根を残さないよう、計画の是非そのものを国会などで議論すべきです。