2020年6月20日(土)
主張
前法相夫妻の逮捕
2人を優遇した責任免れない
河井克行前法相・衆院議員と妻の案里参院議員(ともに自民党を離党)が、昨年7月の参院広島選挙区での公職選挙法違反(買収)容疑で、東京地検特捜部に逮捕されました。法務行政をつかさどる法相経験者が、買収で刑事責任を追及されるのは前代未聞です。現職国会議員が夫妻そろって票をカネで買った疑いで逮捕されたのも例がありません。両氏は議員辞職すべきです。重大なのは、克行氏を側近ポストに起用し続けるとともに、案里氏を選挙に担ぎ出し大々的に当選に肩入れをした安倍晋三首相の責任です。「おわび」を口にするだけでは済みません。
党本部からは巨額資金
2人の逮捕容疑は、参院選に初出馬した案里氏の当選のため、広島県議などの地方議員、首長、後援会関係者ら94人に総額約2570万円の現金を手渡し、票の取りまとめを依頼したというものです。ほとんどのケースでは克行氏が現金を持参したとされています。現職国会議員が大規模な買収に直接手を染めていたというのは、悪質というほかありません。民主主義の根幹である選挙の公平をカネの力でゆがめた責任は重大です。
案里氏陣営の公選法違反は昨年秋、車上運動員に規定を大幅に上回る報酬が支払われたことが週刊誌の報道などで発覚しました。案里氏の選挙を事実上取り仕切ったのは克行氏とされます。克行氏は問題が明らかになった直後、就任したばかりの法相を辞任しました。しかし、克行氏も案里氏も疑惑について国民に説明しようとしません。車上運動員の報酬をめぐる公選法違反事件では、案里氏の公設秘書らが起訴され、有罪判決が出されました。今回の逮捕によって、河井夫妻に国会議員の資格がないことはいよいよ明白です。
徹底究明が必要なのは、買収資金の原資です。案里氏の出馬は、安倍首相や菅義偉官房長官らが地元の自民党組織の反対を押し切って強引に推進したとされます。選挙の際、河井夫妻の選挙区支部には党本部から合計1億5000万円もの資金が振り込まれたことが明らかになっています。広島選挙区のもう一人の自民党候補(落選)に送られた額の10倍に上ります。
これほど巨額の選挙資金の提供は、党総裁である安倍首相の意向なしにできないとの指摘が相次いでいます。同党本部の収入の多くは、税金である政党助成金でまかなわれており、それが買収のカネに回っていたとすれば言語道断です。二階俊博・自民党幹事長は、支出はチェックしているなどといいますが、証拠は示しておらず説得力がありません。首相と自民党本部の説明責任は免れません。
政権の資質が問われる
首相が、克行氏を「法務行政のプロ」と持ち上げ、法相として初入閣させたのは大問題です。首相は、克行氏を首相補佐官や党総裁外交特別補佐に重用してきました。案里氏の選挙では、首相の地元事務所の秘書が応援に入りました。政権中枢が河井夫妻を特別に優遇してきた事実は消えません。首相は、衆参予算委員会の集中審議などで説明すべきです。
首相自身の「森友」「加計」「桜を見る会」など一連の疑惑も解明が必要です。モラル崩壊・国政私物化に反省のない安倍政権の資質が根本から問われています。