2020年5月19日(火)
9割超が休業 古書店街 苦悩
家賃月150万円 新刊扱う「書店」は営業OKなのに
東京・神田神保町
新型コロナウイルスの感染防止策として東京都が打ち出した休業要請。対象業種の線引きがあいまいで、新刊書を扱う「書店」は休業要請の対象外なのに「古書店」は休業要請の対象になりました。東京都千代田区神田神保町。「世界一の古書街」は、9割以上の店が休業を余儀なくされたままです。(遠藤寿人)
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幹線道路・靖国通り沿いに128軒の中小古書店があり、神田古書店連盟が束ねています。通りを歩くと、大半の店がシャッターを閉めたまま。人通りもまばらです。新しくできた飲食店が目立ちます。
都によると、「書店」は学びの必要から休業要請の対象外ですが、「古書店」は趣味嗜好(しこう)が強いとの理由で休業要請の対象になりました。
「たしかに古書店に生活必需品的な価値はないな」と笑う店主(78)。近代文学、評論、思想、洋書などを扱っています。一方で、「(休業要請の)判断が正しかったかどうかは分からない」と指摘します。
「買い取る」機能
生活が厳しくなって困って本を売りたい人は多い。売って少しでもお金に換金したい―。古書店には、趣味嗜好とは異なる「本を買い取る」機能があります。「東京都の委員は本を売るほど生活に困ったことがないのでしょう」。「古書店は人情味ある質屋に似ています」と強調します。
神田128軒の3分の1が自分の店で残りは賃貸です。家賃は最低月50万~150万円ほど。諸々の負担がのしかかってきます。
趣味全般を扱う古書店の50代店主Aさんは「不特定多数のお客さんが来るとコロナが怖い。お休みにしました」。店と倉庫の家賃だけで月80万円以上。アルバイトの人件費と合わせて月100万円前後の負担です。
満額給付か不明
Aさんには東京都感染拡大防止協力金が2回で100万円。国の持続化給付金200万円を申請中です。書類を精査して判断するといいますが満額をもらえるのか分かりません。書類を提出したらいつまでに審査していつまでに入金してくれるのかはっきりしません。
仕事がなくなりお金が回らなくなると、一番先に減らされるのが趣味の費用です。「近い将来、この先どうするか、余裕がない。不安です」と話します。
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「大正7(1918)年創業ですが病気の流行で休業は初めてです」―。映画、演劇、シナリオの専門古書店「矢口書店」店主で神田古書店連盟会長の矢口哲也さん(56)は、まずは、お客様、従業員、アルバイト、家族の安全が第一だといいます。一番厳しいのは業者が古書を探し売り買いする「市場交換会」が開けないこと。市場が閉まるのは「首根っこつかまれて身動きがとれない」状態です。
日本古書通信社の編集長で『古本通』などの著書がある樽見博さん(65)は「古書の流通に卸問屋はありません。交換会で自分の店に合わない本を売ってお金にし、合う本を買う。その循環がなくなるのは厳しい。東京の市場は全国の古書流通の3分の1から半分になります。ネット通販も交換会で新しいものが補充されて維持される。未知のものに出会う喜びもあります。一日も早い再開を望みます」と話します。
矢口会長は力を込めます。「交換会が早く動いてほしい。秋の『古本まつり』を、規模を縮小してでも成功させたい」