2020年5月5日(火)
凍る経済 世界大恐慌以来の危機
新型コロナウイルスの感染爆発によって、世界は、大恐慌以来の経済危機に直面しています。被害は社会的弱者に洪水のように押し寄せています。今、経済・社会のあり方が問われています。(金子豊弘、清水渡、杉本恒如、吉川方人)
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大震災時より景況悪化
日本政府は4月の月例経済報告で景気の基調判断を「新型コロナウイルス感染症の影響により、急速に悪化しており、極めて厳しい状況にある」としました。「悪化」の表現が使われたのはリーマン・ショックで世界経済が揺さぶられていた2009年5月以来、約11年ぶりです。
3月の日銀短観では大企業製造業の景況判断指数がマイナス8と、7年ぶりにマイナス圏に転落。業種別に見ると、宿泊・飲食サービスでマイナス59と過去最低の水準になりました。景気の急速な悪化を受けて日銀は4月の「展望リポート」で20年度の実質GDP(国内総生産)の見通しを前年度比マイナス5・0~同3・0%としました。
景気の悪化は中小企業と労働者に深刻な影響を与えています。全国中小企業団体中央会が発表した3月の中小企業月次景況調査によると、9指標中8指標が悪化し、東日本大震災時よりひどい景況悪化でした。ほぼすべての業種で景況は悪化し、「かつてないほどの仕事のキャンセル・延期が発生しており、昨年比で20%以上売り上げダウンしている。2~3カ月続けば経営がかなり厳しくなる状況」(愛知 印刷業)、「宿泊関係は壊滅的な状況、宴会関係は95%ダウン、飲食店関係は70%ダウンとなっている。4月はさらなる業績悪化が確実視されており、大変厳しい景況」(栃木 旅館・ホテル)などの声が寄せられています。
こうした中、労働者の解雇や雇い止めが増えています。厚生労働省が全国のハローワークなどを通じて集計した、解雇や雇い止めにあった人の数は1月末から4月27日までの累計で3391人にのぼります。3月31日段階の1160人から1カ月足らずで2000人以上増えました。連合総研の調査では非正規雇用の6・5%が解雇や雇い止めにあっており、48・9%が収入減となっています。
IMF「稲妻のように」
「新型コロナウイルスは稲妻のようなスピードで社会的・経済的な秩序に混乱をもたらしています。これほどの規模の混乱を他に思い出すことはできません」。国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は、こう指摘します。
コロナ危機の経済への打撃を示す指標が相次いで発表されています。
コロナ感染者が最も多いアメリカでは、1~3月期の実質GDPが前期比年率換算で4・8%減少しました。米議会予算局は、4~6月期の成長率を前期比で11・8%減と予測しています。年率換算ではマイナス39・6%に達します。米国労働省によると、3月22日以降の6週間で、3000万人をこえる労働者が失業保険を新規に申請しています。米国での失業率は、大恐慌時を上回る30%まで上昇するとの予測すら出ています。
ユーロ圏の1~3月期の実質域内総生産(GDP)は、前期比3・8%減。コロナウイルスが発生した中国でも経済に急ブレーキがかかり、20年1~3月期の成長率は前年同期比6・8%のマイナスに転落しました。
IMFは4月14日に発表した「世界経済見通し」で「大恐慌以来の経済悪化」の危険に直面していることに警鐘を鳴らしました。1月に経済見通しを発表したときには「(コロナ問題が)経済にどのような意味を持つのか、分かっているものはわれわれの中にだれもいなかった」と、経済分析の専門家集団であるIMFが振り返るほど、事態は急激に悪化しました。4月になってようやく、IMFは20年の世界経済の実質GDP(国内生産)の伸び率がマイナス3・0%に転落することを予測しました。しかも、経済の先行きの不確実性はいよいよ高まっています。
コロナ危機は、人々の「ふれあい」を提供してきた観光、運輸、小売り分野にとくに襲いかかります。突然の需要の蒸発、供給網の寸断によって各国では労働者の大量解雇が日々刻々発生しています。国際労働機関(ILO)は、現在の世界経済が「破局的な損失に直面している」と強い警戒感を示しています。ILOによれば、不安定労働を特徴とする「非公式経済」に従事する就業者20億人のうち16億人が、都市封鎖などの影響によって生計を立てる能力を激しく損なわれていると指摘します。
新興国に大きな打撃が
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コロナ危機による世界経済の混乱は、とくに新興国に大きな打撃を与えています。
実質実効為替レートの変動率(19年12月31日から20年4月3日を比較したものと、19年9月から12月31日を比較)でみると、新興国では、新型コロナウイルスの影響で、のきなみ外国為替における通貨価値が下落しています。
たとえば、メキシコで22・8%、南アフリカで21・5%も下落しました。通貨価値の下落は、外国から輸入する力が減少することを意味します。新興国においては必要な物資が買えなくなることも予想されます。
また、新興国や途上国には、金属などの資源の輸出に頼っている国も多くあります。資源価格は原油をはじめ、低落傾向でしたが、新型コロナウイルス感染症によるショックでさらに低落しています。
商品価格の変化を見ると、1月17日から2月7日に金属などのほとんどの資源が短期間に急落しました。
下落率は、原油は58%減。北東アジア液化天然ガスが28%減などとなっています。原材料の商品価格の減少は、途上国や新興国にとって、コロナ危機とたたかうための財源の喪失を意味します。
平等で持続する社会へ
新型コロナの感染爆発によって現代資本主義の欠陥が一挙に噴き出しています。それは資本への規制や課税を解体し、資本主義の野蛮な本性をむき出しにさせてきた新自由主義の弊害でもあります。
新自由主義は資本の国際移動を自由化し、海外逃避による規制逃れと課税逃れを横行させました。多国籍企業は海外の無権利労働者や租税回避地を使って人件費と納税額の削減競争を引き起こし、貧富の格差を空前の水準に広げました。
資本が主導する経済のグローバル化は感染症が瞬く間に伝播(でんぱ)する世界をつくりました。資本の目先の利益に固執する国々は新型コロナの後手に回って入国制限や検疫などの措置を徹底するのが遅れ、水際対策に失敗しました。中国に製造業が流出していたためにマスクや人工呼吸器などの医療物資を確保できず、争奪戦を繰り広げる始末です。資本の利益を第一にして人命と経済を危機に陥れた「自由貿易・投資」体制は根本から見直されるべきです。
新自由主義は社会保障にも資本の原理を持ち込みました。自己負担を増やして公的給付を減らし、患者と要介護者を資本のサービスや民間保険を買う消費者に変えてきました。
しかし利益を目的とする資本に任せたのでは、購買力のない消費者は医療や介護を受けられません。公的医療制度の貧弱な国々は人口に対して病床や医師が少なすぎることが、感染爆発によって露呈しました。あっという間に医療崩壊に追い込まれ、多数の犠牲者を出しています。新自由主義的な社会保障「改革」は根本から転換されなければなりません。
国連のグテレス事務総長は「これまでと違う経済をつくらなければならない」と述べています。
「私たちはもっと平等で包容力があり持続可能な経済と社会の建設に焦点を当てる必要がある」
「世界がいま必要とするのは連帯だ。連帯すればウイルスに勝てるし、よりよい世界を構築できる」