2020年4月27日(月)
コロナ 広がる学費署名
背景に貧しい高等教育予算
新型コロナウイルスの感染拡大で大学のキャンパス閉鎖やアルバイトの減少など学生生活に深刻な影響がでるなか、学費減免などを求めるインターネット署名が100を超える大学で広がっています。学生の視線は、国の高等教育政策にも向けられます。(佐久間亮)
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明治学院大学4年の金勇利さん。同大学の関係者を対象に学費の一部免除を求めるネット署名を16日に立ち上げると、4日間で目標の2千人に達しました。
卒業生も賛同
「自分も含め飲食関係のアルバイトは全滅。家賃が払えなくなり帰国を考えた留学生の友人もいました。学生抜きに大学は存在しない。署名をきっかけに大学運営に学生の声が反映されるようにしたい。つながりのなかった学生から感謝のメッセージがきたり、卒業生や教員に賛同が広がったり、反響の大きさに驚いています」
同大は21日、インターネットによるオンライン授業の環境整備として全学生を対象に一律5万円の支給(総額約6億円)を決定。金さんは、パソコンを持っていない学生も多く通信費も不安だったとして大学の動きを歓迎し、「他大学にも波及してほしい」と語ります。
独協大学も23日、全学生に10万円の支給を決めました。支給総額は約9億円です。
一方、新型コロナを受けた国の2020年度補正予算案のオンライン授業関連予算は27億円。予算の対象となる学生は約370万人に上り、1人当たり700円にしかなりません。授業料減免の予算も国立大学4億円、私立大学等3億円です。
慶応義塾大学で学費免除やオンライン授業の支援を求めている大学院2年の嬉野由さんは、図書館や実験室が使えなくなったことで修士論文のための研究が滞り、卒業を1年先送りする学生も出てくるのではと危惧します。署名に取り組むことで、自分の納めた学費がどのように使われているのか初めて考えるようになったと語ります。
国に対し提言
同大でともに署名に取り組む学部4年生は「仮に学費が数万円だったら、署名がここまで広がることはなかった」とし、高すぎる日本の学費が新型コロナの危機を増幅しているといいます。
1970年以降、国立大の授業料は1万2千円から53万円台に、私大(平均)も約8万5千円から施設費や実習費を含め122万円超に跳ね上がりました。一方、国の国立大学法人運営費交付金は2004~19年度の間に1400億円以上減少。私大の経常的経費に占める国の補助金の割合も、ピーク時の3割から1割以下になっています。
24日には36大学の有志によって国による一律学費の半額免除を求めるネット署名がスタートしました。
慶応大の2人は、高等教育を受けるのは国民の権利だと強調します。
「経済力によって学ぶ機会が閉ざされることはあってはならない。まずは各大学に学生の現状を知ってもらう。そのうえで学生の声をまとめて国に提言を出していきたい」
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学生の取り組みを歓迎
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著書に『私立大学の財政分析ハンドブック』がある野中郁江・明治大学教授(日本私立大学教職員組合連合書記長) 学費減免など学生の署名が広がっていることを歓迎します。学ぶ権利の主体として学生が声を上げなければ事態は動きません。
いまは緊急事態。経済的な事情で大学を去る学生を防ぐため、各大学でも取り得る手段は講じるべきです。学生の立場から大学の財務を点検し、使途の再考を求めることもあり得るでしょう。
ただ、大学・短大法人の約4割は採算割れです。私大の学生1人当たり助成額は国立に比べて13分の1でしかなく、私大は学費に頼らざるを得ない財政構造になっています。
国は、オンライン授業や学費減免の拡大を求めてきますが、財政的に手当てする姿勢は見えません。しかも、国は私大の中間所得層の授業料減免補助を今年度から廃止し、補正予算案の減免補助も半分は大学の持ち出しです。これでは緊急事態に対応できるわけがありません。
日本私立大学団体連合会にも大胆な予算要望を政府に出してほしいと思います。