2020年4月18日(土)
きょうの潮流
廃虚のガザに突如出現した陽気な子猫。両手に買い物袋をさげたキリストの十字架像。火炎瓶ではなく花束を投げる抗議者…。あちこちの通りや壁、橋を舞台に描かれた作品は街の雰囲気さえ変えるといいます▼戦争や政治、消費や環境。世界が抱える問題や矛盾をテーマにしながら風刺やユーモアを効かせた独特の作風。正体不明の“路上芸術家”バンクシーは世界で最も注目されているアーティストの1人です▼昨年は彼の作品らしきネズミの絵が東京で見つかり、今年は横浜で展示会開催(現在は休業中)。国内でも人気が高まるなか、SNS上に新作が投稿されました。洗面台やトイレでいたずらするネズミたちが「家で仕事をすると妻が嫌がる」というコメントとともに▼これにはバンクシーも在宅勤務かとの声も。奔放に遊ぶネズミの姿はほっこりさせますが、世界を覆うコロナ禍のなかで生活が隔離されていく現実も映します▼日本では「緊急事態」が全国に拡大するなか、政府が国民1人あたり10万円の現金給付に転じました。野党が早くから提案していたのに耳もかさず、失態ばかりくり返してきた自公と政権の迷走。人びとの苦しみに目もくれない無策ぶりに高まる国民の怒りや批判。それに押されての転換です▼バンクシーの作品は反権力や反資本主義で知られます。社会や政治を動かすのは私たちの声だと呼びかけるように。その姿が日常になれば、この苦難の先に、これまでとはちがった風景がきっとみえてくるはずです。