2020年4月10日(金)
緊急事態宣言で休校長期化
対応に追われる学校
新型コロナウイルス感染者急増にともない7日、7都府県に出された緊急事態宣言。入学式や始業式の予定は急変、休校期間も長期になります。教員や保護者、子ども、関係者の声を聞きました。(佐久間亮、染矢ゆう子、堤由紀子、松浦裕輝)
7日開催で準備していた入学式が、前日夜に中止決定。「対応に追われた1日でした」
大阪市内の小学校教員は、宣言当日をこう振り返ります。
頭越し発信
市教育委員会をとび越して、松井一郎市長が急きょ方針転換。現場は大混乱でした。
6日夕方に市教委が「7日の朝7時に緊急事態宣言が出ていれば、入学・園式は延期、出ていなければできる」と通知しました。ところが6日夜、市長がツイッターで「安倍総理会見をもって緊急事態モード対応と致します」と発信。小中学校の入学式中止と、始業式延期を発表したのです。直後に市教委が先の通知を撤回、入学式延期を伝えました。
同校では1日かけて全学年の配布物を封筒にまとめ翌8日、各家庭にポスティング。「1年生の担任や校長をはじめ、市長の対応にかなり憤っています」
休校はゴールデンウイーク明けまで。図書室で少人数の子どもを受け入れます。新1年生も数人“初登校”。本や課題を持参して過ごす中、教員が交代で見守り「みんな相変わらず退屈しています」。
市教委は感染症対策マニュアルを作成しましたが「休校が明けてもまともに授業ができるのか」と、現場からは不安の声が上がっています。「教育委員会の通知が、市長のツイッター一つでひっくり返るぐらいなので、教職員には先が見えない不安しかない」と、この教員は語ります。
入学式欠席
東京都内の小学校教員は「こんな時だから夏休みはなくても仕方ない、などという話が教育委員会から出るのでは」と心配します。
入学式は校庭でしたが“集団は心配”と欠席したり、式後の説明会に移動しなかったりした家族も。「症状が出ない状態で、自分たちがうつす側になってしまうのが怖い」とみんなで話しています。
子どもたちの気持ち想像して
生活崩れ 親子つらい
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東京都内の小学校教員は言います。「子どもは経済に関係ないから、休校はやりやすかったのかもしれない。行政は、親の仕事や学校・学童・保育の現場を全く考えていない」
何より判断が遅い。「一から作った計画をまた作り直して…の繰り返しです。現場の意見を聞いてほしい。前日の夜にいきなり決定事項を現場におろすなんて、めちゃくちゃです」と訴えます。「前日夜に『入学式が延期になった』と連絡が来た子どもがどんな気持ちになるのか、想像してほしいのです」
来ていいか
北九州市の小学校は3月、低学年の希望者を中心に預かりました。今年度は全学年の希望者が対象。6日は始業式後、7、8日は午前中。10日から5月1日までは、朝から午後3時まで延長し、パンと牛乳の簡易給食を提供します。足りないおかずやアレルギーの子どもの弁当は持参をお願いしています。
学校に来る子どもたちは1クラス10人以下です。3時間を2コマに分け1コマは学習。休み時間をはさんで、もう1コマは運動場で遊んだり教室で折り紙や塗り絵をしたりしています。
子どもを不安にさせないよう教員は笑顔で接し、外遊びなどで楽しく過ごして「また明日」と別れています。が、教員(42)の気持ちは複雑です。「市内はどこに感染者が出てもおかしくない。ぼくらとしては学校に来てもいいのだろうか、と思いながら過ごす日々です。子どもが家で1人で過ごすことがないよう、仕事に出ないといけない人の補償をしっかりしてほしい」
中止に号泣
「子どもは入学式をすごい楽しみにしていたのに、式前日になって突然中止の連絡。『中止だって』と伝えると、ワーッと泣き出してそのまま寝入ってしまいました」。
千葉県内に住む小学1、5年、中学1年の子の母親は話します。
1日30分は勉強しようと決めましたが、子どもらがルールを変えて「本を30分読んだらOK」「縄跳びを100回やったらOK」と適当にやっています。「親としては違うんだけどと思いますが、自分で管理するのは無理。中1の子は卒業も入学もあいまいで、何をしたらいいか分からない状況。生活リズムも崩れています」
両親とも働いているため、近所に住む父方の祖父母に頼りっぱなし。「でも、3月初めから1カ月以上にもなるので、2人とも相当疲弊しています。祖母はこの2日ほど体調も崩した」と話します。
何が正しい
「一番困るのは、何が正しい情報なのかわからないこと。消毒を徹底しすぎて、ノイローゼになりかかった時もありました」
長女が4月から中学生になった神奈川県内に住む母親の話です。6日は入学式の後、教室で教科書などが配られました。「個別に配ればいいのに、リスクの高い空間に子どもを送り出すなんて理解できない」と、後で取りに行きました。
友人の子どもはぜんそくがあるにもかかわらず、学校からは「各家庭の判断で行かせない場合は『欠席扱い』にする」との返答が。「えっ、なんで?」と信じられません。「休校は賛成。でも、友達とコミュニケーションがとれない時期が長いのが心配です」
スマホ漬け
東京都目黒区に住む4人の子どもの母親は、3月からの日常を「一日中食べてばかり。朝寝坊と夜更かしで最悪の生活」と話します。朝は早めに起こしますが、小学2年から高校1年の子ども4人は一日家にいます。
「あり余る体力を消費できず、けんかばかり。宿題は大した量がないので勉強もあまりしない。中高生はスマホばかり触って、『ゲーム機を買ってくれ』と連日騒ぐんです」
ニューヨークに住む友人は「外に出ないで」と心配して頻繁にメッセージをくれます。「宣言が出ても通勤する人を結構見かけるので、補償をしっかりしてほしい。経済に影響の少ない子どもが犠牲になってしまい、親子ともどもつらいです」
不安や願い びっしり
愛知の共産党 こどもアンケート
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「こわいニュースばかりやっている」「勉強をしたい」「先生やみんなに会いたい」―。日本共産党愛知県委員会が5日から始めた「こどもアンケート」には、感染拡大や一律休校の下で、子どもたちの不安や願いが寄せられています。
同県では当初、7日に公立学校を再開する予定でしたが、県が5月6日までの臨時休校を発表しました。
休校か再開か、党県委員会には親から不安が寄せられていました。「でも、一律休校要請で権利がふみにじられた子どもの声が、聞こえていませんでした。意見を表明する場をつくり、それを実現したい」。コロナウイルス対策本部事務局長の高橋まきこさんは、アンケートを始めた理由をこう話します。
LINEなどを活用し、子どもに直接書いて送ってもらうよう、つながりのある親に依頼。「転校してしまう友達とお別れしたまま」「コロナウイルスにかかりたくない」「消毒とかたくさん置いてほしい」「早く学校に行きたい」「外に出にくい」など戸惑いや不安、要望が書かれています。(写真)
声は、各自治体の党議員団が教育委員会に要請する際に届ける予定。「子どもは必要な情報を求めているし、いろいろな要望もある。それを実現するために、おとなが知恵を絞らないといけません」
虐待家庭の安全確認できない
児童相談所
休校で子どもの様子がつかめない―。子どもの安否を心配する児童相談所の職員に、実情を聞きました。
子どもの見守り機能を果たしてきた学校が休校になることで、私が勤める児相では学校からの虐待の通報・通告がほぼゼロになっています。普段は空きが出ない一時保護所も、子どもの数が定数の4分の1ほどになっています。休校で家庭の密室が確認できないなか虐待する親と同じ空間に子どもがいる時間が長くなることが、本当に心配です。
保育園や学校に通わせることを条件に家庭に帰している子どももいます。休校でその条件は機能しなくなっていますが、もう一度施設に戻すわけにもいきません。
給食で食いつなぐ子どもが実際にいるので、家庭できちんと食事をさせてもらえているのかも心配です。
休校になっても、行政として学校をある程度開放し、児相が必要と判断した子どもは学校に通えるようにしてほしい。特定の子どもをターゲットにするのが難しければ、午前か午後だけとか、週の何回かだけでも把握できる工夫をしてもらわないと、安全確認ができず、困ります。休校に付随する問題があまりにも大きいのに、国の対応は後手後手です。