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2020年4月6日(月)

揺らぐ米覇権主義

感染拡大 行き詰まる軍拡

図

 新型コロナウイルスの感染拡大で世界が未曽有の危機に直面する中、米国を中心とした軍事的覇権主義が深刻な矛盾に直面しています。世界はいま、右肩上がりの軍拡や、国家や武装集団の対立を軸にした安全保障観を転換するときに来ています。コロナ対策を後回しにして、過去最大の軍事費に指一本触れなかった安倍政権も問われています。

空母壊滅

 「われわれは戦争をたたかっているのではない。水兵たちは死ぬ必要がない。いま行動しなければ、われわれは彼らを失うだろう」。中国海軍を念頭に、南シナ海やフィリピン海を航行中だった米原子力空母セオドア・ルーズベルトの艦長は3月30日、艦内での新型コロナウイルス感染拡大の惨状を訴え、乗組員の即時下船を要請しました。4日現在、同艦での検査は乗組員約4000人中44%にとどまっていますが、それでも155人の感染を確認。もはや任務継続は不可能な状態です。

 さらに、4月以降、フィリピン海などに展開するはずだった米海軍横須賀基地(神奈川県)所属の原子力空母ロナルド・レーガンの乗組員にも感染が拡大。出港の見通しはたっていません。同基地内では3月末現在で5人の感染が確認されていますが、米国防総省は基地ごとの感染者数を非公表としたため、その後の状況は覆い隠されています。

 米国防総省によれば、軍属や家族を含む感染者数は3日現在で1648人、死亡6人(グラフ)。米軍でこれだけ感染が拡大している理由は、地球規模で軍事基地網を築き、海外で複数の軍事作戦を行い、移動を繰り返しているからです。このため、米国防総省は3月13日から移動制限措置を取っています。米国の軍事的覇権主義と、常時介入態勢が、感染症への脆弱(ぜいじゃく)性をもたらしたのです。

社会保障

 こうした軍事的覇権主義を支える軍事費や軍需産業への影響も論じられ始めています。

 米航空専門誌『アビエーション・ウィーク』(3月31日付)は、同盟国が弱体化し、米軍の作戦計画や武器輸出に影響が出ることなどを指摘。また、電子雑誌『ザ・ディプロマット』(3月27日付)は、地球規模ではりめぐらされた兵器の供給網への深刻な影響を指摘。今後、在日米軍を含め、部品の不足で艦船や航空機を動かせない可能性もあります。

 「新型コロナウイルスでも、テロも弾道ミサイルも止まらない」。2日、NATO(北大西洋条約機構)史上初のテレビ外相会合で、米国のハッチソン大使はこう述べ、加盟国に軍事費を削減しないよう呼びかけました。

 トランプ米政権はNATO加盟国に、軍事費の対国内総生産(GDP)比2%への増額を要求してきましたが、加盟国のほとんどは、新型コロナウイルスによる社会・経済活動の停止や多くの犠牲者に直面しています。前出の『ザ・ディプロマット』は「今後、世界中の国は、社会保障により多く支出するだろう。もし政府の財政力に問題があれば、防衛をふくむ、他の財政分野から切り替えるべきだ」と指摘しています。

新しい「安全保障」に転換を

写真

(写真)土砂投入が強行されて1年になる辺野古沿岸=2019年12月13日、沖縄県名護市(小型無人機で撮影)

 一方、安倍政権はどうか。2020年度本予算には新型コロナウイルス対策費を1円も計上しない一方、過去最大の軍事費5兆3133億円には指一本触れませんでした。

粛々強化

 コロナ危機の中でも、基地強化は着々と進める計画です。沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設をめぐって、1日に開かれた防衛省沖縄防衛局の専門家会議で、同省は「技術的検討は終わった」との認識を示しました。早ければ月内にも、軟弱地盤の地盤改良に伴う設計変更を沖縄県に申請する計画です。

 また、陸上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の配備先選定をめぐっては、再調査を月内に終了。河野太郎防衛相は、今月中旬に秋田県を訪問し、配備へ協力を要請する考えです。

 さらに、馬毛島(鹿児島県西之表市)への米空母艦載機離着陸訓練(FCLP)移転をめぐって、防衛省は種子島に連絡所を設置。来月にも、馬毛島周辺海域のボーリング調査を実施するかまえです。

 また、F35ステルス戦闘機をはじめ、米国製武器の“爆買い”も、現時点では変更はありません。

 しかし、辺野古新基地をめぐっては、政府の見積もりでも、完成まで最短12年、費用も1兆円かかる上、軟弱地盤の存在により、「技術的・財政的に完成は困難」(沖縄県・万国津梁〈ばんこくしんりょう〉会議)とされています。北朝鮮の弾道ミサイルを想定したイージス・アショアも、米朝関係の変化に伴い、その存在意義が揺らいでいます。F35ステルス戦闘機は総額で6兆円以上にものぼり、日本の財政に重い負担を課している上、900件近い技術的欠陥が指摘されています。

不要不急

 これらは深刻な矛盾を抱えながらも、中国や北朝鮮などの脅威をあげ、「日米同盟強化」「抑止力」の名の下で強行されてきました。

 しかし、新型コロナウイルスの感染爆発を契機に、米国を中心とした軍事的覇権主義のもろさと同時に、未知の感染症や、今後予想される気候変動に伴う災害の増加といった、全人類への脅威への対処こそ、真の「安全保障」であることが明るみにでました。

 特定の国家・武装勢力を仮想敵とする伝統的な「安全保障」観は転換を迫られています。政府は「不要不急」の基地強化・武器爆買いについて、少なくとも立ち止まって再検討し、21年度予算案では、軍事費の大幅な縮小と、医療体制・検査体制・相談体制の大幅な拡充に切り替えるべきです。(竹下岳)


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