2020年2月17日(月)
政治考
ヤジ 答弁拒否 デマ発言
国会汚す安倍首相
「桜を見る会」私物化疑惑について資料も出さず、まともな答弁も拒否し、追いつめられると野党質問者に「意味のない質問だ」とヤジを飛ばす、あげくには「桜」疑惑追及の先頭に立つ日本共産党に対して事実無根のデマ発言をする―。いま国会が、安倍晋三首相の言動で荒れに荒れています。メディアも「荒涼たる国会 安倍首相の責任は重い」(「朝日」)「首相のやじ 国会を冒涜(ぼうとく)する暴言だ」(「東京」)などと批判を強めています。
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「国会は本来、政策を堂々と論じ、疑惑があれば誠実に説明すべき場です。その場をどこまで汚せば気が済むのかと強く言いたい」。13日、国会で記者会見した日本共産党の志位和夫委員長はこう語気を強めました。
議院内閣制侵害
「意味のない質問だ」というヤジは、12日の衆院予算委員会で立憲民主党の辻元清美議員が質問を終えた直後に、安倍首相が自席から発したものです。安倍首相が野党議員をヤジることはこれまでも数多くありましたが、今回のヤジは、国会での議論そのものを否定する点で、他のヤジとは質的に決定的な違いがあります。
石川裕一郎聖学院大学教授は「日本国憲法のもと、内閣は連帯して国会に責任を負い、首相は行政について国会に報告する義務を負います。また、国会には国政調査権があり、行政を調査する権限を持っています。これらの議院内閣制にかかわる統治機構上の原則を踏みにじる発言です」と批判します。
安倍首相は、「桜を見る会」疑惑でまともな答弁ができなくなっています。
街頭で国会審議をスクリーンに映して見てもらう「国会パブリックビューイング」を主宰する上西充子法政大学教授は「『募集ではなく募っただけ』『契約ではなく合意』という安倍首相の答弁は、『ごはん論法』(すり替え論法)にもなっていません。ごまかしきれなくなっています」と指摘します。
自民党議員の一人は「首相がいら立つのも分かるが、『桜』疑惑は首相の問題で、首相しか答えられない。まわりがフォローすることもできない」と苦しい表情をみせます。
民主主義の危機
「暴力革命の方針に変更はない」という日本共産党へのデマ発言(13日の衆院本会議)では、野党が一致して首相に謝罪・撤回を要求しました。国民民主党の原口一博国対委員長は「公党に対する誹謗(ひぼう)中傷だ。安倍首相は『壊れている』としか言いようがない」と批判します。
憲法学者の小林節・慶応大名誉教授は「共闘する野党も市民も、日本の民主主義の危機として捉え、反撃する時です」と語ります。
石川氏も安倍首相の答弁姿勢について「言葉がいいかげんに扱われ、根本的な政治への信頼性を破壊しています。言葉による意思疎通ができないということは民主主義の危機です」と批判します。
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追いつめられる安倍首相
答弁支離滅裂、疑惑そらす
「桜を見る会」疑惑では、▽「功績・功労のある人」という招待基準を無視して安倍後援会会員を大量招待していた私物化▽招待者名簿をはじめ「会」の記録文書の破棄▽悪徳マルチ商社とのつながり▽前夜祭をめぐる政治資金規正法・公職選挙法違反の疑惑―などいずれの論点でも安倍首相の答弁は支離滅裂です。
加えて、2017年のマルチ商法で業務停止命令を受けた「48(よつば)ホールディングス」の役員が「桜を見る会」などでの首相夫妻との写真を会員拡大に使っていたとの疑惑が浮上しました。首相は、写真の存在を示されても「全く存じ上げない」と述べるだけです。
一方で、安倍首相の野党議員への攻撃はエスカレート。衆院予算委では立憲民主党の黒岩宇洋議員を「うそつき」「人間としてどうなのか」(4日、衆院予算委)と侮辱。謝罪を求められても拒否しました。さらに、無所属の小川淳也議員が5日、同委で「桜」疑惑を追及した際にも、安倍首相は「延々とこういうやり取りをやらなければいけないのは恐縮だ。重大な問題がたくさんある」と疑惑そらしに必死。「さまざまなレッテル貼りを行っている」と小川議員を攻撃しました。
しかし、重大問題の質疑の土台を崩しているのはだれか。上西氏は「『桜』疑惑は、安倍後援会の人が先に会場に入って飲食や記念撮影をしていたなど、税金を使った行事の私物化が庶民感覚でも実感できる問題です。関係者も多く、証拠もたくさんありごまかし切れない。だからこそ、『桜ばかりやっている場合ではない』『意味があるのか』と、与党は一生懸命に話をそらそうとしています」と言います。
6~9日実施の時事通信世論調査では、安倍内閣支持率は、19年3月以来の3割台(38・6%)となり、森友・加計学園問題で政権不信が強まっていた18年8月以来、1年6カ月ぶりに不支持が支持を上回りました。「『桜を見る会』をめぐる疑惑の解明が進んでいないことなどが影響しているとみられる」としています。自民党関係者からも「じりじりと下がっている」と焦りの声も漏れます。
新型肺炎逆手に
一方で、首相の言動には、新型コロナ肺炎の感染拡大で国民の不安が増幅していることも逆手に取り、疑惑追及を弱めようという意図も透けて見えます。メディア関係者の一人は「コロナ対策で政府が大変なのは事実で、その中で『疑惑ばかり』というのが首相の本音かもしれない。しかし、『桜』は首相自身がまいた種だ」と語ります。
上西氏は、首相が繰り返す暴言やヤジについて「わざと言っている」と指摘します。「やりとりの全体を報じないで、安倍首相の発言だけが切り取られニュースにされることが多い。レッテルを貼ったとか、罵詈(ばり)雑言だとか、安倍首相の発言だけが報じられると、まるで首相がひどい目に遭っているように映ります。テレビ向けに、切り取られることを予想しながら、わざとそうした発言をしている」
そのうえで上西氏は「国会質問で野党議員がばかにされることは、国民がばかにされることです。政権に歯向かうとばかにされると萎縮して、歯向かってはだめだと思うとしたら、それは政権の思うつぼ。独裁への道です」と語ります。
大事な局面に
17日の衆院予算委員会では冒頭で、安倍首相が辻元議員へのヤジについて「謝罪」することになっています。それが果たして国民が納得しうるものになるのか。政治的駆け引きを超えて、日本の議会制民主主義の在り方の根本にかかわる、大事な局面になります。(佐藤高志、若林明)