2020年2月2日(日)
EU離脱の日 歓喜と失望と
英労働党首 人権など犠牲に警戒感
【ロンドン=伊藤寿庸】ロンドンの英議会前では1月31日、英国が欧州連合(EU)を離脱する瞬間を見届けようと多くの市民が詰めかけました。
「とても興奮している。英国が決定権を取り戻すんだから」というのはパット・ヘイリーさん(69)。南部の町から知人とともにバスで来ました。「70年代に英国が加入したのは単一市場だった。国家のような今のEUに加盟したわけじゃない」
政府は、残留支持の国民に配慮して派手な祝賀行事を自粛。他方「ブレグジット党」のファラージ党首らの主催する議会前の集会には数千人が集結。午後11時の離脱の瞬間、花火が上がり、市民が英国旗を振りながら大歓声を上げました。
昨年12月の総選挙では、「EU離脱をやりきる」との公約を押し出したジョンソン首相の保守党が大勝し、離脱・残留をめぐる国内対立が決着。しかし英国にはこれから11カ月の移行期間に、EUとの間で自由貿易協定締結のための交渉をまとめるという難題が控えています。12月末まで英EUは人の移動や就労の自由を保障し、関税導入もしません。しかし移行期間の期限末までに双方が合意できなければ混乱が広まる可能性があります。残留派の国民は、失望と無力感を抱きつつ、これから始まるEUとの交渉の行方を見守る姿勢です。
ジョンソン首相は、テレビ演説で、「取り戻した主権」を使って、移民流入の抑制、自由貿易港の設置、漁業の自由化、各国との自由貿易協定の締結を進めると表明。「自国民の利益のために法律やルールを制定することは、健全で、民主的なことだ」と述べ、「EUは過去50年間、わが国にもはや適さない方向に発展してきた」と批判しました。
労働党のコービン党首も声明を発表し、離脱は国民投票の結果だとしつつも、「英国と、EUや世界との関係について重要な選択はまだなされていない」と指摘。今後のEUや米国などとの貿易協定交渉の行方によっては、人権や労働者・環境・消費者保護が犠牲になりかねないと警戒感をにじませました。
EU残留が多数のスコットランドでは、地方議会前のEU旗を降ろさないことを決定。スタージョン自治政府首相は「EU離脱で、スコットランドは間違った道に入り込まされた」と演説。「今年中に(独立を問う)住民投票を実現するために全力を挙げる」と述べました。
スコットランドでは、最新の世論調査で、独立を問う住民投票があれば51%が独立を支持するなど、EU離脱によって英国内に新たな分裂が広がっています。