2020年1月8日(水)
主張
米国の暴挙と首相
常軌逸した行動を認めるのか
安倍晋三首相が6日に年頭記者会見を行いました。注目されたのは、トランプ米大統領の指示によって米軍がイラクのバグダッド空港でイラン革命防衛隊の司令官を空爆で殺害するという軍事攻撃に対しどんな見解を示すかでした。しかし、首相はこの軍事攻撃について一切コメントしませんでした。しかも、トランプ氏の対イラン「有志連合」の呼びかけに事実上応え、中東沖に自衛隊を派兵する考えを改めて表明しました。いくら首相が「緊張緩和のための外交努力」を訴えてみても何の説得力もなく、ただ空虚に響くだけです。
無法重ねるトランプ政権
米軍がイランの司令官を殺害したのは3日です。ところが、首相は態度表明を避け続けています。6日の会見でも「中東地域が緊迫の度を高めており、現状を深く憂慮している」「全ての関係者に緊張緩和のための外交努力を尽くすことを求める」と述べるだけでした。誰が今回の緊張をつくったのか、問題の根源はどこにあるのかについての言及はありませんでした。
今回のイラン司令官殺害をめぐるトランプ氏の言動は、理性を失った常軌を逸したものです。
イランの司令官を殺害した軍事攻撃は、トランプ政権が自ら呼んだように「先制攻撃」(エスパー国防長官)であり、国連憲章に違反していることは明らかです。
米紙ニューヨーク・タイムズ5日付(電子版)によると、米軍幹部らは今回の司令官殺害の選択肢を「最も極端な対応」としてトランプ大統領に提示しました。米国防総省では他の選択肢をより受け入れやすくするため、あり得ない選択肢を示すことがあり、大統領が採用するとは想定していませんでした。ところが、トランプ氏は司令官殺害を決め、国防総省幹部らは衝撃を受けたといいます。
さらに、トランプ氏は「イランが米国人や米国の資産を攻撃すれば、イランの52カ所を標的にし、とても迅速に、とても激しく攻撃する」とツイートしています(4日)。「52カ所」とは「何年も前にイランによって人質になった52人の米国人を示す」と述べており、1979年のテヘランでの米大使館人質事件への報復を念頭に置いたものです。標的には「イランやイラン文化にとって非常にハイレベルで重要なもの」が含まれるとし、米国内でも「文化遺産を攻撃するのは戦争犯罪」だとの批判が上がっています。
イラク議会は国内でイラン司令官などが殺害されたのを受け、米軍の撤退を求める決議を採択しました(5日)。これに対してもトランプ氏は「イランへの制裁が生ぬるく見える前代未聞の制裁をイラクに科す」と脅しをかけています。
自衛隊派兵の決定撤回を
米国とイランの緊張激化の原因がどこにあるかは明瞭です。トランプ政権がイランとの核合意から一方的に離脱し、同国への経済制裁と軍事圧力を強めたことにあります。さらに今回の無法な先制攻撃が戦争の危険を生んでいます。
首相は6日の会見で「日本ならではの外交」を強調しました。しかし、それは、トランプ政権の無法を黙認することではありません。米国が軍事力行使を直ちにやめて核合意に復帰するよう強く求め、中東への自衛隊派兵を撤回することこそ、憲法9条を持つ「日本ならでは外交」に他なりません。