2019年12月28日(土)
主張
自衛隊派兵の決定
中東の平和と安定に逆行する
安倍晋三内閣は27日、米国とイランとの緊張状態が続く中東地域での情報収集態勢を強化するとして、自衛隊の派兵を閣議決定しました。中東の平和と安定、日本関係船舶の安全確保のためというのが口実です。しかし、この地域への派兵は、自衛隊が紛争に巻き込まれ、憲法9条が禁止する武力行使の危険を生み出します。中東の平和と安定にも、船舶の安全にも逆行する動きです。
武力行使の危険を招く
今回の自衛隊派兵決定の発端となったのは、米国のトランプ政権が今年7月、「核合意」をめぐって対立するイランに軍事的圧力を加えるため、「有志連合」の結成を呼びかけ、同盟国や友好国に参加を求めたことにあります。
安倍内閣が強行した閣議決定は、日本は有志連合のような「特定の枠組みには参加せず、自衛隊の情報収集活動はわが国独自の取り組み」だと強調しますが、米国などとの「必要な意思疎通や連携を行う」と明記しています。具体的には、有志連合の拠点となるバーレーンの米中央軍司令部に情報共有のため連絡要員を派遣する方針です。米軍の活動と一体化する恐れが強く、事実上の有志連合への参加に他なりません。
閣議決定でも「日本関係船舶の防護の実施を直ちに要する状況にはない」と認めながら自衛隊の派兵をこの時期に決めたのも、有志連合の活動が年明けの1月から本格化するためとされています。一方で、防衛省の説明では、12月中旬の段階で、有志連合への参加を表明した国は6カ国にとどまり、このうち実際に軍の派遣を表明しているのは英国とオーストラリアの2カ国だけです。
今回の決定が、国際社会から孤立するトランプ米政権の要求に応え、「派兵ありき」で強行されたことは明らかです。
イランは自衛隊の派兵をめぐり「日本の意図や努力を理解する」としつつ、「原則的な立場として、地域に域外の部隊がいることが平和と安定のためになるとは思わない」(アラグチ外務次官、「読売」12月22日付)として、米国主導の有志連合を非難しています。
自衛隊の活動海域については、ホルムズ海峡は除外していますが、イランに接するオマーン湾を含んでいます。閣議決定も「不測の事態の発生」を想定しており、その場合には「自衛隊法82条の規定に基づき、海上警備行動を発令して対応する」としています。海上警備行動は武器の使用が認められており、武力行使する危険はさらに大きくなります。
自衛隊の派兵が防衛省設置法4条の「調査・研究」を根拠に決定されたことも重大です。
国会承認を必要とせず、活動の内容や地理的範囲、装備などの詳細は防衛相の判断に委ねられ、海外派兵のなし崩し的な拡大につながります。安倍内閣は今回、閣議決定をしましたが、国会の関与を排除し、政府に白紙委任する本質は何も変わりません。
対話での外交的解決を
イランをめぐる今日の問題は、トランプ米政権が核合意から一方的に離脱し、軍事緊張をつくり出したことに始まります。日本がなすべきはトランプ政権に核合意への復帰を求めるとともに、イランに自制を促し、対話による外交的解決に力を尽くすことです。