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2019年11月7日(木)

主張

米のパリ協定離脱

地球課題への重大な責任放棄

 米国のトランプ政権が、地球温暖化対策の国際的枠組みである「パリ協定」からの離脱を正式に国連に通告しました。9月に開かれた国連の気候行動サミットでは多くの国が、パリ協定を加速させる取り組みの強化を表明するなど、温暖化に歯止めをかけることが国際政治の大きな焦点になっています。米国の行為はあまりに身勝手です。

「米国第一」の危険性

 パリ協定は、2015年の国連の気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で採択されました(16年発効)。世界の気温の上昇を産業革命前(1850年ごろ)に比べて、21世紀末に2度を十分に下回るようにし、1・5度に抑える努力をするという内容です。21世紀後半には温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを決めるとともに、先進国も途上国も、すべての国が対立をのりこえて、温暖化対策に取り組むことを合意した画期的な条約です。

 パリ協定の本格的な運用が始まる20年の直前に、中国に次いで世界第2の排出国である米国が、離脱通告をしたことは、温暖化対策を促進させる動きへの重大な逆行です。

 トランプ政権は17年6月、米国にとって不公平などとしてパリ協定からの離脱を表明していました。国際合意に従わず自説を押し通す「米国第一主義」に厳しい批判が集まりましたが、今回、正式な離脱通告に踏み切ったものです。

 トランプ大統領は、来年の大統領選で石炭産業界の支持獲得などを念頭に、「恐ろしくコストが高くつくパリ協定。労働者やビジネスに不公平な負担」などと離脱を正当化します。しかし、米国の人口で過半数を占める25の州・自治領ではパリ協定の目標達成にとりくむ「米国気候同盟(USCA)」が結成されています。多くの米民間企業も「脱炭素」、再生可能エネルギーの普及・拡大に力を入れています。トランプ政権のパリ協定離脱は、米国内での流れにも逆らうものです。USCAが離脱通告について「誤った政策だ」と批判声明を出したのは当然です。

 温暖化の進行による気候変動の危機は、科学者などの集まりであるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)がくり返し警告しています。パリ協定のめざす「1・5度上昇に抑制する」目標を実現しても、地球環境に深刻な事態をおよぼすとされています。いま各国が示している目標を達成しても、21世紀末には約3度上昇すると予測されており、取り組みの強化こそ求められています。

 スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんの「この危機を止めよう」という訴えにこたえて、世界的なうねりとなっている若者たちの声と行動に、各国の政治家はこたえるべきです。

 地球の現在と未来がかかった課題に背を向けるトランプ政権の姿勢は許されません。

日本の姿勢も問われる

 12月にはパリ協定の実施指針などをまとめるCOP25がスペインのマドリードで開催されます。各国の削減目標の引き上げなどへの真剣な行動が急務です。安倍晋三政権の温暖化対策については、極めて低い削減目標や、石炭火力発電推進に国内外の批判が高まっています。この後ろ向きの態度を改めることが必要です。


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