2019年9月30日(月)
シリーズ 日韓関係を考える
植民地支配が奪ったもの
立命館大学教授 庵逧由香さん
|
日韓関係での安倍政権の対応は、本当にひどいものです。ある主張をするときに根拠となる事実を隠す、“ウソ”を平気で言うという政権の姿勢が、徴用工問題などの日韓関係でも際立っています。また、安倍政権が、外交問題を経済分野にまで広げてしまったことは、大変恐ろしいことだと思います。
植民地支配を肯定する一部の議論に、数字をあげて、経済的な発展を主張するものがあります。朝鮮半島でも、植民地期にインフラの整備は進み、農業生産は上がりました。しかし、それは、日本が植民地の朝鮮に投資をして、従属させて資本主義化を進めたということです。問題はそれをどう評価するかです。まず、その富の配分の問題があります。日本が多くの富を獲得し、朝鮮のほとんどの庶民には富が波及しなかった。さらに、この見方の問題は、経済ばかり見てしまうことです。植民地支配によって奪われた一番のものは、近代化という自国の国をつくっていくための政治訓練の機会です。戦後は多くの植民地が独立したものの、韓国のように軍事独裁になっていきます。植民地時代に国民的な訓練がなかったことが影響しています。政治的な選択権を奪ってしまうという植民地主義の本質があると思います。
1950、60年代には在日朝鮮人の研究者を中心に植民地支配について一定の問題が提起されました。その後、80年代に韓国の民主化が進む中で、90年代の韓国で、日本が朝鮮への軍事侵略の口実にした甲午農民戦争の被害者や日本の植民地支配に反対する義兵への名誉回復などが提起されました。アジア太平洋戦争の動員による被害に対する補償の問題は被害者から声が上がりました。植民地支配そのものが問題になったのです。これらは2000年代のダーバン会議と同一の世界的な流れです。
この間、日本と韓国は人的な交流も進みました。特に10、20代の若者では、当たり前のようにK―POPを聞き、韓国文学の翻訳を読む人が増えています。かつては、韓国のことなど一部の人しか知らず、無関心の人が圧倒的でした。しかし、今は違います。直接交流を持つ人が、一定の地盤になると思います。その上に、多様な植民地支配の問題を具体的に理解することが求められます。
聞き手・写真 若林明
ダーバン会議 2001年に南アフリカ・ダーバンで開かれた国連主催の「人種主義、人種差別、外国人排斥および関連する不寛容に反対する世界会議」の通称。植民地主義を非難するべきものとする宣言を採択しました。