2019年8月31日(土)
軍事費の概算要求
敵基地攻撃能力保有へ
“戦場”の領域拡大
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防衛省が30日発表した2020年度軍事費の概算要求は、「いずも」型護衛艦の「空母」化やF35Bステルス戦闘機の導入など、専守防衛の範囲を逸脱した違憲の敵基地攻撃能力の保有・強化を本格化させる狙いを示しています。
加えて特徴的なのは、相手の射程圏外から敵のレーダーや通信に電波妨害をかける「スタンド・オフ電子戦機」の開発費用207億円を計上したことです。「効果的な電波妨害を実施することにより自衛隊の航空作戦の遂行を支援する」としています。現在、自衛隊が保有している電子戦機は、情報収集などを主任務にしていますが、「スタンド・オフ電子戦機」は遠隔地にいる敵に電波妨害をかける攻撃機です。
米海軍は空母艦載機部隊に電子攻撃機EA18Gグラウラーを配備し、敵地への先制攻撃を行う前に相手の防空網を破壊します。仮に空母化した「いずも」型護衛艦に短距離離陸・垂直着陸できるF35Bを搭載し、さらに「スタンド・オフ電子戦機」が一体となって支援を行えば、「いかなる海域からでも圧倒的な攻撃を行う能力」を持つことになります。
海上自衛隊による「いずも」の改修を想定した調査研究では「米軍の後方支援実施」を目的として明示しています。岩屋毅防衛相は、空母化した「いずも」型護衛艦に米軍機が発着艦することを認めています。米軍戦闘機が「いずも」型護衛艦で給油を受け、他国領土への爆撃で発進していくことが可能になります。
概算要求は、従来の陸海空に宇宙、サイバー、電磁波を加えた「領域横断作戦」を強調。新たな領域まで“戦場”を広げようとしています。
計524億円をつけた宇宙分野では、「宇宙利用の優位を確保するため」として、航空自衛隊に約20人の「宇宙作戦隊(仮称)」を新設。能力強化などに向けた費用40億円のなかには、「相手方の指揮統制・情報通信を妨げる能力」に関する調査研究が含まれています。
米軍は29日、新たな統合軍として「宇宙軍」を創設。中国やロシアに対して、宇宙空間での軍事的優位性を確保する狙いです。自衛隊の動きは、これを補完するものです。
陸上イージス関連経費計上
住民無視 秋田・山口ありき
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防衛省は2020年度軍事費の概算要求で、陸上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」導入の関連経費122億円を計上しました。内訳は、ミサイル垂直発射装置(VLS)の取得に103億円、人材育成や調査などのその他の関連経費として19億円となっています。
「イージス・アショア」配備計画をめぐっては、秋田県の陸上自衛隊新屋演習場(秋田市)、山口県の陸自むつみ演習場(萩市)を「適地」とした調査結果の数値に誤りがあるなど、ずさんな対応が明らかになり、防衛省は再調査を余儀なくされました。配備反対の世論は高まり、7月の参院選では、秋田選挙区で配備反対を訴えた野党統一候補の寺田静氏が勝利しました。
こうした事態を受け、防衛省は概算要求で「特定の配備地を前提とする経費は計上しない」としました。岩屋毅防衛相は再調査を「ゼロベース(白紙)で行う」(27日)と述べましたが、「秋田、山口ありき」で進めているのは明らかです。
生活や健康、環境への影響に対する不安や、「いまの平穏な暮らしを続けたい」といった声を無視し、トランプ米政権の要求最優先の姿勢に、住民らの怒りがさらに強まるのは必至です。
(柳沢哲哉)