2019年8月30日(金)
主張
「AI兵器」議論
実効性ある規制・禁止ルールを
人工知能(AI)を搭載する自律型致死兵器システム(殺人ロボット)の規制に関する国連の専門家会合が20~22日、スイス・ジュネーブで開かれました。
各国政府代表や専門家が参加した会合は、兵器運用にあたって国際人道法を順守することなどの指針を盛り込んだ報告書をまとめました。しかし開発を進める米ロなどの国々の強い抵抗で、法的拘束力のある規制には踏み込めませんでした。殺人ロボットの研究・開発が急速に進む中、実効性をともなう規制・禁止のルールづくりが急務です。
“野心に欠ける”と批判
自律型致死兵器システムは、人間の関与なしにAIが自ら攻撃目標を設定し、殺傷する兵器です。米国、英国、ロシア、中国などが開発を競い合っており、近い将来、実戦配備される懸念が高まっています。自律型致死兵器システムについては、国際人道法や倫理の面でさまざまな問題点が指摘されています。民間人殺害など国際法違反の攻撃が行われた場合にだれが責任を取るのか、AIの誤作動や暴走はないのかといったことから、人間の生死をめぐる判断をAIに委ねて良いのかという根源的な問題も問われています。
国連では非人道的な兵器を扱う特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の枠組みで2014年から対策を議論しています。今回の報告書はこれまでの議論をまとめたもので、自律型致死兵器システムに関する事実上初めての国際指針となりました。
指針は、▽今後ありうる自律型致死兵器の開発や使用を含むあらゆる兵器システムに国際人道法を適用する▽兵器使用の判断には人間が責任を持つ▽自律型致死兵器システムに基づく新たな兵器の開発や獲得の際にはテロ組織による獲得や拡散の危険を考慮する▽兵器の考案、開発、配備などの際に危険性の評価や緩和に関する措置も考慮する―ことなどを掲げました。
しかし、報告書に法的拘束力はありません。法的拘束力を持つ条約などによる規制や禁止の実現を目指す方針も明記されませんでした。米国やロシアなど開発を進める一部の国々が、規制や禁止は「時期尚早」だとして強硬に反対したためです。
会合で発言した国際NGOは報告書について「懸念にこたえていない」「野心に欠ける」と批判し、「法的拘束力のある新たな文書の交渉」を始めるよう求めました。出席した国の大半は何らかの規制や禁止を求めました。法的拘束力を持つ禁止条約を求めている国は、アフリカや中南米諸国を中心に約30カ国に上ります。米ロなどの立場は少数派です。日本政府は、禁止条約を求める主張はしていません。
禁止は国際社会の多数派
米国の非営利団体が2015年に呼び掛けた殺人ロボットの禁止を求める公開書簡にはこれまでに世界中から約3万人の科学者や技術者らが署名しています。実効性のある規制や禁止を求める声は国際社会の多数を占めています。
報告書には来年から2年間、規制のより具体的な内容についてさらに議論を重ねることが盛り込まれました。国際的な世論を受け止めて、各国政府は法的拘束力のある規制や禁止のルールづくりに踏み出すべきです。