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2019年8月18日(日)

デジタル課税で米仏“対立”

合意の動き 世論が力に

 法人税を逃れている情報通信(IT)企業への課税をめぐり、フランスと米国の対立が激しくなっています。フランスが独自に導入したデジタルサービス税への報復として米国はフランス製品への追加関税を含む制裁措置を検討中です。24~26日にフランスで開かれる主要7カ国(G7)首脳会議での議論のゆくえが注目されます。(杉本恒如)


 「われわれはマクロン(仏大統領)の愚行への対抗措置を間もなく発表する」

 7月26日、トランプ米大統領はフランスが導入したデジタルサービス税をツイッターでののしりました。「私は常々、アメリカのワインはフランスのワインよりよいといっている!」と述べ、仏産ワインへの追加関税を示唆しました。

 これに先立つ7月10日、米通商代表部(USTR)はフランスのデジタルサービス税の調査を始めたと発表しました。貿易相手国の「不公正」な慣行に対して大統領の判断で制裁措置を発動する「米通商法301条」に基づき、関税を含む制裁を検討します。USTRの声明は「フランスが米国に本拠地を置く技術企業を不当に狙い撃ちしている」との懸念を示しました。

 フランスのデジタルサービス税は、フランス国内でデジタルサービス(ネット通販とオンライン広告)を提供する企業の売上高に対して3%を課税するものです。ただし課税の対象は限定し、世界での売上高が年7億5000万ユーロ(約900億円)以上、仏国内での売上高が年2500万ユーロ(約30億円)以上の企業と定めています。2019年1月1日にさかのぼって適用します。

 フランスのルメール経済・財務相は「特定企業を狙ったものでは全くない」と、米国の主張に真っ向から反論。8月下旬のG7サミットで国際的な税逃れ対策の合意をめざす考えを示しています。

 英国もデジタルサービス税の導入を宣言しており、20年4月から実施する予定です。

 米国は英仏の独自課税に「懸念」を示しながら、国際的なルールづくりには肯定的な評価を示しています。米仏「対立」の裏で、デジタル課税の合意に向けた議論は進んでいます。背景には多国籍企業の税逃れ対策を求める国際的な世論と運動があります。

国際ルール化へ協調促す

 英仏両国がデジタルサービス税の独自導入を決断した背景には、経済協力開発機構(OECD)が主導してきた国際的な税逃れ対策(BEPSプロジェクト)の遅れがあります。インターネットを活用して国境を越えたサービスを提供する企業の税逃れ対策がまとまらず、各国国民の不満が高まっていました。これらの企業は海外に物理的拠点を置かずにサービスを提供できるため、従来の国際ルールでは適正に課税できません。

「暫定措置」表明

 英仏はデジタルサービス税を「暫定措置」と位置付け、「国際的な解決策が採択された瞬間に必ず撤回する」(ルメール仏経済・財務相)、「国際的な合意ができればそれに取って代わる」(ハモンド前英財務相)と表明しています。

 OECDも暫定措置を認めています。18年3月に公表した報告書で、各国・地域が暫定措置をとることに反対せず、措置に当たって「考慮すべき事項」を助言しました。

 6月8日に20カ国・地域(G20)の財務相らが開いた国際租税に関するシンポジウムで、ハモンド英財務相(当時)はデジタルサービス税導入の狙いを次のように説明しました。

 「この税を導入することで緊急感を示している。何かしなければいけないという国内の政治的プレッシャーもあった。国民からは税制に大きな不平等があるとみられている。その懸念に対応しなければいけなかった。もし行動を取らなければ、(国際社会が税逃れ対策への)合意を達成するまでにかなり時間がかかってしまう」

 国内の世論に応えるとともに、各国に国際協調を促す意図があるというわけです。ムニューシン米財務長官は同じシンポで英仏の独自課税に懸念を示しつつも、感謝の意を述べていました。

 「米国としてはフランスと英国の税制案に懸念を持っている。しかし評価したいと思う。両国が提案してくれたことに感謝したい。というのは、そのおかげで、このテーマがいかに緊急性をもったものなのかということが証明されたからだ」

必要性に「賛同」

 デジタルサービスを提供する企業への公正な課税を実現するために新しい国際ルールをつくる必要性について、ムニューシン氏は「全面的に賛同する」とも述べました。

 G20サミットに際して提言を行う八つの参画グループの一つであるC20(市民社会の組織)は4月に発表した「政策提言書」で「デジタル化は国際課税の枠組みの根本的欠陥を悪化させ、多国籍企業による租税回避を促進している」と強調。企業と高額所得者の適切な納税を確実なものにするための「包括的課税改革」を提案しました。

 国際的な世論と運動の高まりを背景に、多国籍企業の税逃れ対策をめぐる議論は129カ国・地域が参加する枠組みに発展しており、米国と日本も基本的な方向性に賛成しています。実効性のある公正な税逃れ対策を緊急にまとめる努力が、各国に求められています。


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