2019年6月22日(土)
ILO 暴力とハラスメント禁止条約
初の国際労働基準を採択
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【ジュネーブ=伊藤寿庸】創立100周年を迎えた国際労働機関(ILO)の年次総会は最終日の21日、労働の世界における暴力とハラスメントを禁止する条約と勧告を圧倒的多数で採択しました。190番目のILO条約であり、多くの女性を苦しめている職場などでの暴力・ハラスメントをなくすための初めての国際労働基準。暴力とハラスメントは人権侵害だと明確にした画期的な人権条約です。(関連記事)
条約案が提案された議場では、使用者、労働者、各国の代表として多くの女性が「だれも暴力とハラスメントにさらされてはならない」「変革を進めていこう」などと次々に発言しました。
条約は、暴力・ハラスメントを、物理的、心理的、性的、経済的な損害を与える受け入れがたい行動と幅広く定義。さらに保護すべき対象を、労働者だけでなく、契約の形態にかかわらず働く人々、インターンや見習い、雇用の終了した人や求職者なども含める包括的な内容となっています。
さらに「暴力とハラスメントのない労働の世界への権利を尊重、促進、実現」することを締約国に義務付け。暴力とハラスメントを、法律で禁止し、政策を立案し、予防や履行のための戦略や監視メカニズム、また被害者の救済の仕組みをつくることなどを求めています。
ILO「ハラスメント禁止条約」(要旨)
国際労働機関(ILO)の年次総会で21日に採択された暴力とハラスメントを禁止する条約の要旨は以下の通りです。
【前文】暴力とハラスメントのない労働の世界に対する万人の権利を承認。暴力とハラスメントは、人権侵害、機会均等への脅威であり、人間らしい仕事と両立しない。持続可能な企業とも両立しない。
【定義】「暴力とハラスメント」=ジェンダーに基づくものを含め、肉体的、心理的、性的、経済的な損害をもたらすか、意図した受け入れがたい行動・慣行。
【範囲】労働者、契約の形態にかかわらず働く人々、インターンなど訓練中の人、雇用が終了した人、ボランティア、職探し中の人、求職への応募者、使用者の責任を果たす個人などを保護する。
職場/休憩所や食事の場所、トイレ、更衣室/出張、訓練/仕事に関連するコミュニケーション/使用者の提供する宿舎/通勤・帰宅中などを含む。
【中核的原則】暴力とハラスメントのない労働の世界への権利を尊重、促進、実現。
予防・根絶のための具体化(法律で禁止、政策、包括的戦略、執行・監視のメカニズム、救済・支援、罰則、指針・教育・訓練、効果的な査察・調査手段)。
労働基本権、結社の自由、団体交渉権を尊重。
雇用や職業での平等の実現。
【保護と防止】加盟国は、労働の世界の暴力とハラスメントを定義し、禁止する法を採用すべき。
暴力とハラスメントにさらされやすい部門、職業、就労形態を特定し、その人たちを保護。
加盟国は、使用者側に防止措置を義務付ける法律を採用すべき。
【執行と救済】暴力とハラスメントの場合に、効果的な救済策、安全で公正な報告と紛争解決メカニズムを簡単に利用できるようにする。処罰のための措置をとる。ドメスティックバイオレンスの影響に対処。
【指導、訓練、意識啓発】職業安全衛生、平等・差別撤廃、移民などにかかわる各国の政策で対処する。
(ジュネーブ=伊藤寿庸)