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2019年2月11日(月)

科技予算が「過去最大」という政権のトリック

公共事業や軍拡も“混入” 集計方法を改変

 日本の科学力低下が問題となるなか、安倍政権は2019年度予算案の「科学技術関係予算」が過去最大規模になったと発表しました。しかし、増加の中身を精査すると、“過去最大”を演出する集計方法のトリックが見えてきました。


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 「研究開発事業の拡充等に努めてきた結果、1995年の科学技術基本法制定以降で過去最大規模となる4兆2377億円が計上された」

 平井卓也科学技術担当相は1月29日の会見で、1年間で4千億円近く科技予算を増やしたと発表。科技予算をGDP(国内総生産)の1%にする安倍政権の目標に「近づけるチャンスが来た」と力を込めました。

 しかし、科技予算で最も増えたのは、先進技術を活用した公共事業の予算です。国土交通省は前年度の1千億円から2千億円に、農林水産省も215億円から320億円に増額しました。

 公共事業が科技予算とされる背景には、内閣府が昨年策定した科技関係予算の新たな集計方法があります。新集計方法は、集計に含めるか各省で判断に差があった“科学技術を活用した事業予算”を集計対象に含めることを明確化。集計方法の変化が科技予算をかさ上げする大きな要因となっています。

 公共事業ではドローン(無人航空機)やICT(情報通信技術)、GPS(全地球測位システム)などの活用を想定しています。

 次に増額幅が大きいのが国立大学の施設整備費です(文部科学省予算、639億円増の947億円)。ただし、増額の大部分は、消費税増税対策として実施される「臨時・特別の措置」です。

 安倍政権の軍拡路線の影響も大きい。防衛省が新規に科技予算に登録したのは、対潜哨戒機(255億円)や護衛艦搭載用の対潜ソナー(151億円)、敵基地攻撃も可能な高速滑空弾など各種誘導弾(54億円)の開発費。兵器開発が科技予算を押し上げている形です。

 米国の宇宙戦略を補完する準天頂衛星システムの開発費(内閣府予算、108億円増の263億円)や、医療費抑制を狙ったマイナンバー活用推進(厚生労働省予算、カルテの電子化と合わせて575億円増の618億円)も増加要因になっています。

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“科技予算 過去最大”のトリック

「二重のかさ上げ」を駆使

 国立大学運営費交付金の削減や研究予算の相次ぐ改悪に大学関係者などから「日本の科学技術・学術研究体制全体が崩壊する」と批判が上がるなか、安倍政権が発表した科学技術関連予算の“過去最大規模”化。そこには二重のかさ上げが隠されています。

対象を拡大

 一つは、集計方法の変更です。2015年度までは科技予算に該当するかどうかの判断は各省に任されていました。内閣府は、各省でばらつきがあった「科学技術を用いた新たな事業化」や「既存技術の実社会での普及促進」も集計すべきだとし、16年度995億円、17年度893億円、18年度791億円を科技予算としてかさ上げしました。

 しかし、こうした新しい知識を創造しない事業は、国際比較される政府研究開発予算には入りません。

 内閣府は、各省の事業を一つ一つ科技予算に該当するか仕分けする作業を開始。新たに約500事業を科技予算に入れる一方、40事業を除外しました。内閣府は19年度予算案のかさ上げ分は計算していません。

 もう一つのかさ上げは、同じく18年度から始まった「科学技術イノベーション転換事業(イノベ転換)」です。18年度は1915億円、19年度も1247億円に上り、19年度の場合9割を国土交通省と農林水産省のドローン(無人航空機)やICT(情報通信技術)を使った公共事業が占めます。

 内閣府はイノベ転換について、既存技術を使っている事業に先進技術を導入するよう内閣府が働きかけ、各省が応じたものを科技予算として集計したものだといいます。

 しかし、国交省は16年には「ICT施工(土工)」の活用を打ち出しています。担当者は、ICT施工は工事現場の喫緊の課題である人不足から出発したもので、内閣府から言われて始めたものではないと指摘。ドローンを使った測量などICT土工の活用で、作業時間が平均31・2%削減されたと語ります。

 イノベ転換が始まる前年の17年度には対象の土木工事の約4割でICT土工を実施しています。先進技術の活用といっても実証実験ですらなく、確立している技術の活用を科技予算として数えているのが実態です。

比較困難に

 国交・農水両省とも、イノベ転換以前は公共事業予算は科技予算に含めてこなかったとし、それまでのICT施工などにかかった予算の実績も把握していないといいます。また、イノベ転換に登録した予算のうち実際にいくらが先進技術に使われたのかも「把握していない」(農水省)、「把握は困難」(国交省)だといいます。

 これでは、イノベ転換で科技予算が本当に増えたのかは検証できません。

 しかも、時間の経過や普及具合で先進技術の定義は変わってきます。内閣府の担当者は、技術の普及状況などをみながら「毎年カウントしていくしかない」といいます。

 時の政権の思惑で恣意(しい)的な解釈を可能にする余地があります。なにより、二重のかさ上げによって、これまでの科技予算との比較ができなくなったことは重大問題です。(佐久間亮)


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