2018年11月17日(土)
穀田議員の韓国徴用工質問
日本政府の主張 根拠失う
河野外相「個人の請求権が消滅したとは申し上げない」
外務局長「個人の慰謝料請求権自体は消滅していない」
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韓国大法院(最高裁)が新日鉄住金に韓国人の元徴用工4人が求めた損害賠償の支払いを命じた判決(10月30日)に対し、「日韓請求権協定に明らかに反する」「国際秩序への挑戦だ」などと非難してきた安倍政権の姿勢が根本から揺らいでいます。
14日の衆院外務委員会。日本共産党の穀田恵二議員が「徴用工問題について質問したい」と切り出すと委員室は緊張に包まれました。
91年8月27日答弁
穀田氏は、元徴用工の請求権について、「日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決している。判決は国際法違反だ」とする政府の姿勢に「重大な問題がある」と指摘。1991年8月27日の参院予算委員会で当時の柳井俊二外務省条約局長が請求権協定第2条は「個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではない」と答弁していることを示し、河野外相に「これは間違いないか」と迫りました。
河野氏は「(請求権協定によって)個人の請求権が消滅したと申し上げるわけではございません」と明言しました。
個人の請求権が消滅していないとすれば、元徴用工が新日鉄住金に賠償請求する実体的な根拠はあることになります。新日鉄住金に賠償を命じた大法院判決を「請求権協定に明白に違反」「日本企業に不当な不利益を負わせるもの」という日本政府の主張は崩れます。
河野氏が「日韓請求権協定において、請求権の問題は完全に解決された。個人の請求権は法的に救済されないというのが日本政府の立場」と述べたのに対し穀田氏は、「国と国との請求権の問題と個人の請求権を一緒くたにして、日韓請求権協定で全て解決済みだと、個人の請求権もないとしているところに重大問題がある」と批判しました。
92年3月9日答弁
穀田氏は、原告が求めているのは朝鮮半島に対する不法な植民地支配と侵略戦争に直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員への慰謝料だと指摘。日韓請求権協定の締結に際し韓国側から提出された8項目の「対日請求権要綱」の中に「慰謝料請求権は入っているのか」とただしました。
外務省の三上正裕国際法局長は当初、「そういう請求権も含めて日韓請求権協定で全てカバーされており、解決済み」と答弁。これに対し穀田氏は92年3月9日の衆院予算委員会で柳井条約局長が、日韓請求権協定上「財産、権利及び利益」というのは、「財産的価値を認められる全ての種類の実体的権利をいうことが定義されて了解されている」と述べ、「慰謝料等の請求」は「いわゆる財産的権利というものに該当しない」と言明していたと指摘。「請求権協定で個人の慰謝料請求権は消滅していないということではないか」とただしました。
続けて穀田氏は、日韓請求権協定と同年に制定された「大韓民国等の財産権に関する措置法」(財産権措置法)で韓国民の権利等を消滅させる措置をとったことに関連する柳井氏の答弁を紹介。同氏は「協定を締結いたしまして、それを受けてわが国で韓国および韓国国民の権利、ここに言っております『財産、権利及び利益』について、一定のものを消滅させる措置を取ったわけでございますが、そのようなものの中にいわゆる慰謝料請求権というものが入っていたとは記憶しておりません」(同前)と述べていました。
穀田氏は「個人の慰謝料請求権は請求権協定の対象に含まれていないことは明らかではないか」とたたみかけました。
三上国際法局長は「柳井局長の答弁を否定するつもりはまったくない」「権利自体は消滅していない」と認めました。
静まり返る委員室
ヤジひとつなく静まり返る委員室。穀田氏は、「個人の慰謝料請求権は消滅していない」とした「(外務省の)当時の答弁はその通りだと確認しておきたい」と述べました。
この穀田氏の質問によって(1)1965年の日韓請求権協定で個人の実体的権利は消滅していないこと、(2)韓国の「対日請求権要綱・8項目」に対応する請求権協定は個人の慰謝料請求権を含まず、慰謝料請求権は請求権協定によって消滅したとはいえないこと、(3)日本国内で韓国国民の財産権を消滅させた措置法も、慰謝料請求権を対象とせず、措置法によって慰謝料請求権は消滅していないこと―が確認されました。
元徴用工の慰謝料請求を認めた韓国の大法院判決が「請求権協定に明らかに反する」という安倍政権の言い分は、過去の外務省見解によって自ら破綻したのです。
「冷静に話し合え」
最後に穀田氏は、河野外相に「日韓基本条約及び日韓請求権協定の交渉過程で、日本政府が植民地支配の不法性を認めた事実はあるか」とただしました。
河野氏は「ないと思います」としか答えられませんでした。
穀田氏は、小渕内閣で官房長官を務めた野中広務氏が2009年6月27日付本紙インタビューで「多くの未解決の傷跡をみるとき、まだまだ日本は無謀な戦争の責任が取れていない。そのこと自体が被害者の方々にとって大きな傷になっていると思われ、政治家の一人として申し訳ない思いです」と述べたことを紹介。
今年が日本による韓国への植民地支配に対する痛切な反省とおわびを示した1998年の小渕恵三首相・金大中大統領による「日韓パートナーシップ宣言」から20年の節目に当たるとし、「日本政府が過去の植民地支配と侵略戦争への真摯(しんし)で痛切な反省を基礎に、この問題の公正な解決方法を見出す努力を強く求めたい」と提起。「日韓双方が、元徴用工の被害者の尊厳と名誉を回復するという立場から、冷静で真剣な話し合いをすることが極めて大切だ」と述べました。
日韓請求権協定第2条
1 両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。